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【World Topics】 アデュカヌマブとメディケア

公開日時 2021/06/17 04:52
エーザイと米バイオジェンが共同開発したAduhelm(一般名:アデュカヌマブ)がアルツハイマーの治療薬としてFDAの承認を得た。1年分の処方価格の見積もりは$56,000である。

世界初の治療薬の承認は患者にとっては待ちに待った朗報だ。だが、推定600万人といわれる米国のアルツハイマー病の大半が65歳以上高齢者であり、高齢者医療保険メディケアの加入者であることから、米国内有識者の議論と懸念は、これによって予想される費用負担・医療保険価格の高騰に集中しており、メディケアを所管するCMS(the Centers for Medicare and Medicaid services)の動きに注目が集まっている。

メディケア加入者のうち何人がAduhelmを服用するかを正確に見積もることは容易ではないが、カイザー財団の試算では、2017年にアルツハイマーの治療薬を服用していたメディケア加入者約200万人のうち4人に1人(50万人)がAduhelmを使用すると低めに見積もっても、費用総額は約29ビリオンドル。使用する患者数の予測をバイオジェンが下方予測として見積もっている100万人と仮定すると、費用は57ビリオンドルを超える見込みだ。

高いコストを負担することになるのはペイヤーである連邦政府だけではない。処方薬の80%を負担する政府に対し、患者の自己負担は20%だから、Aduhelmを服用する患者の自己負担額は単純計算で年間$11,500となり、単品で医薬品費の年間上限を超えてしまう。さらに、コストの高騰は単に当該の患者だけでなくメディケア加入者2400万人全員に等しくコスト・シフティングされる事になる。言うまでもなく、結果は保険のプレミアムの高騰である。

思い起こされるのはC型肝炎の革新的治療薬がメディケアに導入された際の議論である。 2014年のメディケアのC型肝炎治療薬の費用総額は、前年比15倍以上に当たる総額4.7ビリオンドルであった。12週間1クール$84,000であったソバルディに総額3ビリオンドル超が、後発のHarvoniには10月から12月の3ヶ月だけで670ミリオンドルが支払われたほか、合併症の治療薬や旧薬の継続使用料等がコストを押し上げた。
この時も、医療ジャーナルは推定される多数のC型肝炎の潜在患者数を論じ、医薬品費用負担の高騰、伴っての保険のプレミアムや自己負担額の高騰を論じた。だが、治療効果は高く、患者数は確実に減少した。

ソバルディ とAduhelmはもちろん同列には扱えない。しかし、Aduhelmの承認は患者と家族にとっては文字通り待ちに待った朗報である。政治的解決を含む連邦政府の対応を期待する国民の視線がワシントンDCに注がれている。(医療ジャーナリスト 西村由美子)
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