住友ファーマの新たな代表取締役社長に就任する木村徹専務執行役員は5月14日の記者会見で、「ラツーダクリフにどう取り組むかという道はすでにつけられたと考えている。新体制の下でしっかり実行し、現実のものにしていく」と述べ、黒字化転換への意欲を語った。“ラツーダクリフ”を克服できず、24年3月期に純損失3150億円を計上するなど、2期連続で減損損失を計上。社長交代だけでなく、住友化学から取締役が加わるなど、経営陣を全面的に刷新する。木村氏は、「しっかり進めていけば間違いなく今年度のコア営業利益、来年度の当期利益、再来年度は余裕も持って黒字化に進む」と強調してみせた。住友化学による債務保証、金融機関の返済期間の猶予など厳しい経営環境で、経営再建に向けて厳しい船出を切る。
◎「しっかり進めるので信じてついてきてほしい」 今は厳しいが将来は可能性がある
「社員に対して、“ちゃんとやりきる、という文化を作りましょう”ということを、繰り返し言ってきた。今度は我々経営陣が実行して業績の立て直し、再成長につなげたい。当然、株主やステークホルダーに対する責任は非常に重いと感じているし、社員に対してこれまで何回も言ってきたことを我々自身が経営陣として示すことになったと考えている。(社員に対しては)しっかり進めていくので信じてついてきてください。いま厳しいが、我々の将来には非常に可能性があるものが揃っていると考えている」-。木村氏は社員へのメッセージをこう語った。
新生住友ファーマにとって、まずは医薬事業の再建が最大のミッションとなる。北米事業では2度の人員削減に踏み切るなど、販管費の抑制に取り組んできた。木村氏は、「ポストラツーダの様々な施策は野村社長の指揮の下、私も経営企画や経営の担当として一緒に進めてきた。ゼロからやり方を考えるということではなく、すでに道筋が見えているものを一つずつ実現していくことが当面のミッションだと理解している」と語る。「ポストラツーダを担うような製品は育ちつつある。我々が非常に苦労したのは、ラツーダを引き継ぐような製品を社内から出せなかったことだ」との認識を表明。開発中の抗がん剤候補に期待を寄せ、「売上が米国の基幹3製品(オルゴビクス、マイフェンブリー、ジェムテサ)でしっかり回復してくれば再度成長路線に乗れると信じている)と話した。
一方で、ブリッジローン約1450億円(24年3⽉末残⾼)を抱え、住友化学が債務保証を引き受け、返済期限は今年9⽉末まで延⻑された状況にある。「財務状況が非常に厳しく、住友化学の保証、あるいは金融機関の返済の猶予を受けている状況にあることは社員もしっかり認識を持ってもらいたい」と話し、社員に意識改革を求める考えも示した。
◎「再生・細胞医薬事業を新たな事業として立ち上げる」
今後の成長に向けて、「再生・細胞医薬事業を新たな事業として立ち上げること」も自身のミッションとして表明した。再生・細胞医薬事業は住友化学と共同で立ち上げる新会社に移管する考え。24年度中にパーキンソン病を適応とした他家iPS細胞由来製品の国内申請などを予定する中で、「プログラムの進捗に影響がネガティブな影響が出ないように、予算を含めて別会社にしてしっかり運営する」との考えを示した。
◎副社長に住友化学の酒井基行氏、取締役に米国事業トップの中川氏、住友化学の新沼氏
現在の経営陣は木村氏を除き、退任。新たに住友化学の代表取締役専務執行役員を務める酒井基行氏を代表取締役副社長に迎えるほか、住友化学の取締役副社長執行役員の新沼宏氏、米国事業のトップである中川勉氏を取締役に加えた新たな経営体制を発足させ、業績回復に向けてスタートを切る。
現社長の野村博氏は、経営にかかわらない特別顧問に就く。6月25日開催予定の定時株主総会での承認決議を経て、同日開催される取締役会において正式に決定する予定。住友化学から取締役を迎えることで、管理部門の強化も期待する。
経営再建のカギを握る米国事業の責任者を新たに経営陣に迎えることに木村氏は、「我々の米国のグリップをしっかり効かしながらあるいはフィージビリティを上げながら舵取りをする方向にしたい」と強調した。
