【MixOnline】パンくずリスト
【MixOnline】記事詳細

厚労省・伊原事務次官 創薬力強化へ「ベンチャーのチャレンジ応援する制度を実現」 補正予算見据え

公開日時 2024/11/11 05:30
厚労省の伊原和人事務次官は11月8日、ヘルスケア産業プラットフォームの総会で講演し、創薬力強化に向けて、「アカデミアにあるシーズをベンチャーが実際に一歩踏み出し、臨床開発につなげていくチャレンジを応援するような制度、仕組みを考えたい」と語った。政府が今月中にも取りまとめる新たな経済対策に盛り込み、24年度補正予算案に反映させる考え。伊原事務次官はイノベーションの重要性を強調し、厚労省としても環境整備を進める姿勢を強調した。25年度薬価改定についても言及し、「保険料が上がらないように配慮するという命題と(イノベーション推進や安定供給など)薬ごとの事情の両方を考えながら答えを出していくことが必要ではないか」と述べた。

◎医薬品産業を成長産業へ「日本の中で薬を作るという想いでチャレンジを」

創薬力強化をめぐり、伊原事務次官は、「厚労省も2年ほど前から創薬力が低下していることに危機感があった」として、医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会を立上げ、組織的にも専任の審議官である大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官を設けるなど、創薬力強化に向けて厚労省として取り組んできたと説明した。

特に、創薬の担い手が世界的にベンチャーへとシフトしていることに危機感を表明。医薬品市場全体でみても売上高は大手製薬企業が6割を占める一方、開発品目数はベンチャーが8割を占めている状況にある。一方で、日本発の新薬のうち、ベンチャー由来は1製品のみにとどまっている。実際に、欧米では承認されているものの、国内で開発が未着手とされた、いわゆるドラッグ・ロス86品目のうち、56%がベンチャー発の品目だ。なお、現時点では8品目の開発に着手済で、ドラッグ・ロスは78品目という。

伊原事務次官は、日本の製薬企業は自前主義でシーズから臨床開発まで手がけるか、もしくは臨床試験の段階が進んだ品目を導入してパイプラインを拡充するケースが多いと指摘。「日本の産業として創薬をこれから伸ばしていこうと思うのであれば、日本の中で薬を作ろうという想いをもってチャレンジすることが大事だ」と述べた。そのうえで、「創薬力を考えたときには、ベンチャーの問題は非常に大事だと思っている」と強調。「製薬企業だけが開発するというモデルではなく、アカデミアの最初のシーズをベンチャーが取り上げある程度まで育てる。それを開発力のある大手製薬企業にバトンタッチし、実際の製品化につなげていくという環境を日本で作ることが大事だと思っている」と述べた。実際に、こうした形で日本発の大型品を生み出していく必要性も指摘した。

◎基礎研究の段階から創薬を見据えた官民連携の事業に対する支援を

そのうえで、武見厚労相(当時)の肝いりで今年8月に公表された「近未来健康活躍社会戦略」で、「グローバルな創薬エコシステムの構築」を打ち出したことを紹介した。ベンチャーキャピタル(VC)を含む海外の実用化ノウハウを有する人材や資金の積極的な呼び込みに向けた官民協議会の立ち上げや、創薬クラスターの強化などが盛り込まれていることを紹介した。

特に、ポテンシャルのあるアカデミアシーズの実用化支援に注力する姿勢を強調。「ポテンシャルのあるアカデミアシーズを単なる大学の中でのアイデアではなく、薬の開発に一日も早くつなげていくためのシステム作り、基盤整備をしたい」と意欲をみせた。「基礎研究の段階から創薬を見据えた官民連携の事業に対する支援を行う」ことが明記されていることにも触れ、「武見大臣も何とかしようと強くおっしゃっていて、年末の予算編成作業を行っているが、アカデミアにあるシーズをベンチャーが実際に一歩踏み出し、臨床開発につなげていくチャレンジを応援するような制度の仕組みを考えたい」と述べた。また、そのための基盤整備として、「FIH(First In Human:ヒト初回投与)試験体制等の整備や、バイオの製造人材の育成にもチャレンジしていきたい」と話した。

◎25年度薬価改定「保険料上昇に配慮する”命題”と薬ごとの事情踏まえ答えを出していく」

25年度薬価改定については、今年6月に閣議決定された骨太方針に「イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討する」と明記されている。

伊原事務次官は、「骨太方針が現在の政権の基本的な直近の考え方」と説明。(供給不安が続く中で)薬価の面で、混乱を来すようなことはしてはいけない」ことや、「後発品のようにもともとコストと薬価の差が薄い品目は、当然インフレの影響もある。こうした物価上昇などを取り巻く環境も考えていく」と述べた。一方で、「今回の選挙でも、若年者の社会保険料負担に対する国民の関心もある中で、どのように医療保険の保険料水準を適正に保っていくのかを考えなければならない」と説明。「これらの要素を総合的に勘案して、今後まさに政党ごとに色々な議論がされていくと思う。そうした議論も踏まえながら、厚生労働省としても、財政当局と相当なやり取りをしながら決めていくのではないか」と述べた。

