新時代戦略研究所（INES）は2月7日、「INES新薬イノベーション研究会としての現状認識・薬価制度改革の考え方」を公表した。日本市場の現状を踏まえ、「新薬創出の支援への重点化は喫緊の課題」と指摘。2024年度予算編成に向け、「改善策の手始め」として、「例えば、長期収載品等のジェネリックへの移行等をさらに進め、薬剤費はイノベーティブ新薬に手厚く配分する」ことを提案した。一方で、この改善策では「課題を根本的に改善することは難しい」として、中長期的な抜本改革の必要性を強調。「イノベーション評価（ミクロ的アプローチ）と財政中立的な薬剤費成長メカニズムの導入（マクロ的アプローチ）を並行して実施すべき」と提案した。

INESは、日本の現状認識を示したうえで、「24年度予算編成に向けて」、「INES新薬イノベーション研究会が考える薬価制度改革のアプローチ」を示した。

◎ミクロ的観点でみた日本市場　市場拡大再算定でイノベーティブ新薬群にも余波

日本医薬品市場の現状認識については、①ミクロ的観点（個々の医薬品の薬価）、②マクロ的観点（総薬剤費についての認識）－の両面から分析。ミクロ的観点については、「日本において、イノベーティブ新薬の薬価が米国はもとより欧州よりも低位に算定される状況にあり、結果としてアンメットメディカルニーズの高い新薬が日本で開発されないドラッグロス・ラグが生じている」と主張。また、「薬価は経年的に下落しており、2021年から実施された中間年改定によってその下落スピードは加速している」と強調した。一方で、円安や資源価格高騰により物価は上昇が続いているが、現行の薬価改定方式は物価上昇を反映する仕組みを内包していないとも指摘した。

このほか、毎年薬価改定に加えて、市場拡大再算定が与える影響は大きく、「2022年度薬価改定においては薬剤費削減額の約2割がわずか23製品による市場拡大再算定により捻出されており、薬価改定の影響はイノベーティブ新薬群にも及んでいる」との見解を示した。

◎マクロ的観点でみた日本市場　医薬品市場はプラス成長もコロナ関連除くとほぼ横ばい

マクロ的観点については、「2016年以降の薬価制度抜本改革により、日本市場は数量成長を薬価引き下げ影響が上回る傾向が強まり、全体としてフラットから縮小トレンドに入っている」と指摘。「今後の見通しについても同様で、IQVIAの予測によると、主要先進国の中で日本のみが唯一医薬品成長率がGDP成長率を下回るとみられている」と分析した。さらに、IQVIAは2022年上半期の医薬品市場について、「プラス成長を報告しているが、コロナ検査試薬やコロナ治療薬の大幅増による影響が大きく、これらの影響を除けばほぼ横ばいの成長が継続している」とも強調している。

◎24年度予算編成に向けて提案も「課題を根本的に解決するのは難しい」　中長期的な改革の必要性指摘

こうした日本市場の現状認識を踏まえ、直近の対策として、24年度予算編成に向けての考えを示した。「中間年の薬価改定対象が拡大しつつあるなか、新薬創出の支援への重点化は喫緊の課題」と指摘。「改善策の手始め」として、例えば、長期収載品等のジェネリックへの移行等をさらに進め、薬剤費はイノベーティブ新薬に手厚く配分するといった方策の検討を提案する」ことを提案した。

そのうえで、「INES新薬イノベーション研究会が考える薬価制度改革のアプローチ」を提案した。24年度予算編成に向けた改善策だけでは、「課題を根本的に解決することは難しい」と指摘し、根本的な解決に向けて、「中長期的な改革」の必要性を強調。現状認識で示したミクロ的アプローチ、マクロ的アプローチと定義を変え、ミクロ的アプローチを「イノベーション評価」、マクロ的アプローチを「財政中立的な薬剤費成長メカニズムの導入」と定義し、「中長期的な改革として、（ミクロ的アプローチ）と財政中立的な薬剤費成長メカニズムの導入（マクロ的アプローチ）を並行して実施すること」の必要性を強調した。