24年度費用対効果制度改革 価格調整対象範囲拡大は見送り、検討継続へ 価格引上げ要件緩和も
公開日時 2023/12/14 06:29
中医協費用対効果評価専門部会は12月13日、2024年度制度改革の骨子案を大筋で了承した。焦点となっていた、高額医薬品の価格調整の対象範囲拡大は見送られた。軽度認知症治療薬・レカネマブ(製品名:レケンビ)の特例的な扱いも踏まえ、26年度改定に向けて引き続き検討を行う。価格調整範囲をめぐっては中医協委員から拡大の姿勢を示す意見があがる一方で、製薬業界は「価格調整範囲が薬価本体に割り込むことは受け入れられず、現行 の価格調整範囲を維持するべき」と強く反発していた。価格引上げの要件が厳しいことも指摘される中で、骨子案には、ICERが200万円/QALY未満の品目に対する条件の緩和する方針も示しされた。
◎レケンビの費用対効果評価は閾値設定で110%、85%の上げ止め、下げ止め設定へ
24年度制度改革では、価格調整範囲が限定的との専門組織の指摘を踏まえ、価格調整範囲の拡大が焦点となったが、見送られることとなった。「高額医薬品に関しては、費用対効果評価をより活用していく観点から、レケンビに係る特例的な取扱いも踏まえつつ、令和6年度診療報酬改定の次の改定に向けて、価格調整範囲のあり方について引き続き議論を行う」とされた。
レケンビをめぐっては、「特例的な対応」として、価格調整範囲をめぐっては、費用対効果評価の結果、「ICERが500万/QALY」を閾値として、見直し前の価格の差額を算出し、差額の25%を調整額とする。現行のルールを踏まえ、価格が引き上げとなる場合には、価格調整後の価格の上限は、価格全体の110%(調整額が価格全体の10%以下)、価格が引き下げとなる場合には、調整後の価格の下限は、価格全体の85%(調整額が価格全体の15%以下)として、“上げ止め”、“下げ止め”を設定している。
◎診療・支払各側から議論進めることを求める声相次ぐ
価格調整範囲拡大に向けた議論が進められてきたこともあり、26年度改定での議論を求める声が診療・支払各側からあがった。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「特に高額医薬品が保険収載されていく中で、費用対効果価格調整範囲が、現状、極めて限定的であるという課題については、24年度の次回改定に向けてしっかりと議論を進めるべき」と指摘した。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「今回は対応を見送ることを承知するが、次回改定に向けて、高額医薬品に限定するかどうかも含め、しっかり議論したい」と述べた。支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「価格調整範囲のあり方については、少子高齢化の中で医療の質を確保しながら、医療保険制度の持続可能性を高めていく必要がますます増大していくということを踏まえると、今回一定の結論を出していただきたかったというのが正直な想い。レケンビにかかわる特例的な取り扱いについてはよく検証した上で、24年度診療報酬改定の次の改定では、本格的な導入をお願いしたい」と述べた。
一方、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「価格調整範囲を拡大していく方向について、イノベーション評価の観点はドラッグ・ラグ/ロスへの影響など重要な視点となる。今後の議論において、業界の意見なども踏まえつつ、慎重な判断ができるよう進めていくべき」と述べた。
業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬参与渉外調査担当)は、「イノベーション評価の観点も十分にご配慮いただいた上で、収載時の薬価算定および収載後の薬価改定方式との関係を十分に議論することが必須」と述べた。
◎引上げ条件 インパクトファクター15以上要件緩和 支払側・松本委員「十分な妥当性検証」求める
骨子案には、価格引上げの要件も見直しも盛り込まれた。「ICERが200万円/QALY未満」の品目に対する価格引上げ条件については、対象集団を「日本人を含むアジア人を対象とした集団」から「日本人を含む集団」に緩和。引上げ条件のうち、インパクトファクターの平均値が15を超える学術誌に原著論文が受理されていることとされた条件は、他の条件をすべて満たしている場合に、「疾患領域の特性等により満たすことが困難な場合は、査読を受けた英文の原著論文であり、専門組織で議論し、論文が十分、科学的に妥当と判断される場合には、当該条件を満たすものとみなす」とされた。
支払側の松本委員は、「論文の掲載に関する要件を満たせない場合の取り扱いにつきましては、科学的に十分な妥当性を専門組織でしっかりご覧いただくようお願い申し上げる」と述べた。
◎再指定時の価格調整 価格調整前の有用性系加算割合に
このほか、費用対効果評価の品目指定をめぐり、抗がん剤などで価格調整に係る基準値の配慮がなされていることから、製薬業界は希少疾病医薬品への拡大を求めたが、「これまでの評価にあたっては明らかな問題はないことから、現状の規定を維持する」とした。
再指定時の価格調整範囲については、保険適用時に指定基準を満たさない品目の指定について、市場拡大によって基準に該当するかの確認は、四半期再算定の運用等を参考に四半期ごとに確認。再指定時の価格調整範囲については、外国平均価格調整後の医薬品等の調整範囲を参考に、価格調整前の価格に対する有用性加算等の割合とすることとされた。
業界代表の藤原専門委員は、「価格調整範囲が薬価本体に割り込む可能性が懸念されるため、当初の薬価および価格調整範囲に立ち戻って、価格調整を行うべき。すでに市場の拡大および効能追加につきましては薬価制度において複数の再算定が運用されており、これらを再指定して評価する必要性は乏しいのではないか」と強調。「今回の制度の見直しに伴って、実際にどのような運用および価格調整が行われるのか。またその影響について検証が必要」と述べた。