前回のいわゆる中間年改定となった23年度薬価改定では、不採算品再算定と新薬創出等加算の特例適用が緊急・特例的に措置された。薬価の引下げを受けたのは48%(約9300品目)と半数以下にとどまり、不採算品再算定により薬価が引き上げられた品目は1100品目、薬価が維持された品目も約9000品目、46%にのぼった。伊原事務次官は、「中間年改定は、毎年全部やるみたいに思われているが、むしろ特別な対策を講じる」ことで、医薬品の状況に応じた改定となっていることを説明。25年度改定についても、「保険料が上がらないように配慮するという命題と(イノベーション推進や安定供給など)薬ごとの事情の両方を考えながら答えを出していくことが必要ではないか」と述べた。

◎市場実勢価格主義ベースに課題に対するルールで対応が「現実的」 

日本の薬価制度は市場実勢価格主義を貫いている。この点についての見解を問われ、米国のように医療機関・薬局と医薬品卸、製薬企業の間で自由に価格を決める方法では、「薬価差も解消し、物価も上がっていけば、それに見合った金額になるかもしれないが、米国では薬価が高額となる。そんな仕組みは、日本の公的保険では成り立たない」と説明。「国民皆保険のベースとして、今の薬価制度をベースに考えながら、インフレや流通上の過度な薬価差などの課題に対応する。課題のある部分について解決策を見つけていくことが現実的ではないか」と述べた。また、「デフレからインフレへと新しい時代に来ている中で、これまでやってきたことについても、あり方自身を見直すことが必要」との認識を表明。医療用医薬品の流通の改善に関する懇談会で議論を進めていることを紹介した。

伊原事務次官は、「元々公的保険という制度は、全ての人に医療を保障していくという形になっているので、価格統制が入ってくるのはやむを得ないところがある。課題を1個のルールでどう解決していくかということに知恵を絞っていくことが必要ではないか」と表明。「製薬企業や卸の方々から、ご提案やご意見を出していただき、それ対して(中医協での)保険者側や診療側の指摘を受けながら、皆が合意できるところを見つけていくということではないか」と述べた。

◎費用対効果評価「イノベーションと保険財政の両立で考えていくテーマ」

費用対効果評価についても言及した。骨太方針には、「イノベーションの推進や現役世代等の保険料負担に配慮する観点から、費用対効果評価の更なる活用の在り方について、医薬品の革新性の適切な評価も含め、検討する」と明記された。伊原事務次官は、日本では承認後、原則60日以内に薬価収載されるが、「このルールについては 維持するということ」と説明した。そのうえで、“医薬品の革新性の適切な評価も含め”と記載されていることに触れ、「要は、とても良い薬についても考えるみたいな話も書いてあり、これは大きな一つの整理をしている。こうしたことも、今後日本の医薬品のイノベーションと保険財政をどう両立させていくかということで、考えていくテーマではないかと思っている」と述べた。

◎後発品少量多品目から切り替え「順を追った見通しが立てられる仕組みを」 次期通常国会に法案提出も

後発品を中心に供給不足が続いている状況についても紹介した。安定供給に向けて、安定供給責任者の設置や、情報共有に向けた“マネジメントシステム”の確立などに加え、産業構造の問題についても言及。日本では後発品を1品目以上製造している企業が190社あるが、「日本は特殊。ほかの国では、後発品企業は限られた所が大領に作るのが基本で、その辺は違うところがある」との認識を示した。そのうえで、「一挙に会社の構造が変わるわけではないし、今の生産設備もある。どのように少量多品種生産から切り替えていくのか、そのための順を追った見通しが立てられる仕組みを作っていく」と述べた。

少量多品目の解消に向け、企業間の連携・協力を推進する必要性も強調。「企業統合やコンソーシアムなどにもチャレンジしていく必要がある。そのための経済的な後押しをする仕組みが必要だ。いま最終的な取りまとめをしており、来年の通常国会で議論できないかと思っている」と述べた。

プリントCSS用

 

【MixOnline】コンテンツ注意書き
【MixOnline】関連ファイル
【MixOnline】記事評価

この記事はいかがでしたか?

読者レビュー(14)

1 2 3 4 5
悪い   良い
プリント用ロゴ
【MixOnline】誘導記事
【MixOnline】関連(推奨)記事
【MixOnline】関連(推奨)記事
ボタン追加
【MixOnline】記事ログ
バナー

広告

バナー(バーター枠)

広告

【MixOnline】アクセスランキングバナー
【MixOnline】ダウンロードランキングバナー
記事評価ランキングバナー