また、住友化学から新たに取締役が加わるが、「住友化学からは幸いにも我々の債務に対する全額の保証をいただいた。住友化学との連携はさらに深めていかなければならない。親会社とのコミュニケーションを取りつつ進めていく」と強調。「経営の自由度という意味では、これまでのように研究開発費をかけられないなどの制限はある」としたうえで、「住友化学からメンバーが直に経営に参画することは、よりスムーズな連携の下で進めるという意味では、非常にポジティブに捉えている」と受け止めを話した。
◎新中計は新体制で策定へ 組織力強化にも意欲
新たな中期経営計画も、新体制で策定する方針を表明した。日本事業については、「北米については昨年度非常に大きな手を打てた。今年度は実際に実行するという課題だが、国内についてはまだこれまでのモノの考え方、体制で事業が動いている。まずは、導入その他でトップラインを増やせれば大きな絵が描ける。それが現実的に難しい場合は、サイズそのものをスリムにする、あるいは仕事の仕方を改革してより効率的に進めることを追求していくというフェーズもあるかと思う。新体制の下で必要に応じてディシジョンしていきたい」との考えを示した。
検討の方向性として人員削減を完全には否定せず、採用の絞り込みなどを含めて「あらゆる選択肢を検討する」との考えを表明。ただし、「単に人を減らすということではなく、仕事の進め方そのものをよりスピーディーにして物を決めて皆さんが動けるようにしたい。その違いが組織として出せるパワー、組織力になるのではないかと思う。単に、事業改革あるいはスリム化にするとかというのが直に人員の削減ということを意味しているわけではない」と話した。
◎野村社長「新たなリーダーで新たな道も開ける」 自身については「結果がすべて」
野村社長は社長交代について、「困難を切り抜けるための新体制を作っていかなければならない。リードする人を変えることで、新しい道も開けるだろう。新しい改革も進むだろうということだ。社長が変わらなければ、なかなか新しいこともやりにくいということもあると思う。私は、前向きに今後、この会社をどう再生し、成長させていくか、そのための舵取りをするためには新しいリーダーが必要だと認識している」と語った。
野村社長はまた、木村新社長について、「リーダーとしての役割をしっかり果たせると思うし、私にないサイエンスバックグラウンドというところがある。我々がこれから取り組むiPSに関する再生医療の事業化では日本でリーダーであろうと思う。これから我々の会社を変えていくのに非常にふさわしい人材だ」と話した。続けて、「我々として今やるべきことは業績の回復で、しっかりやり遂げなければいけない。北米のグリップを強め、コスト管理をしっかりやることで、我々の業績が回復しつつあるということをできるだけ早期に数字上出すことを何とか実現してもらいたい。再生医療やがん、中枢神経(CNS)をしっかり成長させ、30年代後半に向けて我々の成長の柱となるものをしっかり作っていただきたい」とエールを送った。
社長就任期間中、経営環境が厳しい中で様々な手を打った野村社長だが、自身については、「結果が全て」と言葉少なに語った。
◎「千里の道も一歩から」で、着実に必要な施策を打ちたい
木村氏は1960年生まれの63歳。89年3月に京都大大学院博士課程修了。89年4月に住友化学工業(現住友化学)入社。23年4月に代表取締役専務執行役員経営企画、経理、再生・細胞医薬事業推進、再生・細胞医薬神戸センター、再生・細胞医薬製造プラント担当を担っていた。座右の銘について問われ、「夢や希望が好きで、“夢なき者に成功なし(吉田松陰)”といつも思っているが、今はまさに“千里の道も一歩から”ということで、着実に必要な施策を打って進めて参りたい」と話した。
◎役員報酬減俸 社長は基本報酬の30%、取締役は20%の減額
同社は同日、役員報酬の減俸も発表した。代表取締役社長は基本報酬の30%、その他の取締役(社外取締役を除く)は基本報酬の 20%減額する。24年3月期の業績連動型報酬(賞与)は、支給対象の全取締役につき、100%減額する。減額実施期間は、24年5月か25年 3月まで。