国がん 全がんの5年生存率66.2%、10年生存率53.3% 「ネット・サバイバル」で初集計
公開日時 2023/03/16 04:50
国立がん研究センターは3月16日、2014-15年の院内がん登録患者の5年生存率が全がんで66.2%だったと発表した。性別でみると、男性62.8%、女性70.8%だった。2010年の院内がん登録を用いた10年生存率は全がんで53.3%だった。いずれの数値も、がんのみが死因となる場合の生存率を推定する「ネット・サバイバル(Net Survival、純生存率)」を用いた初の集計結果となる。これまで採用していた「相対生存率」よりも生存率はやや低めに出るが、国がんは、ネット・サバイバルによる推計値の方が真にがんの影響による死亡を表しており、国際的にも広く採用されていると説明。今後は相対生存率に代わってネット・サバイバルを採用する方針を示した。
今回発表した生存率は、国が指定するがん診療連携拠点病院等を含む院内がん登録実施施設から収集した情報を用いたもの。5年生存率は14、15年の診断例のうち、全がんにおける生存状況把握割合が90%以上などの要件を満たした447施設94万2717例を集計・分析した。10年生存率は10年診断例のうち要件を満たした316施設34万1335例を集計・分析した。
◎部位別5年生存率 小細胞肺がん11.5% 膵臓がん12.7%
部位別の全病期のネット・サバイバルによる5年生存率は、高い順から甲状腺・乳頭濾胞96.4%、前立腺95.1%、乳(女性)91.6%、子宮体83%、腎81.6%、咽頭78.4%、子宮頸74.4%、大腸70.9%、胃70.2%、全がん66.2%、卵巣64.5%、膀胱62.6%、食道47.8%、非小細胞肺47.5%、肝細胞45.1%、腎盂尿管44.2%、胆のう27.2%、肝内胆管21.1%、膵臓12.7%、小細胞肺11.5%――となった。いずれのがん種も、病期が進行しているほど5年生存率は低くなることが改めて確認された。
ネット・サバイバルによる10年生存率は、高い順から甲状腺・乳頭濾胞91.0%、前立腺84.3%、乳(女性)83.1%、子宮体79.3%、子宮頸68.1%、腎65.7%、咽頭58.8%、大腸57.9%、胃57.6%、全がん53.3%、卵巣51.9%、膀胱50.1%、腎盂尿管33.9%、食道31.5%、非小細胞肺30.8%、胆のう21.6%、肝細胞20.4%、肝内胆管12%、小細胞肺5.8%、膵臓5.4%――となった。
国がんのがん対策研究所事業統括の若尾文彦氏は、今回公表した5年生存率は約8年前、10年生存率は約12年前に登録されたデータを元にした分析結果だとした上で、「現在、治療を受けている患者さんは新しい治療の恩恵を受けている。今回のデータがそのまま当てはまるものではないということも知ってもらいたい」とコメントした。
◎高齢者に多いがんのI期、II期 ネット・サバイバルと相対生存率に2%以上の差
生存率はこれまで実測生存率や相対生存率が使われてきた。実測生存率は、死因に関係なく、すべての死亡を計算に含めた生存率のこと。相対生存率は、実測生存率を“がんのない場合の生存率”で割った時の数値で、「がん以外の生存から、がん自体による生存」を推定したものになる。
ただ、例えば「高齢」との因子は、心疾患などの「がん以外の原因による死亡」と、「がんによる死亡」の両方のリスク因子(=競合リスク)であり、高齢者に多いがん種では、病期によって相対生存率はやや高めに出る傾向が指摘されていた。
実際、平均年齢の高いがんとして胃がん(平均年齢71.3歳)、大腸がん(70.1歳)、非小細胞肺がん(71.1歳)をピックアップして、5年生存率を病期別に見てみると、胃がんのI期はネット・サバイバル92.8%、相対生存率96.0%、II期は同67.2%、70.0%、III期は同41.3%、42.8%、IV期は同6.3%、6.5%――となった。
また、大腸がんのI期は同92.3%、94.9%、II期は同85.5%、88.7%、III期は同75.5%、77.9%、IV期は同18.3%、18.9%――。非小細胞肺がんのI期は同82.2%、85.0%、II期は同52.6%、54.8%、III期は同30.4%、31.5%、IV期は同9.0%、9.4%――となり、平均年齢が高く、あまり進行していない病期のがんの場合は、ネット・サバイバルと相対生存率との間に2%以上の差が生じることが確認できた。一方で、いずれのがん種も病期が進行している症例ほどネット・サバイバルと相対生存率との間に大きな差が出ない傾向もみられた。
予後不良の代表格の膵臓がん(71.1歳)の5年生存率は、I期は同53.4%、55.9%、II期は同22.5%、23.3%、III期は6.2%、6.4%、IV期は同1.6%、1.7%――で、II期以降からネット・サバイバルと相対生存率にほとんど差が出ないことも確認された。国がんは、「予後の短いがん種やステージでは、ネット・サバイバルと相対生存率の差が出にくい」と分析している。
国がんは例年、生存率集計の公表と同時に「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」のデータ更新を行っているが、今回はシステム改修のため、データ更新は5月以降になる見通しだ。これまでの同システムでは、生存率をがんの種類、性別、病期、年齢、手術の有無といった条件で絞りこむことができる。