沢井製薬の木村元彦代表取締役社長は9月1日、本誌取材に応じ、増産体制構築に向けて、「第二九州工場と、トラストファーマテックの2つのプロジェクトを成功するまでやり遂げる」と意欲を語った。供給不安が続く中で、生産増強で対応する姿勢を強調した。一方で、課題解消に向けて、制度政策の議論も進む。少量多品目や共同開発など、これまでのジェネリックビジネスを表してきた制度にメスが入ることも予想される。木村社長は、「明らかにフェーズが変わっているので、いかに迅速に対応できる社内体制を整えていくかが大事。変化にしっかり対応できるような、準備をするのが私の仕事だ」と語った。
◎トラストファーマ「本年度中に7、8製品」 一変承認取得へ
増産体制に注力する沢井製薬。今年6月に社長に就任した木村氏は、17年6月に沢井製薬の執行役員生産本部長に就任するなど、生産現場の最前線で生産能力増強に取り組んできた。
第二九州工場は今年12月の竣工に向けて工事が進められている。小林化工の設備と転籍人材をサワイグループHDが受け入れて設立されたトラストファーマテックは、今年6月に、秤量工程から包装工程まで一貫製造したアロプリノール錠100mg「サワイ」を初出荷した。
トラストファーマテックは不祥事以降、「これまで2年間何も作っておらず、設備も2年間動かしていないので、立ち上げの時に色々起こるのは当たり前で、沢井の力で人を送り込んで対応してきた」と説明。現在も沢井製薬の既存工場に約80名が長期出張しており、沢井基準の生産方法を実践的に習得させるべく研修に励んでいるという。木村社長は、「今のところ、順調に教育が進んでいるし、製品も承認を取ってもらっている。直近でも福井県の薬務課が査察に来ている。そういう結果として、前に向かって進んでいる」と説明した。
今後は、「できるだけ年間数量の多いもの」の技術移管を進める方針。これにより既存の工場でもそのほかの品目の増産にも着手でき、増産体制が一歩前に進むとの考えだ。「本年度中に7、8製品について、製造場所の追加を行う一変承認は取れるように頑張っていく。順次品目は増やしていっている」と意欲を見せた。
社内の風土醸成やコンプライアンスンの観点から、意識改革のための勉強会を実施しているという。沢井製薬の製造本部で工場長が出席する会議に、トラストファーマテックの工場長らが参加してもらっているという。「トラストファーマテックで起こっていることは、沢井製薬の工場の幹部は聞く。失敗談や成功談もそこで共有できるし、相談したかったら相談もできる仕組みになっている。色々切磋琢磨してもらう場の設定をしている」と説明。さらに、工場のKPIも同じように定め評価を行うことで、「他の工場との比較もできるようになっている」と説明した。
生産能力増強に取り組む同社だが、トラストファーマテックのケースは、「ベストストーリーだと考えている」と話す。「承継する製品は一切ない。生産設備も当然見に行ってるし、割と新しい設備もあって、我々よく知ってるゼネコンがやってた工場でもある。人の採用も大変ななかで600人以上の従業員がおり、別の作業に行くのはもったいない。上層部の方針には問題があったが、オペレーターレベルに大きな責任があるわけではなく、一生懸命作っていた苦しみは僕も肌で感じている。活かしたいという想いだった」と話す。
木村社長はこれを「成功体験」として捉え、「チャンスがあるかどうかはわからないが、アセスメントがあれば(生産での提携や買収も)あり得ると思う」と述べた。業界再編には慎重な姿勢を示したうえで、「色々な提携、他社との提携のチャンスも出てくるかもしれないし、そういうところのビジネスチャンスなんかもしっかり拾っていきたい」と強調した。
◎少量多品目生産「生産本部としてはツラかった」 後発品検討会の品目数の適正化議論に期待も
同社も限定出荷が259品目(8月29日時点)と供給不安が続く。品目と出荷調整が続く。木村社長は、「我々も一生懸命に増産して限定出荷を解除しているが、同じ数だけまた限定出荷にしている製品もある。その理由のほとんどが、他社が限定出荷されているから、うちもせざるを得ないという状況だ」と説明する。国の進める供給量や医療現場の必要量の見える化に期待感を示した。
