米国のがん治療での研究・教育病院として名高いスローンケータリング記念がんセンター（Memorial Sloan-Kettering Cancer Center） は、仏サノフィの結腸直腸がん治療薬Zaltrap（一般名：ziv-aflibercept）を同病院での使用薬剤フォーミュラリーから除外することを決めた。同剤の価格が高く、費用対効果の観点からふさわしくないとの理由だという。同病院の幹部医師らが10月15日付、米紙「The New York Times」の意見ページへの寄稿で明らかにした。


Zaltrap は、サノフィが今年8月に米食品医薬品局（FDA）から承認取得をした血管新生阻害剤。成人の転移結腸直腸がんの適応で、FOLFIRI（フォリン酸、フルオロウラシルおよびイリノテカン）療法との併用下で用いることとされている。


寄稿では、Zaltrapの薬剤費を問題視した。1カ月間の平均的な薬剤費が同剤は、１万1063ドル。似通った作用機序の薬剤である、ロシュ/ジェネンテックのアバスチン（ベバシズマブ）の約5000ドルの約2倍と指摘した。2剤については、有効性・安全性は同程度で、用法用量はアバスチンの方が便利との見方を示し、Zaltrapを使用する理由が見当たらないとの考えを示した。


さらに、近年の抗がん剤の薬価が高いことについても言及。10年前は新規に登場する抗がん剤でも薬剤費が月4500ドル程度だったが、2010年以降は、薬剤費（中間値）は月10000ドルに上っているという。


米国は、もともと世界で薬価が一番高い国と言われているが、FDAが有効性・安全性が担保されれば、コストを考慮しないで承認してしまうシステムであることにも、寄稿では疑問を投げかけている。


英国では、高薬価の薬剤の場合、費用対効果の面からブレーキをかけるNICE（国立医療技術評価機構）のシステムがあるが、米国にはそのような組織やシステムがないことの欠点を示唆したものと思われる。


公的高齢者保険（メディケイ）においても、FDAで承認された薬剤の投与が可能で、民間保険でもほぼ同様と指摘。医師が作成する診療ガイドラインも有効性が焦点となっており、費用対効果の要素は薄いとの考えを示した。その上で、費用はもはや、患者の治療選択において、有効性と同様に重要な課題となっており、切迫した実態にあると理解を求めた。


◎がん患者の2％　疾患および治療が理由で破産とのデータも


そのような実態の一例として、抗がん剤を例に挙げ、2006年の調査結果から、薬剤費の支払いのために預金の全部あるいは一部を使い果たした患者が4分の1にのぼるとのデータを紹介。他の昨年調査データでは、がん患者の2%が疾患および治療が理由で破産したという。そのほか、がん患者の10人に1人は自己負担額が１万8000ドルに達していると報告されていることも紹介した。

指導的ながん専門病院であるスローンケータリング記念がんセンターとしては、今回の決定がMSKCCにとって非常に苦渋の選択だったことを明かしている。

今後の他院への影響に加え、自由市場の米国での動きであるだけに、製薬企業の新規薬剤の開発戦略への影響も注目だ。

なお、寄稿者は、Peter　B・Bach健康政策・アウトカムセンター長、Leonard　B・Saltz消化器腫瘍サービス部主任兼薬局・治療委員会議長、Robert　E・Wittes 医長の3名。Bach氏およびSaltz氏は、利益相反の観点から、ジェネンテックから顧問料を支払われたことがあることを明らかにしている。Bach 氏は、2009年2月に学術誌「New England Journal of Medicine」に薬剤の価格高騰とメディケアでのこれら薬剤給付の問題についての批判的な論文を投稿している。

【訂　正】本記事の見出しの製品名の記載に誤りがありました。正しくはZaltrapです。訂正します。（10月19日12:40　修正済）