中医協総会 レケンビの薬価、費用対効果評価で15%引下げへ 公的医療の立場を採用 11月1日適用
公開日時 2025/08/07 08:34
中医協総会は8月6日、費用対効果評価により、アルツハイマー病治療薬・レケンビを15%引き下げることを了承した。レケンビをめぐっては、公的介護の立場からの追加的分析が初めてなされたが、技術的・学術的な課題があることを踏まえ、公的介護分析を価格調整に用いないことを決定。「公的医療の立場」の費用対効果評価結果に基づく価格調整の改定薬価を採用した。このほか、肥満症治療薬・ウゴービは7.3~8.3%、高脂血症治療薬・レクビオを約11%、高リン血症治療薬・フォゼベルを約11%引き下げる。適用日は11月1日。
費用対効果評価は、公的医療保険制度の範囲で実施する「公的医療の立場」を基本としつつ、公的介護費へ与える影響が評価対象技術にとって重要である場合には、「公的医療・介護の立場」の分析を行うことができるとされている。レケンビは初めて公的介護の立場からの分析が実施された。
◎公的分析ではNDB・介護DBの連結全てはできず
アルツハイマー病は重症度が経時的に変化することから、重症度別の介護費用を推計する必要があるが、現在はその介護費用データが存在しない。このため、企業分析では九州大学のLIFE studyと先行研究を組み合わせて推計。公的分析ではNDBと介護DBの連結データを用いたものの、すべてのデータ連結はできず、推計データにとどまるという課題も浮き彫りになった。また、介護負担の軽減により生じるQALYの計算方法については、学術的に確立されたコンセンサスは、現時点では存在しないことが報告された。こうした課題を踏まえて、“基本”とする「公的医療の立場」の費用対効果評価結果に基づく価格調整の改定薬価を採用」ことを事務局が提案。診療・支払各側が了承した。
◎診療側・江澤委員「現時点では解決の道のり長い」 支払側・鳥潟委員「NDB・介護DBの連結に期待」
診療・支払各側からは学術的な研究を継続する必要性を指摘する声があがった。診療側の江 澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「そもそも我が国には確固たる介護保険制度があり、諸外国を参考にするより、我が国独自のモデルも考えていくべき。また、介護者の負担軽減について、QALYの評価とすべきかどうかも、検討の余地があるのではないか」と指摘。「費用対効果における介護費用の取り扱いについては、具体的な例を積み重ねながら中医協において丁寧かつ詳細に整理をしていくとともに、学術的な研究や分析を引き続き続けていく必要があると思っている。費用対効果評価において、介護費用を考慮することは、現時点ではまだまだ課題が多く、解決までの道のりは長いものと考えている」と述べた。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)も「今回を契機に費用対効果、評価制度での取り扱いとともに、学術的に確立していくための検討や、研究の継続が必要と考える」と述べた。
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「介護費用の取り扱いにつきましては、引き続きデータの集積や研究の進展をもって、改めて検討するのが現実的ではないか。一方、公的分析においては、NDBと介護DBの連結データが活用できなかった点について、現在、医療分野も介護分野もDXを推進しているので、そこで得られたデータが様々な研究にも活用できるようになっていくことを期待している」と述べた。
◎支払側・高町委員 今後の“下げ止め”含めた価格調整の検討すべき
支払側で患者代表の高町晃司委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は、レケンビに下げ止めが適用されたことを指摘。「例えば200mgは本来ならば1万円台まで下がるところが下げ止めの適用によって、3万8910円にとどまると理解している。予め決められたルールに従った価格設定に異論はない。しかし、今後今回下げ止めとなり、猶予となった部分も加味した価価調整も検討すべき」と述べた。
◎レケンビ 市場規模の大幅な拡大認められず 投与患者数は収載時の予測と同程度で推移
レケンビ点滴静注をめぐっては、薬価収載後18か月経過時点での全症例を対象とした調査(特定使用成績調査)の結果も報告された。使用実態の変化は生じず、患者あたりの投薬期間の増加はなかったとした。ケサンラ点滴静注液も同様で、市場規模の大幅な拡大は認められなかった。同剤は今後、年間1500億円の市場規模を超えると見込まれる高額薬剤となる可能性があることから、使用実態の変化等による市場規模への影響を中医協に一定のタイミングで報告することが求められていた。
薬価収載後、両剤の効能・効果、用法・用量及び最適使用推進ガイドラインの要件に変更はない。レケンビ点滴静注の累計投与患者数は収載 2年度時点で約 7400人で、収載時の予測と同程度で推移している。レケンビ点滴静注の現時点の初回投与施設数は、薬価収載時に想定された施設数(約1400施設)を下回り、約 740施設で推移。投与施設数、投与患者数は、薬価収載時の予測と比べて大幅な増加は認められず、市場規模の大幅な拡大は認められなかった。なお、市販後においてもARIA(アミロイド関連画像異常)の発現は報告されているものの、添付文書の使用上の注意の改定はなく、新たな副作用に対する安全対策を講じるような報告は受けていないことも報告された。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「投与施設投与患者数、市場規模のいずれもおおむね想定通りということなので、安全性を含めて医療現場で適切に処方されたものと受け止めている。引き続き、ケサンラを含めた認知症全体の市場動向も把握した上で、適切なタイミングで中医協にご報告をお願いしたい」と要望した。支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は、「全症例を対象とした調査結果等を注視するとあるように、患者の状況を長期的に見た上で検討していくことが重要」と述べた。
【費用対効果評価後の新薬価は以下の通り。(2025年11月日適用)】
▽レケンビ(エーザイ、H1(市場規模が100 億円以上))
レケンビ点滴静注200mg 4万5777 円(現行薬価)→3万8910 円
レケンビ点滴静注500mg 11万4443 円 →9万7277 円
▽ウゴービ(ノボノルディクスファーマ、SDはH1(市場規模が100 億円以上)、ペン製剤はH5(ウゴービ皮下注SD の類似品目))
ウゴービ皮下注0.25mg SD 1,923 円→1,764 円
ウゴービ皮下注0.5mg SD 3,281 円→3,009 円
ウゴービ皮下注1.0mg SD 6,060 円→5,557 円
ウゴービ皮下注1.7mg SD 8,101 円→7,429 円
ウゴービ皮下注2.4mg SD 1万1,009 円→1万96 円
ウゴービ皮下注0.25mg ペン1.0MD 6,525 円→6,049 円
ウゴービ皮下注0.5mg ペン2.0MD 1万1,477 円→1万590 円
ウゴービ皮下注1.0mg ペン4.0MD 2万703 円→1万9,051 円
ウゴービ皮下注1.7mg ペン6.8MD 3万2,853 円→3万194 円
ウゴービ皮下注2.4mg ペン9.6MD 4万4,485 円→4万861 円
▽レクビオ(ノバルティスファーマ、H1(市場規模が100 億円以上))
レクビオ皮下注300mg シリンジ 44万3,548 円→39万4,758 円
▽フォゼベル(協和キリン、H1(市場規模が100 億円以上))
フォゼベル錠5mg 234.10 円→208.30 円
フォゼベル錠10mg 345.80 円→307.80 円
フォゼベル錠20mg 510.90 円→454.70 円
フォゼベル錠30mg 641.80 円→571.20 円