財務省主計局は10月８日の財政制度等審議会財政制度分科会に、2021年度に実施される毎年薬価改定について、「初年度にふさわしい改定を実現する」と明記し、既定路線通り実施する姿勢を示した。対象範囲には「先発医薬品」を名指しし、「乖離額」に着目し、全品目改定を視野に入れた。現在２％ある調整幅についても、「合理的な根拠（エビデンス）を含め、在り方を見直すべき」と言及した。さらに、国民負担軽減の観点から、薬価調査を待たずとも市場実勢価格の動向が「見える化」できる公的統計の整備と精度向上を求めた。毎年改定を超越した随時改定への布石との声もあがっている。

◎毎年薬価改定の対象範囲　先発品も狙い撃ち

財務省主計局がこの日の財政審に提出した資料では、2021年度に実施する毎年薬価改定は既定路線として、焦点となっている改定の対象範囲に早くも言及した。具体的には、「国民負担の抑制を最大限実現する」観点から、「形式的な乖離率や品目数のみではなく、乖離額に着目すべき」と指摘。薬価が高いために相対的に乖離率が小さくなる傾向のある「先発医薬品も幅広く対象品目に含めるべき」として、全品改定を視野に入れる必要性を強調した。

実際、後発品は品目数では半数超の55.0％を占めるが、金額ベースでは14.0％（１兆3000億円）にとどまる（2015年９月データ）。これに対し、後発品のない先発品の品目数は10.7％（2126品目）だが、金額シェアは48.0％（４兆4000億円）。なかでも、新薬創出等加算品は799品目だが、金額ベースでは２兆7000億円まで膨らむ。長期収載品も品目数は8.1％だが、金額ベースでは30.0％（２兆8000億円）とのデータも示した。

◎「調整幅」合理的根拠を含めてあり方を見直すべき

さらに、市場実勢価格の加重平均値に対して上乗せを行っている「調整幅」にも言及。「流通安定のための最小限必要な調整比率とされているが、一律に２％とされたまま、約20年間見直しがされておらず、その合理的な根拠（エビデンス）を含め、あり方を見直すべき」とした。会議でも、委員から「国民負担軽減の余地があるのではないか」との意見があがったという。

◎公的統計の改善で市場実勢価格を把握する手法確立へ　公的統計を改善

また、薬価改定が２年に１度であるため、市場実勢価格が下がっているにもかかわらず、患者負担や保険料が高止まりをしていることも問題意識を示した。財務省主計局は、毎年薬価調査・毎年薬価改定を機に、「医薬品の価格を巡る公的統計の改善を図り、薬価調査を待たずとも市場実勢価格の大まかな動向が“見える化”されるようにすべき」と表明した。具体的には、生産者段階における「薬事工業生産動態統計」について、各品目の販売単価（生産者価格）を月次で公表すべきというもの。これを利用すれば、「国内企業物価指数」の統計精度の向上にもつながると主張している。一方で、卸売段階では、「企業向けサービス価格指数」の参考計数として四半期ごとに公表される「卸売サービス価格指数」について、調査先企業の必要な協力を得て、内訳としての医薬品卸売を公表できるようにすべきと提案した。

こうした公的統計を整備し、精度を向上することで、現行の薬価調査以外の手法として市場実勢価格のトラッキングができ、市場実勢価格の見える化（可視化）につながり、結果的に国民負担の軽減にも役立つとの見方だ。ただ、こうした手法は薬価の随時改定への布石との見方もあるところだ。

◎製薬業界は与党議員に薬価中間年改定阻止に理解求める活動を展開中

毎年薬価改定（薬価中間年改定）をめぐっては７月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針（骨太方針）に、「2021年度の薬価改定については、骨太方針2018等の内容に新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」と明記されている。これに対し日薬連など製薬業界は、骨太方針決定後、「薬価改定は困難な状況にあり慎重な対応をお願いしたい」と明記した要望書を携え、与党議員にロビー活動を展開するなど、毎年薬価改定阻止への構えを崩していない。菅首相がこの問題は安倍前政権からの継続事項として既定路線に掲げているだけに、製薬業界も厳しい対応が年末まで求められそうだ。