マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃
地域包括ケア時代の大学病院の役割も大きく変わろうとしている。高度急性期医療を担いながらも地域とのネットワークを構築し、プライマリ領域での患者の受け渡しを円滑に行うシステムが求められている。昭和大学江東豊洲病院は2014年3月の開院時から「患者サポートセンター」を開設し、患者の声を活かす地域医療活動に着手している。本連載では、同病院の取り組みについて取材した。
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上條 由美 氏
昭和大学江東豊洲病院
副院長 眼科 |
的場 匡亮 氏
昭和大学大学院
保健医療研究科
(医療マネジメント) 講師 |
佐藤 正晃 氏
MC3.0研究所
主宰 |
患者サポートセンターの取り組みについて
佐藤 まず病院の紹介と患者サポートセンターについて教えてください。
上條 昭和大学江東豊洲病院(東京都江東区豊洲)は2014年3月24日に病床数300で開院した。地域中核病院としての機能を充実させるため、「患者サポートセンター」を設けた。患者サポートセンターは院長直轄で、私がセンター長を務めている。スタッフは看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、栄養士、事務職で構成し、銀行の窓口のようなイメージで当院の全診療科を受診する入院患者さんに、検査や手術の説明などを一括して行っている。
佐藤 どちらかというとカフェテリアのような感じですか。
上條 そうです。患者さんのプライバシーを保つために個室も用意した。施設完結型医療から、地域完結型医療への役割分担が求められている中で当院も平均在院日数が短くなり、注意しないと患者さんも私たちの目の前を通り過ぎるようになってしまう。こうした環境変化を踏まえ、我々は当院を受診した患者さんの情報をいち早くキャッチし、適切な治療を行ったうえで、次の段階の医療サービスを提供する施設に転院させるシステムを動かそうとしている。
佐藤 入院患者さんの様々な相談を受付けているのですね。
上條 今までは手術が終わってから患者さんの転院先を探すのが一般的だった。いまは、入院前から患者さんの情報をキャッチしているので、早く退院調整に入ることができる。また院内は電子カルテを導入し、患者の情報を院内で共有しているので、病棟スタッフにも情報がいち早く回るようになっている。
佐藤 やはり電子カルテがキーな訳ですね。
上條 そうですね。電子カルテの存在は大きい。紙のカルテでこうした取り組みは難しい。いつでも、どこでもスタッフが情報にアクセスできるというのが強みです。最近は電子カルテを導入する病院も増えているが、今後の医療政策の方向性である「地域とのつながり」をしっかり持つインフラとして、これは重要だと思う。私はこうした地域とのつながりを「地域連携学」のような学問として確立させても良いのではないかと考えている。
佐藤 ということは街づくりに近い感覚なのですか?
上條 本当の地域医療は急性期病院が中心ではない。地域の開業医から送られてきた患者さんを一時的に受け取って、また地域に帰すという発想が重要なのだと思う。
佐藤 患者さんの受け渡しで地域のハブ機能を担うということですよね。このシステムを構築する上で一番苦労したところはどこですか。
上條 個々の診療科でやっていたことを、全部一つの窓口にまとめることで苦労した。しかし、慣れてしまうと、これが安全であることを病院職員全員が認識するようになる。それぞれの業務の効率化にもつながったとの実感を各自が持ったようだ。
佐藤 情報を可視化することで効率があがったことはありますか。
的場 一つは退院時調整に入るまでの日数が短縮したこと。入院前から調整に入るので、ソーシャルワーカーも準備できるし、患者の家族も手術前から退院後のことを知ることができるのは大きいと思う。
上條 患者さんもご家族も大学病院を退院して次のステップの治療を別の医療機関で行うということを早めに認識できることは大きい。
佐藤 昭和大学江東豊洲病院と地域との連携はどのようにやっているのですか。
上條 まだ施設数は多くない。まずはお互いに訪問し、こちらの施設を見て、知ってもらって、こちらの顔を見せることで連携のステップを深めている。実際は、患者が転院すると決まった段階で転院先の医療施設と情報を共有化する。まだ電子カルテのような電子情報による共有化にまで至っていないが、将来的には地域の医療機関がこちらの情報を覗き込めるようなシステムを導入したいと考えている
佐藤 薬剤に関する連携はどうしているのですか。
上條 最近はジェネリックが増えており、全てを把握することは難しい。とは言えサポートセンターで患者さんの持参薬をしっかり把握し、中止薬がある場合は即座に薬剤師に相談する。ハイアラートなものは薬剤師を通じ、確認や中止の話を患者さんにするようにしている。やはり薬剤師がいないと回らない。一方で、これまでのように入院してから大量の薬剤をいちいち仕分けしていると、それだけで時間が無くなってしまう。通常は一日に病棟で受けられる患者の数に限りはあるが、このサポートセンターの設置によりそうした制限をなくすことができた。
佐藤 製薬企業のMRは、このスキームにどうアプローチすべきでしょうか。MRにこうあって欲しいということがあればお願いします。
上條 最近は外来化学療法の頻度が急激に増えており、これに伴って薬剤師の役割も大きくなってきた。外来化学療法となると、その日の患者さんの状態や様子などをみて、調剤し、投与する。これだけでも薬剤師の患者さんへの関わり方が違ってくる。その点で言えば製薬企業のMRも薬剤師に対し、これまでと違った情報のアプローチが求められるのだと思う。薬剤師はハイリスクな抗がん剤を投与するだけでなく、退院後の副作用まで予測しなければならないとすると、薬剤師への情報提供はこれまで以上に必要となろう。
佐藤 サポートセンターでは、患者の声を集めてスタッフ間でディスカッションする機会を設けたりしていますか。
上條 あります。患者が様々なことを訴えていくことが多いので、すべて拾っている。患者サービス委員会もここでの声を重視している。まさに経営的にも重要だ。患者さんも主治医から手術すると言われたときに、なかなかその場で自分の意見を言うことは難しい。診察室を出た後に、ゆっくり考え、ここで相談することに大きな意味があると考えている。医師の目の前で言えない声を拾う部署としてもサポートセンターは重要な役割を担っている。
的場 一方でサポートセンターは医療連携の機能も持っているので、連携先の診療所の医師からの声もここに入ってくる。医師から電話が入った時のバックヤード的な機能も備えており、その内容も毎日集計している。
上條 診療所の医師から紹介依頼があった場合には、5分以内に回答するようにしている。15分を超えた場合は、受診の有無に限らず、なぜ返信まで時間がかかったかを記録して、地域連携の委員会でフィードバックするようにしている。
佐藤 どんな場合に返信が遅れるのですか。
上條 複数の診療科に跨っているときなどは2診療科に確認するために時間を要することもある。受診科選定も行っているので、そこに時間を要することが多い。
佐藤 サポートセンターについて十分理解することができました。地域医療の扇の要としての機能を有し、発揮されていることが分かりました。上條先生、ありがとうございました。
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