日本イーライリリーは11月18日、「みえない多様性」を理解し、より働きやすい職場づくりを目指した啓発ツールを有志企業などと共同で開発したと発表した。「みえない多様性」とは、片頭痛のように症状の認知が低く、上司や同僚らに症状が理解されないことで起こる当事者の不安、支障、働きづらさに着目したものと説明。周囲の理解を促進するためには、当事者とともに議論することが特に重要との考えを示し、ツールとして、ワークショップ時に使えるカードゲームをあげた。同社は、「片頭痛に限らず、あらゆる健康課題を抱える人、その周囲の人、働く全ての人が『みえない多様性』を理解し、健康で働きやすい職場が広がる社会を目指していく」としている。

多様性（ダイバーシティ）には、「目にみえる多様性」と「みえない多様性」があると同社は説明する。みえる多様性には例えば性別や人種があり、みえない多様性には例えば能力や価値観がある。今回開発したツールは、「健康課題に紐づくみえない多様性」を知るためのものとした。

同社コーポレート・アフェアーズ本部の山縣実句氏はこの日に開いたウェブ説明会で、健康課題に紐づくみえない多様性を解説した。症状の可視化が難しく、周りの人から症状や辛さの理解度が低い疾患によって起こる当事者の「不安、支障、働きづらさ」を「みえない多様性」と定義づけた。例えば「みえる多様性」には、疾患がよく認知されていたり、症状がわかりやすい▽がん（命に関わるケースがある）▽インフルエンザ（隔離を推奨）▽骨折や喘息（見た目に症状がわかりやすい）――を例示した。一方で、「みえない多様性」のひとつに片頭痛をあげた。

ウエブ説明会には、片頭痛の患者会「頭痛医療を促進する患者と医療従事者の会（JPAC）」から50代女性も登壇した。片頭痛で、「仕事を休む」と伝えても職場で理解されなかったり、発作時に耳が聞こえづらくなったりして仕事に支障が出たりしたため、症状を我慢して仕事をしていた体験などを紹介した。そのうえで、当事者でなければ症状がなかなか理解されない片頭痛などの疾患を正しく理解される社会と、具合が悪い時には気兼ねなく休める社会が実現することに期待感を示した。また、「『話せる場所』の大切さ」も指摘した。

■健康理由で午前休、でも飲み会に参加。どんな人？

啓発ツールは日本リリー、アシックス、パソナなど７社のほか、自治体、医療従事者、健康経営専門家による「“みえない多様性”に優しい職場づくりプロジェクト」が開発したもの。同ツールは18日から日本リリーのウェブサイト内で公開した。

ツールは主に、▽職場で健康課題に取り組むためのポイント▽先進事例の紹介▽ワークショップ／付録カードゲーム（ストーリーカード）――の３つで構成。カードゲームには、「健康理由で午前休をとったのに飲み会に参加している。どんな人なのだろう？」とのシーンカードが含まれている。このカードを活用したディスカッションを通じて、参加者が想像を膨らませ、「頭痛。もしかしたら『頭痛』が関係しているかもしれない。どんな原因なのだろう？」とのリーズンカードから、疾患理解を深めるとともに、職場のみえない多様性を知るきっかけになるよう工夫した。

■企業の成長にもつながる

監修者のひとりである竹島多賀夫・富永病院副院長（脳神経内科部長、頭痛センター長）は、「職場と頭痛の関係は身近でありながら、『我慢して働く』ということが当事者のQOLを大きく阻害するとともに、職場全体で見た時の労働生産性にも影響がある」と指摘。「今回のツールキットが働きながら健康課題で悩む人、その取り組みを考える人にとって少しでもヒントや気づきを提供できるものになっていることを願う」とコメントした。

もうひとりの監修者であり、健康経営研究会理事長の岡田邦夫氏（医師）は、「組織の中には、健康課題を抱える当事者が持つ潜在的な能力を生かしきれていない現場が現実問題として存在する」と指摘した。「働くすべての人にとって働きやすい職場環境が実現すれば、働きがいが出て、従業員満足が高まり、社員の成長を促すことになる。結果として企業の成長にもつながってくるというところは見逃してはいけない」とコメント。みえない多様性を理解することが、結果として社員や企業の生産性向上につながるとの見方を示した。