日本製薬団体連合会保険薬価研究委員会の新委員長に就任した石牟禮武志氏（塩義製薬渉外部長）は６月９日、会見に臨み、次期薬価制度改革に向けて、「革新的な医薬品へのアクセスと、医薬品の安定供給が確保される薬価制度の実現」に注力する姿勢を強調した。革新的な医薬品へのアクセスをめぐっては、「新薬創出等加算のあり方も含め、特許期間中の新薬の薬価を維持する仕組み」に向けた検討を重要課題にあげた。一方、医薬品の安定供給確保については、基礎的医薬品の拡充や不採算品再算定が適切に運用されるルールへの見直しの検討などを進める考えを示した。

◎新薬の薬価算定「価値にあわせて薬の価格を決める方向に」　類似薬の拡大も

次期薬価制度改革に向け、薬価研は「新薬の価値を適切に薬価へ反映する算定方式」を重要課題の一つに据える。石牟禮委員長は、新薬の収載時の評価について現行制度では原価計算方式で算定されているが、企業開示度など透明性を求められることの難しさに加え、「原価計算方式でイノベーションが適切に評価できているのかという課題認識を持っている」と指摘。「“物がいくらで作れますか”ということではなく、価値にあわせて薬の価格を決めるべきだという方向に持っていけないか」と述べた。

具体的には、類似薬効比較方式における類似薬の考え方を「もう少し柔軟に広げられないか」と述べた。現行制度では、効能効果、薬理作用、投与形態で類似薬が決定されるが、「患者さんの転帰や予後が割と近い疾患の薬をベンチマークし、類似薬に置くという考え方はできないものか」と提案した。

◎新薬創出等加算　「企業要件の３段階評価はいらないのでは」

新薬創出等加算については、「もっとシンプルにしたい」と述べ、特許期間中薬価を維持する仕組みの実現に意欲を示した。また、「薬価制度抜本改革のときに品目、良いモノに加算しましょうというコンセプトに変わったと認識している。良いモノをもって評価するのであれば、企業要件という形での３段階評価はいらないのではないか」と述べた。

◎G１品目　撤退できないのであれば「役割に応じた評価を」

一方、長期収載品については、現行ではG1品目について撤退ルールがあるが、この実効性に疑問を投げかけた。後発品企業が増産対応すると判断する事例が少ないことなどから、撤退に至るケースは少なく、十分に機能しているとは言い難い状況にある。このため、G1品目については撤退し、後発品が安定供給することを基本的な考え方とする一方で、合理的な理由で撤退できないG１品目については「本当にその必要性があるのであれば、きちんとその役割に応じた評価をすべき」として、別途仕組みを設けることを早急に検討する必要性を指摘した。

◎「これまでとは違った風が吹いている」　骨太原案、有識者検討会受けて

骨太方針原案では、「イノベーションの評価などの更なる薬価上の措置」が盛り込まれていることなどを踏まえ、石牟禮委員長は、「経済財政諮問会議民間議員ペーパーの中に、イノベーション評価という旨の記載がなされているということは非常に大きなポイントだと思うし、それが骨太方針原案の中にも含まれている。これがどういった形に変わるかわからないが、これまでの業界トップの方のロビーが効いてきているのではないか。これまでのように薬価から財源を出すという雰囲気からは少し変わってきているのではないかという期待を持っている」との所感を語った。

そのうえで、「これまでのように社会保障費の伸び抑制を高齢化の範囲にとどめるとか、あるいはその部分を薬価から中心に出していくことが行われるのであれば、これまでの有識者検討会の議論や、自民党の創薬力強化PTの提言は実際に何だったのかということ。そういう意味ではこれまでとは違った風が吹いているという認識だ」と述べた。

石牟禮委員長はこれまで薬価研で幹事長を務めるなど、薬価での豊富な経験を持つが、自身の経験を振り返り、「どうしても、ネガティブなところは考えるところがどこかには残っている。ただ、大きな情勢はドラッグ・ラグ問題や安定供給問題などに対する認識を高めていただいている部分がある。ちょっと違った議論になるのではないか」と期待感を示した。