アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンの益子直樹ヘルスケア＆ライフサイエンス部長は2月７日、メディア向けオンラインセッションで、製薬業界の生成ＡＩの利活用について、「検討段階から実装フェーズに変わった」と明かした。同氏はこうした状況を「ペニシリンが誕生した時と同様のインパクトが今後３～5年で起こる」と見通す。その上で、製薬産業などライフサイエンス分野での投資拡大を予見。AWSが提供するソリューションについて、「より安価で、簡単で、アクセスしやすい生成ＡＩやＭＬ(機械学習)基盤により、イノベーションを起こせるプラットフォームを提供していきたい」と力を込めた。

この日のメディア向けセッションでは、2023年11～12月に米・ラスベガスで開催されたAWSの学習型カンファレンス「AWS re:Invent 2023」のうち、製薬企業による発表や動向が紹介された。

◎「“使ってみよう”から“すでに使っている”ステージに上がった」

益子氏は「AWS re:Invent 2023」のイベントを振り返る中で、生成ＡＩについて、「“使ってみよう”から“すでに使っている”ステージに上がった」と強調した。続けて、製薬各社が一昨年以降に行ったPoC（Proof of Concept：概念実証）のフェーズから「業務実装」のフェーズに限りなく進んでおり、投資インパクトは極めて大きいと強調する。特に目を引いたのは欧米系メガファーマの動きだ。ファイザーは、創薬研究、臨床開発、製造（生産）、コマーシャル・メディカルの製薬バリューチェーンの全てが生成ＡＩの実装フェーズにある。メルクやアムジェンもＲ＆Ｄや生産領域で生成ＡＩのユースケースを生み出しているとした。なお、グローバルメガファーマの上位10社中、9社にAWSのML基盤が利用されているという。

◎Ｊ＆Ｊ　コマーシャル領域での活用事例　正確性を期す仕組み構築

「AWS re:Invent 2023」における各企業の発表事例も紹介された。ジョンソン・エンド・ジョンソンは、コマーシャル領域で生成ＡＩを活用している。診断・治療・予後といったペイシェントジャーニーを想定し、電子カルテ、レセプト、デジタルヘルスデータなど非構造化データの利活用に向けて取り組んでいる。同社が抱える課題感は、電子カルテ等のマスデータ以外の市場調査データやトレーニングデータ、顧客とのエンゲージメントを通じて作成したドキュメント（文書）など、バラバラに社内に存在するデータやドキュメントを、いかに生成ＡＩを使って集めてインサイトを得られる環境につなげるかにある。その際、生成ＡＩの誤回答や正確性を期すために、検索拡張生成(RAG、Retrieval-Augmented Generation)技術を用いて、根拠となる文書などの出所も示す仕組みを構築しているという。

◎ファイザー　バリューチェーン横断で導入　年間10億ドルのコスト削減も

一方、ファイザーは、製造領域やコマーシャル領域などバリューチェーンを横断した17のユースケースで生成ＡＩを活用している。ユースケースの中には年間10億ドルのコスト削減につながるものもあるという。企業全体の意識として、革新的な医薬品の早期開発に向けてデジタル、データ、ＡＩが不可欠として、データ活用のプラットフォームを21年から着手、構築。生成ＡＩプラットフォームが特許出願の初稿作成や医学・科学コンテンツ生成などに活用されているという。

益子氏は、生成ＡＩの実装に向けて製薬業界から求められる課題として「ハルシネーション(事実に基づかない回答)が特に大きな課題になる。医療情報や特許を含めた知的財産を扱う機微に関わる情報があり、安全性に加えて回答の正確性や根拠が担保できないと使えないと判断される」と説明。その上でセキュリティ面や医療・製薬業界に特化したサービス展開などAWSの強みを紹介し「生成AIは重要な要素になる。より創薬にフォーカスした使い方をお客様とも議論して展開していきたい」と強調した。