日本製薬工業協会（製薬協）の中山讓治会長は１月27日、都内で記者会見に臨み、イノベーションを生み出すための「ヘルスケアイノベーション創出エコシステム」の構築にアクセルを踏む考えを示した。４月を目途に一般社団法人未承認薬等開発支援センターを改組する方針で、製薬協と協力して業界主導型のプロジェクトを機動的に進めたい考えだ。こうした取り組みを通じ、好循環を生み出し、国民の健康寿命の延伸と経済成長を可能にすると強調した。全世代型社会保障の議論も進められているが、中山会長は、ゲノムをはじめとしたビッグデータやＡＩ（人工知能）の活用で、「将来のために様々な打ち手を打てば見通しが明るい。ほかの投資よりも成果が期待できる投資になる」と表明。イノベーション創出に向けた環境整備と、薬価を含めたイノベーションの適切な評価について、改めて理解を求めた。

昨秋から全世代型社会保障の議論が本格化している。中山会長は、こうした議論の前提は「人々が健康に働くことができること」と指摘。社会保障制度は「大きなインフラ」との考えを示し、「道路やトンネルと同じように、きちっとメンテナンスしていかないといけない。2040年以降、若い人が活躍していくためのプロセスとして考える必要性を伝え、しっかり議論していきたい」と述べた。医薬品業界としてもポリファーマシーについて会員企業向けに研修資材を配布するなど、自ら効率化に取り組んでいる姿勢も説明した。そのうえで、全ゲノム解析データベースの構築など環境整備も進められているが、改めて薬価上の評価の重要性を強調した。

製薬協は、健康寿命の延伸と経済成長を生み出す好循環を構築することを目指し、2019年１月に「政策提言2019」をまとめた。業界もイノベーション創出に精力的に取り組むなかで、この日の会見では、政策提言2019の進捗を中山会長は報告した。その一つが、ヘルスケアイノベーション創出エコシステムの構築だ。既存法人を改組し、機能を追加する新法人は、製薬企業の有するデータベースやアセット、知財の保有・管理、外部との契約、企業主導のプロジェクトマネジメントなどを行う。中山会長は、複数の企業がプロジェクトに参画するうえで、「資金やデータ、知財の集約管理、契約の一本化が必要」と指摘。製薬協と法人とが連携することで、こうした取り組みがスピードアップすることに期待感を示した。

◎ToMMoとパイロット研究実施へ

このほか、予防・先制医療ソリューションの早期実用化に向け、東北メディカル・メガバンク（ToMMo）と製薬協で、小規模・短期間のパイロット研究を実施し、その後本研究を実施する予定であることも報告した。３月頃の契約締結を目指す。より詳細な研究計画立案に向けて、国立高度専門医療研究センターと秘密保持契約を締結する予定で、20年度中の研究開始を目指すことも説明した。

◎研究開発税制　総額型の時限措置の延長が大きなテーマ

今年末には2021年度税制改正大綱の議論が本格化することになる。中山会長は、20年のテーマとして、「研究開発税制」をあげ、「総額型の時限措置の延長が大きなテーマになる」と見通した。そのうえで、研究開発税制は「研究開発投資に対しての支援策になっている。日本経済全体にとっても研究開発を進めていく上では効果のある施策だ」との考えを示した。19年度税制改正大綱では、ベンチャーやアカデミアに加え、大企業との連携で税制優遇を受けられるよう、「オープンイノベーション型」が拡充された。中山会長は、「より活用できるように、政府と簡略化・効率化について話し合ってまいりたい」と述べた。

22年度薬価制度改革に向けての議論もスタートするが、「長期的には社会的価値の認識を拡げたい」と強調した。中山会長は、医薬品による病態の改善で、社会復帰や復職、労働生産性の向上に寄与すると説明。「経済・社会の支える側を増やす、あるいは医療資源消費の効率化につながることで、社会保障の持続性に寄与することができる医薬品には、その価値について一定の評価することが必要」と強調した。製薬協では、医薬品の多様な価値を“見える化”することを主題に、アウトカム指標・測定方法などに関する研究・調査を実施していることも紹介した。中山会長は、「国全体が少子高齢化、社会保障の増大に直面する。透明性を高め、国民が価格に納得できるような制度にしてもらいたい」とも要望した。