日医・松本会長 24年度改定は3%以上の賃上げ実現を「シーリングと別枠で」 基本診療料引上げ念頭
公開日時 2023/10/26 04:51
日本医師会の松本吉郎会長は10月25日の定例会見で、2024年度のトリプル改定に向けて、「(高齢化に伴う増加分に当たる)5000億円程度のシーリングとは別枠でのインフレ、賃金上昇、物価高騰への対応をお願いしたい」と述べた。年末の予算編成で改定率が決定した後の議論になると断ったうえで、「初・再診料、入院基本料など、基本診療料での対応をまず求めたい」との考えを示した。賃金への対応としては、岸田首相が3%以上の賃上げを求めていることを引き合いに、医療従事者にも同程度の引上げの必要との考えも示した。
◎インフレ基調、賃金上昇、物価高騰 「従来の改定」との違いを指摘
「賃上げは従来の改定とは別に行う必要がある」-。松本会長は改めてこう強調した。「従来はデフレ下での改定だったが、今回はインフレ基調の中での改定だ。また、従来は高齢化に伴う医療費の伸びに合わせ、5000億円程度のいわゆるシーリングがある中での改定だった。今回は、(診療報酬改定の中で)それとは別枠でのインフレ、賃金上昇、物価高騰への対応をお願いしたい」と話した。具体的な対応については、「普通は改定率が決まった後での話になろうかと思う」と断ったうえで、「引上げということになれば当然のことながら、初・再診料、入院基本料など、基本診療料での対応をまず求めたいと基本的に考えている。ただ、それ以外の色々な加算部分もあるので、一体として考えたい」との考えを示した。
◎3%以上の賃上げ「医療界にとっても必要性を十分感じている」
松本会長は、岸田首相が10月23日の所信表明演説で、「私の頭の中に今あるもの、それは”変化の流れを絶対に逃さない、つかみ取る”の1点だ」と話したことを引き合いに、「変化の流れをつかみ取るためにはここで医療介護従事者の仕上げがぜひとも必要だ」と強調した。
賃金上昇、物価高騰の影響は医療機関にとって深刻な状況にある。岸田内閣が「公定価格のあり方の抜本的な見直し」を掲げるなかで、22年度改定では看護職員の収入を3%引き上げる処遇改善の仕組みが創設された。2023年度の春闘での平均賃上げ率が3.58%、人事院勧告が3.3%など、民間企業を中心に賃上げが実現されてきたが、「逆に医療・介護分野の賃金上昇は一部に限定されることによって、公定価格の下では半分程度の水準1%台にとどまり、他産業に大きく後れを取っている」と指摘。約900万人にのぼる医療・介護従事者の賃上げにより、「我が国全体の賃金上昇と地方の成長の実現により、経済の活性化が見込める」との見解を表明。岸田首相が“持続的で構造的な賃上げ”を掲げるなかで、これを実現し、「官民連携による投資が積極化され、さらに経済が活性化される」との見解を示した。
岸田首相が3%以上の賃上げを求めていることに触れ、「医療界にとってもそういった賃上げの必要性を十分に感じている。もちろん職種による違いや経営状況、地域の違いはあるが、基本的にはそう考えている」とも述べた。
◎20、21年度の医療費損失額は3.2兆円「減収ダメージ、そのまま残っている」 地域医療継続に危機感
医療費の動向については、22年度はオミクロン株の流行によるコロナの急拡大などで増加したが、松本会長は、「その分、感染対策経費の増加、追加的に人員の確保など患者数の拡大に対応できる体制を築くためのコスト、支出も上昇している」と述べた。さらに、15年度から22年度の直近8年間の医療費の対前年度伸び率の平均は1.79%とのデータを紹介した。これに基づく療費の損失額は、20年度は2.2兆円、21年度は1兆円、合計3.2兆円と推計される。松本会長は、「この3.2兆円の減収のダメージがそのまま残っている」と指摘した。聖マリアンナ医科大東横病院(川崎市中原区)や加藤病院(北海道苫前郡羽幌町)など大病院であっても4病院が閉院、または閉院予定となるなど、地域や医療機関によっては影響が大きいとして、「地域医療を支えてきた医療機関の閉院により、地域から医療がなくなると、そこには人が住めなくなる」と危機感を示した。
そのうえで、財務省が財政制度等審議会・財政制度分科会に、「コロナ補助金等による内部留保の積み上がり」を「賃上げ原資等として活用する方策」に検討することを提案していることに触れ、「コロナ補助金等は従来の目的である感染症対策にしっかりと活用しなければならない」と指摘。「賃上げは、フローで行われるものであり、あくまでもコロナ禍という特殊な状況で生まれた感染対策に使うためのストックは、賃上げの原資とするものではない」と改めて強調した。
このほか、近く取りまとめられる岸田内閣の新たな経済対策に向け、入院患者への食事療養に対する補助金での財政支援と、光熱費などの物価高騰に対する交付金での財政支援の継続を訴えていることを改めて紹介した。