【MixOnline】パンくずリスト
【MixOnline】記事詳細

【特別寄稿】製薬協・田中徳雄常務理事 ますますの適正使用推進活動に大いに期待します!

公開日時 2022/09/29 04:52
日本製薬工業協会(製薬協)常務理事 田中 徳雄
​◎MRは製薬業界、企業が変わったと言われる原動力となれ

日本製薬工業協会(製薬協)常務理事の田中徳雄です。9月末に製薬協を定年退社いたします。9年以上に及ぶ製薬協での活動に対し、皆様からのご理解、ご指導をいただきましたことに、心より御礼申し上げます。

私は2013年8月に製薬協に着任しました。ちょうどその年は、1月に製薬協コード・オブ・プラクティス(製薬協コード)が制定され、7月には透明性ガイドラインに基づくCOI公開がスタートしました。私は、製薬協コード、透明性ガイドラインといわば同期入社です。

「同期の誼(よしみ)」から、私はこの2つを製薬協における自身の「ライフワーク」にしようと考え取り組んできました。同時にMR認定センターの理事もお引き受けしました。

製薬協に着任するまでは、MR関連の仕事を20年以上やってきた私にとっては、MR職に対する思い入れもあり、「“MRの社会的地位向上”に向けて取り組もう」と強い決意をしました。

着任のタイミングで、降圧薬の臨床研究への不適切な関与事案が発覚。その後も、薬事法(当時)の誇大広告違反事案、副作用報告(遅延)義務違反事案、GMP違反事案など製薬業界の社会的信頼を失墜させる事案が立て続けに起こりました。製薬産業全体に対し、強い逆風が吹いていました。そもそも製薬業界は「生命関連物質を取り扱う産業」として、他産業よりも高い倫理観と言動の透明性、説明責任が求められています。製薬業界全体的にも、より一層コード・コンプライアンスの遵守を徹底しようという時期でした。

業界の信頼を取り戻すには日々、直接医療関係者と交流のある営業部門、MRなのです。会社が「組織を変革した」、「変わった」といくら強調しても、訪問してきた眼の前のMRが以前と全く同じ言動であるならば、変わったとは伝わりません。だからこそ、MRが大切なのです。コロナ禍で定期的な訪問や面談が難しくなるなかで苦労することも多いかと思いますが、様々な工夫をして、適正使用の推進活動をしていただいていると思います。

◎「MRの本来業務はPMS!」


MRの本来業務はPMSです。PMSは、日頃の定期訪問(定期的な会話)から始まっています。副作用報告をすることはもちろん当然のことで、義務です。

抗がん剤を担当していることを想像してみてください。個人情報には十分気をつけながらも、投与前に患者さんの背景情報などを入手し、投与の可否、投与に際しての副作用対策など、先生方と十分話しているMRが本当に多いです。

MRが日頃、医師と会話するなかで、患者さんの副作用の頻度や重症度の低下につなげることもできます。MRにはそうした情報提供活動に取り組んでほしいのです。PMS活動とはそこまで含めての活動だと思います。

添付文書では、表紙の一番目立つ箇所に、「警告、禁忌、慎重投与」の項目が設けられています。しかし、多くのMRが説明会では、作用機序、臨床効果を説明し、最後に安全性を説明するのではないでしょうか。時間が限られるなかで、安全性に割ける時間は極端に少なくなり、「他の同効薬と比べて、特異的な事項はございません」ですませることも多いのではないでしょうか。

ぜひ、安全性から説明していただきたいと思います。特に先生が自社製品を使うことを前提とした説明会であればなおのこと、安全性の説明から始め、それに十分時間を取るべきです。

ほとんどの会社が説明会に使用する資料の順番を固定し、MRが自由に入れ替えたり、資料を追加、加工したりできないとお聞きします。MRには少なくとも、医療関係者のニーズ(安全性重視)を反映した資料も用意してもらうよう、会社を動かしてほしいと思います。MRには、医療現場のニーズを会社に伝える責任もあります。

自社医薬品の市販後副作用報告が同種同効薬と比べて極端に少ないことはないでしょうか。承認時段階では、同程度の副作用が報告されているにもかかわらず、副作用の頻度が異なる場合、しっかりしたPMS活動ができていないケースがあります。

製薬企業に勤めていた当時、ACE阻害薬を担当していました。ACE阻害薬の副作用として空咳がよく知られていますが、自社製品はトップシェアの製品と比べて空咳の頻度が少なかったのです。ここぞとばかりに、「当社のACE阻害剤が咳の副作用は少ないです」と紹介したことを覚えています。

