厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の安藤公一課長は４月17日に開かれたヘルスケア関連産業シンポジウムで講演し、「創薬力を高める方針がそろそろ必要なタイミングだと強く考えている。今回の（有識者検討会の）報告書の中でも基軸として打ち出していければ」と述べた。日本として重点的な戦略投資の分野を示し、政府や産業界、アカデミアなどが一体となり推進するなど、国家戦略が必要との認識を示した。厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」では、革新的な医薬品の迅速な導入を柱の一つに据え、議論を進める。安藤課長は、５月末にも報告書を取りまとめる方針も明らかにした。

◎報告書を「スタート」地点に総合的な検討が進む

有識者検討会の報告書の取りまとめについて安藤課長は、「色々な制度が変わるわけではない。ただ、様々な課題に対する方向性はこの検討会のなかで目鼻をつけたい」と意欲をみせた。薬事規制や治験環境整備など様々な課題があるなかで、報告書を一種の「スタート」地点として、薬価については中医協で議論するなど、「全体の総合調整を取りながら、それぞれ検討が進んでいく」と説明した。

有識者検討会では、革新的な医薬品の迅速な導入を議論の柱の一つに据えており、このなかで日本発のイノベーション創出も議論の俎上にのぼっている。安藤課長は、「検討会もそうだが、我々も一つの大きな課題と認識している」と話した。

創薬をめぐる世界の潮流として、エコシステムの重要性が高まり、アカデミアやベンチャー企業の役割も高まっているなど、環境変化が大きいことを説明。革新的新薬のモダリティについても、日本が強みを有してきた低分子から抗体医薬へとシフトするなかで、「日本は新しいモダリティシフトに乗り遅れてきたと言われている。次の10年、20年を見据え、日本の強みを考えたときに、どういったモダリティに対し、どのようにこれから力を注いでいくのか。ある意味、国家的に考えても一つ重要な岐路に立たされている」との見方を示した。

◎薬価制度の課題に長期収載品「保護的政策の要素あった」　新たなモダリティの評価も

欧米のメガファーマが抗体医薬をはじめ、新規モダリティに積極的な投資を行うなかで、内資系製薬企業が乗り遅れた理由の一つとして、「薬価制度についての問題もあるんだろうと思っている」と表明。「薬価制度といった時に２つの面があり、一つはそういった新しいモダリティに対する評価のあり方について。よく言われる話だが、いわゆる日本市場の魅力という観点から評価のあり方がどうなのか、ということも大きな一つの課題であると思っている。あわせて、日本の場合、いわゆる特許が切れた後についても長収品（長期収載品）という形で一定の評価が加えられてきた。ある意味それが今までの制度だったわけだが、保護政策的な要素もあったという指摘もある」との課題認識を示した。また、低分子に注力するなかで、「企業戦略として、製造や人的投資に大きな投資をかけてモダリティシフトをかけるという判断で、残念ながら乗り遅れた」とも述べた。

◎「日本の医療界は創薬に弱い」　人材、製造基盤、ベンチャー育成に乗り遅れ

新たなモダリティにシフトするために、「当然のことながら、製薬企業だけではなかなか完結できない。バイオベンチャー、さらにシーズを生み出す医療界との連携も非常に重要になる」と表明。「日本の医療界は創薬という観点から、弱いということが言われている。日本の研究費のあり方についても、どちらかというと研究中心で最終的な創薬につなげるという観点ではなっていないのではないかと言われている」と述べた。さらに、「治験をはじめとした薬事のルールでも、新しいモダリティを前提とした形になっていないということもよく言われる」と続けた。「様々な理由があって、結果的に我が国においては新しいモダリティシフトに乗り遅れ、人材、あるいは製造基盤、それから中心となるべきベンチャーの育成について遅れてきてしまったんではないかと考えている」と述べた。

そのうえで、「今後の10年、20年を考えたときに、日本として政府もそうだが、それぞれの役所、企業、医療界といった様々な関係者が同じ方向を向いて、何に対して投資をし、力を入れていくか、何かしら道しるべが必要なタイミングに来ているのではないか」と強調した。