
IQVIAジャパンは7月10日のメディアセミナーで、2025年の世界における日本の医療用医薬品の市場規模が米国、中国、ドイツに次ぐ世界4位である一方、特許期間中の新薬市場にフォーカスすれば米国に次ぐ世界2位の規模を維持していると発表した。日本の新薬・特許品市場は、2020年度から25年度の5年間に国内市場全体を計3.3兆円押し上げたと分析。26年度から30年度の5年間も計3.8兆円押し上げる見込みだとした。同社Thought Leadershipの高山莉理子マネージャーは、「日本市場は、見かけ上は低成長に見えるが、新薬・特許品に注目すると世界に引けを取らない力強い市場が隠れている」と説明した。
同社によると、25年までの5年平均成長率(CAGR)は、世界の医薬品市場がプラス9.0%に対し、日本市場はプラス2.6%だった。この5年間に世界市場は6800億ドル拡大し、この約55%が米国の市場成長(3745億ドル増)によるものだが、日本は80億ドル増の貢献にとどまり、主要先進国の中で最も低い寄与度だった。これが、日本市場が世界に比べて低成長と言われる根拠のひとつになっている。
ただ、日本市場を詳細に分析すると、新薬・特許品市場は大きく拡大する一方、特許切れ後の市場は大きく縮小。特に薬価の毎年改定や、長期収載品への選定療養の導入・後発品の使用促進策を背景に、▽長期収載品市場の大幅な縮小、▽発売から数年経過した後発品市場の縮小――が進み、結果として市場全体が低成長へとコントロールされている構造が改めて浮き彫りになった。
◎25年度までの5年間 新薬で3.3兆円押し上げ 長期収載品で2.2兆円縮小
実際、この日に示された25年度までの5年間に、新薬や長期収載品などの各セグメントが市場に与えた影響額(=増減額)を見てみると、20年度までに上市された「既存特許品」がプラス2兆1100億円、21~25年度に上市された「新薬」がプラス1兆2620億円となり、新薬・特許品で計3.3兆円の市場押上げ効果があった。
これに対し、20年度以前からの長期収載品(既存LLP)はマイナス1兆2360億円、21~25年度に特許切れした先発品(新LLP)はマイナス1兆410億円となり、長期収載品市場は計2.2兆円縮小。後発品市場も、21年度以降の「新後発品」はプラス4800億円となったものの、「既存後発品」はマイナス5220億円となり、厳しい市場環境が確認された。
これらの増減により、5年間の日本の医薬品市場は1兆3700億円の絶対成長となった。
◎30年度までの5年間 新薬・特許品で3.8兆円押し上げ 大型品特許切れで3.2兆円押し下げ
26年から30年度まで5年間の市場予測では、「既存特許品」でプラス2兆1360億円、26年以降の上市見込み「新薬」でプラス1兆6830億円――と、計3.8兆円の市場押上げ効果が見込まれると分析。一方で、大型先発品の特許切れなどを背景に、26年度以降に特許切れする先発品(新LLP)でマイナス2兆2360億円、25年度以前の「既存LLP」でマイナス1兆50億円――と、長期収載品市場で計3.2兆円もの大きな市場押し下げ影響があると分析された。
結果、市場全体の次期5年間の絶対成長額は後発品市場の動きも加味して7760億円、5年CAGRはプラス1.3%に鈍化すると予測された。市場規模は12兆円を超える見通しだ。
◎トーマス氏 「特許切れする製品の数や売上高という点では、かつてないほど高い」

同社シニアディレクターのアラン・トーマス氏は、「特許切れする製品の数や売上高という点では、かつてないほど高い」と強調。「2011年から12年のパテントクリフと同規模の特許切れがある」と述べ、スタチン製剤やARBなどの大型品の特許切れが相次いだ「2010年問題」に匹敵する影響があるとの見方を示した。
同社は今秋に30年度までの市場予測の詳細を発表予定で、30年前後に特許切れを迎えるオプジーボなどのがん免疫療法薬の影響度合いも焦点のひとつになりそうだ。