しかし、空咳は個別製品の副作用ではなく、ACE阻害薬に共通の副作用であるとの認識が広まったとたんに、自社製品の副作用の発生頻度も増加してきました。本当に恥ずかしかったことをいまでも覚えています。自身のMR活動で、「副作用の収集」ができていなかったのです。「副作用報告の多い薬剤は先生方が使いづらいはずだ」と、どこか勝手に決めつけていたのです。本来あるべき頻度まで、副作用を十分収集できていないことは、PMS活動が十分できていないことを意味しています。

◎副作用は「入手ではなく収集」、情報は「提供ではなく伝達!」


そこから、PMS活動は副作用を入手するものではなく、「副作用を収集するものだ」と強く思うようになりました。単に、「副作用は出ていませんか?」と聞くのでは十分ではありません。「当社の薬剤には〇〇の副作用が報告されています。この点に是非注意してお使いください」、「次に患者さんが受診されたとき、“下痢や腹痛、胸焼けやむかつき等ありませんか?”と患者さんやご家族に具体的にお聞きいただけませんか」と伝えることが重要です。副作用の発生頻度は、本来あるべき数に近づき、添付文書の改定にたどり着きます。特に副作用報告をいただいた先生方には、MRが情報を提供するのではなく、「情報を伝達する」義務が発生いたします。単なる情報提供なら、eメールなどデジタルでもできますが、「伝達」となると本当に伝わったのかを確認することも含みます。「人=MR」にしかできないことだと思います。

◎「濡れぬ先こそ露をも厭え」、「渇しても盗泉の水を飲まず!」この言葉を伝えたい

厚労省が販売情報提供活動ガイドラインを2018年に施行されました。その後、「MR活動に制限がかかった」、「これまでの活動ができなくなった」との声が製薬業界内から聞こえてきました。しかし、ガイドラインの本文の中にはどこにも「…してはいけません」「…できない」などの否定的な表現はほとんどなく、むしろ「…しても差し支えない」と書いてある箇所が多いのです。販売情報提供活動ガイドラインには、これまでのMR活動が明文化されたと言えます。逆に元からできなかったことも当然、できないと明文化されています。

医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業では毎年、程度の差こそあれ、MRの不適切な言動が指摘を受けています。MRの不注意、不適切な発言が発端となって、本来投与する必要のない患者さんに投与され、健康被害が出てしまえば、これは「人的な薬害」と言われても仕方がありません。MRは、こうした責任があることをもっと自覚すべきです。

いまや、薬剤は有効性による差別化で薬剤が選択される時代ではなくなりました。どれだけ適正使用を推進しているかで医薬品が選択される時代です。そこにMR活動が大きく関わっていることを決して忘れてはなりません。

製薬各社は、MR教育、研修に力を注いでいただいています。製品知識だけでなく、倫理教育にも熱心です。しかし、倫理観とは、研修や学習で得た知識を、本来発揮すべき場面で発揮することです。様々な場面で正しい言動ができるような、OJTの必要性もますます高まると思います。

MR教育担当者には「濡れぬ先こそ露をも厭え(Monthlyミクス2014年11月号)」、MRには「渇しても盗泉の水を飲まず!」という言葉を送りたいと思います。

繰り返しになりますが、経営トップの記者会見や株主総会だけでは製薬業界、製薬会社が、“本当に変わった、良くなった”と評価されることにつながりません。実際日々医療関係者と面談、交流しているMRが変わらなければ、何も変わらないことと同じです。

“製薬業界は変わったね、製薬会社は変わったね!”と言われるためには、全MRの日々の活動、言動にかかっていると言っても過言ではないのです。MR諸氏のこれからのますますの適正使用推進活動に大いに期待をしています!

(略歴)田中徳雄:1983年4月 武田薬品入社。医療経済研究機構への出向を経て、武田薬品経営企画部医薬業務室主席部員、医薬営業本部京都支店長、横浜支店長を歴任。2013年9月に製薬協常務理事、19年5月にMR認定センター専務理事(22年3月に退任)
連絡先 tanaka@jpma.or.jp(10月まで)
プリントCSS用

 

【MixOnline】コンテンツ注意書き
【MixOnline】関連ファイル
関連ファイル

関連するファイルはありません。

【MixOnline】キーワードバナー
【MixOnline】記事評価

この記事はいかがでしたか?

読者レビュー(20)

1 2 3 4 5
悪い 良い
プリント用ロゴ
【MixOnline】誘導記事

一緒に読みたい関連トピックス

記事はありません。
ボタン追加
バナー

広告

バナー(バーター枠)

広告

【MixOnline】アクセスランキングバナー
【MixOnline】ダウンロードランキングバナー
記事評価ランキングバナー