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国立がん研究センター AI開発支援プラットフォームを富士フイルムと共同開発 21年度に上市へ

公開日時 2021/04/21 04:50
国立がん研究センターと富士フイルムは4月16日、プログラミングなどの専門知識がなくても医師や研究者が自身で画像診断支援のAI技術(ソフトウェア)を開発できる「AI開発支援プラットフォーム」の共同開発を公表した。プラットフォームは、国立がん研究センターの研究成果をもとに、富士フイルムの画像診断システムに関する知見を最大限に活かした研究基盤システム。アカデミアの成果の社会実装という観点から本プラットフォームの研究活用と有用性の検証を進め、2021年度中の上市を目指す。

◎臨床視点のアノテーション・ツールに 簡易な操作で訓練できる機能付加


電子カルテが普及した現代、日々蓄積される診療テキストや医用画像、検査データなどの 膨大な診療データの潜在的利用価値は大きいが、診療データの多くは不均質で構造化されておらず、直ちに医療AIの研究開発に用いることが困難だ。そのため、医療AIの開発サイクルにおいては画像等のデータに正解情報を付与し、データを非構造化から構造化へと変換するアノテーションが重要となるが、それには多忙な臨床医の参加が必要となり、医療AI開発で大きなボトルネックとなっていた。加えて、その後の学習過程においても個別ツールを使いこなさなければならないなど、一連の開発プロセスを実行するには高度な工学的知識が必要である。

今回、国立がん研究センターと富士フイルムが共同開発したAI開発支援プラットフォームは、国立がん研究センターにおいて臨床医視点で開発されたアノテーション・ツールを同プラットフォームに組み込み、使いやすくすることにより、アノテーションやその管理に医師が費やしていた膨大な時間を削減できる。また、プログラミングの知識を必要とせずにAIモデルを簡易な操作で訓練できる機能などを付加し、これまで画像診断支援AI技術の研究開発に要していたソフト・ハード両面での環境構築、学習モデルの設計に必要な高度な工学的知識の習得が不要となる。これらにより、さまざまな障壁があったAI技術の活用に医療機関等が取り組みやすくなり、画像診断支援AI技術の研究開発に弾みがつくことが期待される。

◎工学的知識なしでAIモデル開発 小さな病変を迅速に検出


共同開発の記者会見では、国立がん研究センター中央病院放射線診断科の三宅基隆氏が「放射線診断医がプログラミングの知識を用いずに肺がんの診断支援AIモデルを作成するまでの道のり」と題して講演。同プラットフォームにおけるアノテーション・ツールについて、日常の臨床業務の延長線上でアノテーションできるほか、「画像上の関心領域だけでなく、画像診断時に参照する周辺臨床情報を含めてアノテーションできる仕組みが提供されている。また、医療AIの研究開発に要求される高品質なアノテーションを担保するために、アノテーションを系統的に複数回チェックすることも可能だ」と特徴を説明した。

また、高度な専門知識を要するコンピュータのリソース管理や学習モデルの訓練・評価の機能が、わかりやすいインターフェイスで提供されており、 診断支援AIの訓練の開始から評価までを直感的な操作で実行できる。さらに三宅氏は訓練したAIモデルによる推論結果をすぐに確認し、最適な学習条件を効率的に探索可能と紹介。探索した学習条件を加えていくことで、腫瘍本体は良好に検出したまま、血管を腫瘍と誤認識していた領域を縮小・消失させるなど、学習モデルの性能アップを図れるといった事例を示した。「今回は腫瘍検出のモデルのみだが、われわれの持つデータベースなどを用いて色々なモデル作成に活用されていくと考えている」と展望した。

続いて脳脊髄腫瘍科の高橋雅道氏が、AI開発支援プラットフォームを用いて原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍を頭部MRIから検出するためのAIモデルの開発経験について説明。一例として、234例の原発性脳腫瘍の訓練用データセットを用いて、原発性脳腫瘍に関連して出現する造影領域と、がん細胞が存在する浮腫領域のそれぞれを検出するAIを開発し、そこにまだ学習されていないデータを入れたところ、造影領域、浮腫領域のいずれに対しても高い精度で自動的な検出が可能になったという。

「これが実際の脳腫瘍の臨床データと紐づけられた状態でプラットフォームがつくられたということは極めて大きい。原発性は病理学的には150種類くらいに分類できるが、そのなかでどの腫瘍なのか予測することにも応用できる」と髙橋氏は評価。また転移性脳腫瘍は小さいと放射線療法で治療することも可能だが、市中の医療機関では見逃しも少なくない。「当プラットフォームは小さな病変でも早期に発見できるような性能を示している。他医療機関への普及により、新たなデータが加わることでさらに新しいものがつくられていくのではないか」と期待を述べた。

◎医療AIの精度向上と普及目指す

今後は国立がん研究センター内において同プラットフォームの検証や、複数の研究テーマにおいてその活用を推進し、同時に富士フイルムは多くの医療機関や研究機関に提供可能な「AI開発支援プラットフォーム」としての製品化を進めていき、2021年内には上市する予定という。将来的には両者の共同研究により、世界最先端の医療AI技術の社会実装を加速させていく構えだ。
 これまでも医療用のアノテーション・ツールは開発されていたが、必ずしも最適化されたものではなく、がん領域で膨大かつ質の高い臨床情報・知見を持つ国立がん研究センターが臨床視点で同ツールをつくり、それをプラットフォームに組み入れたことにより、格段にデータの質とAI診断の精度が向上した。そして医療AIの開発スピードが速くなり、さまざまな疾患領域でAI診断の開発が展開できることが期待される。

国立がん研究センター研究所長の間野博行氏は、「AIの専門家でない医師が自分の領域で必要とされるAIを開発するということが現実になり、またアノテーションもはるかに容易になるので精度の高い医療AIが広い領域に対して、しかも簡便につくれる。当プラットフォームの開発がAIの全体的なマーケットを推進する意味で意義は大きい」と総括した。
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