
東京都医師会の尾﨑治夫会長は1月13日の定例会見で、2026年の抱負について、「高齢者が孤立しない形で24時間見守る体制を作る」と意欲をみせた。高齢者の単身、高齢夫婦などの世帯が増加するなかで、地域住民に安心をもたらす医療提供体制を構築することで、軽症の高齢者による救急要請が減ることにも期待を寄せた。このために、東京都ではコロナ禍の経験を踏まえ、各地域の実状を踏まえた体制構築を進めていることも紹介した。尾﨑会長は、47都道府県で置かれている実状が異なることを指摘。「コロナ禍と同様、各都道府県が真剣に考えながら、必要なものを国に要望していくという形態がいいのではないか」と述べ、地域医療の現場から国に声を届け、実状に合致した医療政策を立案する必要性を強調した。
◎重点施策は地域包括ケア、救急医療、予防医療の3本柱
東京都医師会は、重点施策として、①地域に必要な医療介護を守り、地域包括ケアネットワークのさらなる充実を図る、②救急医療と災害への対応強化、③予防医療の推進により、 75歳まで誰もが元気に働ける社会を目指す―の3本柱を掲げる。
東京都は少子高齢化が進む中で、高齢者の独居や高齢夫婦などの世帯が増加するとみられている。これまで、訪問看護・介護を活用しながら家庭内で要介護者を支えてきたが、「家族の中で支えあうということが難しい状況になってくる」と説明。人口構造の変化を踏まえた地域医療提供体制を再構築する必要性を指摘し、「24時間、そういった方々をしっかり見守っていく体制を作らなければならない」と力を込めた。
東京都医師会では、生活の場を拠点とした、医療・介護・福祉・行政が協働して予防と治療を行う“治し、支える医療”の実現を目指す考え。この一つの動きがコロナ禍での経験を踏まえた在宅医療の体制強化に向けた取組みだ。地区医師会主体の在宅医療24時間体制確保と、オンライン診療などデジタル機器を利用した在宅医療の取組みが中心で、約7割の地区医師会が事業に参画しているという。26年度からは都の事業から市区市町村事業へと移行するが、「新たな取り組みが始まるが、継続してしっかりやっていきたい」と強調した。
◎地域包括ケア構築で軽症の高齢者の救急要請減少に期待も
こうした地域医療提供体制の構築による救急医療にプラス効果が波及することにも期待を寄せる。救急要請93万人のうち高齢者が約6割とも言われている。軽症患者が救急要請を行うことも指摘されている中で、尾﨑会長は、「高齢者が一人、もしくは夫婦でいると、“ちょっとおかしいな”という時に不安になって、つい救急車を呼んでしまうケースが非常に多いと聞いている。24時間見守る体制をしっかり作れば、そういったこともある程度防げるのではないか」と期待を寄せた。
あわせて、循環器疾患などを中心とした救急医療提供体制の構築にも力を入れる考えも示した。なかでも、急性脳梗塞に対する血栓回収療法に対応できる施設数はまだ十分ではないとして、整備を進める考えも強調した。
◎地域医療の現場からの要請に基づく国の支援の必要性を強調「47都道府県一律は難しい」
尾﨑会長はこうした体制構築に向けた国の支援の必要性を強調した。国からの支援は、診療報酬・介護報酬がベース。東京都や東京都医師会が必要な事業については都の予算も活用されているが、「東京都医師会から国に要望をして、必要な財源を調整していくことが今後は大事なのではないか。国が“東京都にはこれくらい必要だから”というのではなく、地域医療の現場から必要な医療、必要な介護、必要なよう財源を出して、そこに日本医師会も加わって検討してもらうことが必要だ」との考えを表明。「47都道府県一律に、“日本として、今の超高齢社会ではこういうやり方でいきましょう”ということは難しいと思う。むしろコロナ禍と同様に、各都道府県が真剣に考えながら、必要なものを国の方に要望していくという形態になるのが今後はいいのではないか」との考えを示した。
◎予防医療は「健康で長生きする人を多く作ることが目標」 財源論は「第二」
予防医療の推進の重要性にも言及した。「予防に力を入れ、病気になるのを防ぐことが今後は非常に重要ではないか」と表明した。生後から幼少期、高齢者までワクチン接種を推進するほか、学校などと連携した健康教育の強化を通じて健康リテラシーを高める必要性を指摘。検診の受診率向上や、フレイル・認知症予防の重要性にも触れた。
“セルフメディケーションの推進”としてはOTC類似薬をめぐる議論も注目を集めるが、「セルフメディケーションの前にセルフケアがある。セルフケアの大前提としては、自身である程度判断できる健康リテラシーを持つ必要がある」との考えを示した。風邪をひいた際の鼻水や熱などの症状をチェックし、OTCを活用するか医療機関を受診するかを推奨する“チャート”のようなものを医療関係団体などの協力の下で作成するなどの取組みを開始しているとして、「段階を踏んでやるということを東京都医師会ではやろうと思っている」と述べた。
「予防についても、財源や経済的な面で医療費が浮くということも最終的にはあると思うが、都民一人ひとりがもっと自分の体や健康に関心を持ち、“今のままではダメだから、ちゃんと健康診断を受けよう”、“健康診断の結果をほったらかにしないで気を付けよう”と行動することで、ただ長生きなのではなく、元気で長生きできる人をどんどん作っていきたいということが第一の目標だ。その結果として、予防により例えば、病気になる人が減って、結果として医療経済的にもいい効果があったということを僕は目指したい」と強調。「あくまで医療経済的な面から、予防をやって病気をなくすんだというのではなく、一人ひとりが元気で暮らせる、そういう世の中を作りたい。それが第一だ。医療財源の話は、僕は第二だと思っている」と力を込めた。
◎26年度診療報酬改定「元気いっぱい、前向きまでは残念ながら至らない」
2026年度診療報酬改定の改定率は本体プラス3.09%とすることで決着したことについても触れた。尾﨑会長は小池百合子都知事が昨年11月に上野賢一郎厚労相宛てに診療報酬本体約10%の引上げを求める要望書を提出したことに触れながら、自身の見解を表明。「歴史的な流れからすれば画期的」、「現実問題として引上げには感謝する」と述べたうえで、「決して、これで病院や診療所がようやく一息付けて、26年度の色々な取組みに元気いっぱい、前向きにいくところまでは残念ながら至らないのではないか」との見方を示した。診療所の外来診療などの議論を注視する姿勢を示し、「これから冷静に見極めていきたい」とも述べた。
物価が高騰し、他業種がベースアップに取り組むなかで、「医療・介護業界はどうしても後手後手に回らざるを得ない、いまの診療報酬・介護報酬の仕組みがある。これからどうなっていくのか、注目していかなければいけないと思っている」との考えも示した。