◎スペシャリティ・バイオ医薬品が成長を牽引
高山氏はこの日のセミナーで、日本市場の成長ドライバーであるスペシャリティ医薬品やバイオ医薬品の市場動向や、内資/外資別のカテゴリー別増減額を説明した。
専門医が処方するスペシャリティ医薬品は、25年度に前年度比7.7%増の5兆1122億円となった。25年度まで5年間のカテゴリー別増減額も見てみると、「既存特許品」で1兆2550億円、「新薬」が7290億円、それぞれ市場を押し上げた。高山氏は、「大きく成長に貢献した抗がん剤に加えて、10年ぶりの改訂となった骨粗鬆症治療薬、潰瘍性大腸炎などに対する免疫抑制剤などが寄与している」と説明した。
一方、スペシャリティ医薬品市場の特許切れによるマイナス影響は限定的で、21~25年度に特許切れした「新LLP」でマイナス3580億円、20年度以前からの「既存LLP」はマイナス3310億円にとどまった。高山氏は、個別化医療が進み、特定の患者では高い効果が期待できるがん治療薬を例に、「古いものを使うよりも新薬で生存率を上げる傾向が強い」ことから、特許切れの影響は比較的小さいと説明した。
◎バイオ医薬品市場 3年連続で10%超成長
スペシャリティ医薬品との一部重複もあるバイオ医薬品は、3年連続で10%を超える成長を記録し、25年度は前年度比11.5%増の4兆934億円となった。25年度まで5年間のカテゴリー別増減額も見てみると、「既存特許品」で8420億円、「新薬」で8660億円、市場を押し上げた一方、特許切れの影響は3000億円程度にとどまった。
高山氏は、がん免疫療法薬や二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)などが高成長に寄与し、糖尿病治療薬やアルツハイマー病治療薬の貢献もあったと説明した。さらに、がんや自己免疫疾患に対するバイオ製剤は1剤で多くの適応症をもち、用途特許や再審査期間の満了・終了タイミングが段階的であることから、「(虫食い効能の)バイオシミラーは、適応ごとに複数診療科で使われる病院の中で採用・処方しづらいところもある」との見方を示し、これが高成長につながっている要因のひとつと指摘した。
◎外資が新薬市場の成長をリード EBP育成が課題
このほか、25年度の支出高上位100社のうち、内資系企業67社、外資系企業33社を比較すると、20~25年度の5年CAGRは内資が1.7%、外資が3.8%となり、外資で約2ポイント高い結果となった。その要因として、内資と外資で長期収載品によるマイナス影響額に大差はないものの、「既存特許品」や「新薬」による5年間の増収額が外資系は約2兆1000億円だったのに対し、内資系はその半分の約1兆2000億円にとどまったことがある。
高山氏は、「世界の主流がEBP(エマージングバイオファーマ)と呼ばれる新興バイオ企業が研究の大部分を担っているなか、日本はこうしたベンチャーの数が米国や中国に負けている。また、日本が低成長市場に見えていることも一つの原因」と指摘した。円安の影響もあり、ライセンス取得競争で不利になっているとの認識も示した。
トーマスシニアディレクターは、「日本においてはEBPの領域でベンチャーキャピタルの額がまだ低い状況で、“てこ入れ”が必要」と指摘。「特に大きな内資系企業で革新的医薬品を出している企業もあるが、パイプライン的に苦戦している。ベンチャーキャピタルにそこを喚起してもらう必要がある」との見方を示した。24年11月にPMDAが初の米国拠点としてワシントンに設立した事務所にも言及し、「先駆的医薬品等指定制度や条件付き早期承認制度など、ベンチャーキャピタルを呼び込む政策は整っている。ワシントンオフィスを開設したことで、日本の魅力的な施策を理解してもらえるように啓蒙活動をやっていくことが重要になる」と述べた。