供給不安が長引く要因の一つとして、“少量多品目”というジェネリック特有のビジネスモデルも指摘されるところ。木村社長は、「少量多品目は、生産本部としてはツラかった。何とかなればというのがあった」と吐露する。
こうした状況が起きた2つの原因をあげた。一つは、多くの企業が参入し、同じものを販売していること。もう一つが、同じ作用機序(クラス)に複数の品目があるものの、使用される品目や用量が収れんされ、そのほかの品目が使われていない状況にあることを指摘した。ジェネリックは先発品の有する規格をすべて上市する“規格揃え”が求められることから、「使われているものは収れんしてきて、他のものは少ない。何社も出しているからそれこそ(量は)少ない。でも各社別々に作っている、非常に効率が悪い」と指摘した。
実際、「例えば包装ラインで本当に動いている時間は40%。残りは切り替えに動いている時間だ」と説明し、「品目を減らしてもらった方が、効率化になるし、今の生産能力でも、もっと作れる」と話す。さらに、安定供給の観点からも品目数が多いことのリスクがあると指摘する。同社は安定供給のための適正在庫として5か月間分だが、品目数が減れば、大量生産までの期間が短縮できるため、在庫を減らすこともできるという。「年々品目数が増えると、そこにキャッシュが溜まる。中間製品もあれば、原材料もあり、トータルの金額は大きい。品目数が減れば、そのキャッシュフローもよくなる」と強調する。
日医工が赤字に陥ったことを引き合いに、「非効率にならざるを得なかった環境で、新製品を出していかないと生きていけない業界だ。出し続けないと生き残れない。でも、一度出した製品はやめられないので、品目はどんどん増え、赤字にもなる。そんな状況をご理解いただければと思っている」と説明。「ドラスティックに品目数が減る」ことで改善できると説明。厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」で市場での役割を終えた品目の薬価削除なども議論の俎上に上っていることに触れ、期待感を示した。
◎特許戦略は「沢井の強みの一つ」 単独参入はAGへの切り札に
ジェネリックビジネスで、初収載の品目も重要性を増している。サワイグループホールディングスの子会社であるメディサ新薬が8月15日付でDPP-4阻害薬・ジャヌビア(シタグリプチン)の後発品が単独承認を取得したことも注目を集めた。木村社長は、「特許戦略は沢井の強みの一つ。それをしっかり生かしていく。今後もこの方針を変えるつもりはない」と述べた。
単独参入に注力する同だが、生産の観点からもその意義は大きいという。「オーソライズド・ジェネリック(AG)があると思って準備をしていたのに出ないとなると、安定供給できなくなる」と指摘。後発品の新規収載に際しては、5年間の安定供給を約束する“念書ルール”があるため、こうした観点からも安定供給ができなくなるリスクも大きいとの考えを示した。一方で、単独参入であればシェアなどの数字も正確で、「生産側も準備する量を調整できるし、必要量の生産が間に合わないのであれば薬価収載を遅らせるなど、調整することもでき、フレキシビリティが出る」とメリットを強調。「単独参入を追求する」と語った。
◎異次元の価格政策 卸や販社の戦略への反映を「見守る」も理解に自信も
価格交渉も今後佳境を迎えるが、仕切価率について沢井製薬は、「上げる余地のあるものはギリギリいっぱいまで上げる」という“異次元の価格政策”を行っている。木村社長はこうした戦略に変更はないとして、「沢井の状況をしっかり説明し続けている」と話した。「これから価格が決まっていく状況にあるので、どう卸や販社の戦略に反映されていくか、見守っている」と話した。医薬品卸の幹部の声も紹介し、「かなり沢井のことを理解していただけているのでは」と手応えも語った。