
インスメッド日本法人の中村誠社長は11月27日、東京都内で本誌インタビューに応じ、承認申請中の気管支拡張症を対象疾患とするDPP1阻害薬・ブレンソカチブの2026年中の承認取得及び上市を念頭に、MRを50人採用すると表明した。「患者さんに新薬を届けるための、医療従事者の良きパートナーになりたい」との意識を持つ人材を求めていると語った。また、ブレンソカチブを含めて国内の開発後期プロジェクトが8つあることを紹介。「26年は非常に濃密で意義のあるエキサイティングな年になる」と述べ、開発やメディカルなど各部門の組織拡充に取り組むとともに、持続的な2ケタ成長を確かなものとする重要な年になるとの認識を示した。
◎グローバルに占める日本の売上比率は約28% 26年中にMR100人体制に
インスメッドは1988年に米国で誕生した新興バイオファーマ。日本法人は2017年に設立し、21年の難治性肺MAC症治療薬・アリケイス吸入液の上市を皮切りに日本市場での製品戦略を本格化させた。現在の取扱製品はアリケイスのみだが、25年1~6月の日本の売上は前年同期比46.5%増の5200万ドルと急成長中。グローバルに占める日本の売上比率は約28%と高い。
日本法人の従業員数は「200人近く」(中村社長)で、うちMR数は50人。ここにブレンソカチブの上市に向けてMRを50人増員し、26年中にMR100人体制とする計画だ。
中村社長によると、アリケイスの対象疾患である難治性肺MAC症の患者の6~7割はブレンソカチブの対象疾患である気管支拡張症を合併し、二つの疾患には高いオーバーラップがある。治療する医師も施設も多くが重なっている。
しかし、難治性肺MAC症の国内患者数は約1万6000人であるのに対し、気管支拡張症患者は10万人以上いるという。中村社長は、「当社がアリケイスで訪問している(呼吸器内科や感染症内科の)施設における気管支拡張症の比率は高い。しかし、当社が訪問できていない施設に気管支拡張症患者さんが多くいる可能性があり、MRを増やしてカバーする必要があると判断した」とMRを増員する理由を説明した。
◎池田営業本部長 求めるMR像に「病院を包括的に見れる視点」 大学病院担当経験も重視
同社が求めるMR像も気になるところだ。この点について中村社長は、「当社には、患者さんに新薬を届けるための、医療従事者の良きパートナーになりたい」との基本的な考え方があると説明した。
同社は、アリケイスの適正使用と治療継続のために、患者が治療に納得して取り組める環境作りを重視している。背景には、アリケイスが高薬価である点や、毎日の吸入時に消毒が必要になるといったことがある。具体的な取り組みとしては医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師など患者を取り巻く全ての医療従事者をサポートする体制を構築しているほか、看護師の派遣や、患者サポートプログラム「アリケアサポート」などを提供している。
中村社長は、こうした医療従事者へのサポート活動は「高い評価を得ている」との認識を示した。そして、インスメッドMRに求める姿勢として、「MRには、『我々にはこういうケイパビリティがあり、こういったサポートができる。我々を最大限利用してください』とのアプローチが求められる。これが患者さんに当社製品を届けるための、医療従事者の良きパートナーになるということであり、ブレンソカチブでも、そうありたい」と述べた。
池田直正営業本部長は、「病院を包括的にみれる視点は重要」とした上で、「チームワークで医療が進む中、当社MRがハブ役になりたい」と話した。さらに、「少数精鋭の組織のため、全員が基幹病院あるいは大学病院を担当してもらうことになる。少なくとも大学病院担当の経験者でないと務まらないと考えている」とも語った。一方、呼吸器領域のMR経験は「nice to have」であり、必要条件ではないとした。
また、アリケイスやブレンソカチブなどのインスメッド製品は「全てがファーストインクラス薬、又はベストインクラス薬」だとしており、「開拓心があり、サイエンスリテラシーの高い人材を求めている」とも述べた。
◎ブレンソカチブの気管支拡張症対象のP3結果公表で株価10倍
国内の開発後期プロジェクト(P3参加予定含む)は、▽申請中=ブレンソカチブ〈対象疾患:気管支拡張症〉、▽P3結果待ち=アリケイスの投与対象患者の拡大、▽P3=トレプロスチニル パルミチル吸入粉末(TPIP)〈対象疾患:間質性肺疾患に伴う肺高血圧症(PH-ILD)〉、▽P3準備中(参加予定)=ブレンソカチブ〈対象疾患:鼻茸を伴わない慢性副鼻腔炎/化膿性汗腺炎〉、及びTPIP〈対象疾患:肺動脈性肺高血圧症(PAH)/特発性肺線維症(IPF)/進行性肺線維症(PPF)〉――の8つある。
このうちブレンソカチブは、ジペプチジルペプチダーゼ1(DPP1)を可逆的に阻害する、1日1回投与の低分子経口阻害薬。気管支拡張症を対象とする日本を含む国際共同第3相試験(ASPEN)では、主要評価項目の肺疾患増悪(PEs)の発生率でプラセボと比較して統計学的に有意な減少及び臨床的に意義のある減少を示すなどした。この結果の公表により株価が10倍上がったとのエピソードもある。
なお、米国では8月に、成人および12歳以上の小児の非嚢胞性線維症気管支拡張症(NCFB)に対するファーストインクラスの治療薬として承認された。ブレンソカチブは、NCFBの慢性気道炎症を引き起こす主要因とされる好中球内の酵素(好中球セリンプロテアーゼ)の活性化を阻害するよう設計されており、その他の好中球を介する疾患における有用性についても評価が進められている。
◎アリケイス 全ての肺MAC症患者への対象拡大、26年上期にP3結果公表
アリケイスの日本での投与対象患者は、「肺MAC症に対する多剤併用療法による前治療において効果不十分な患者に限定すること」とのしばりがある。これに対し、投与対象の縛りを外し、全ての肺MAC症患者に使用できるようにするための日本を含むP3の結果が、26年上期に示される予定になっている。
中村社長は、P3の結果次第とした上で、「良好な結果が出た場合、日本でも投与対象の拡大を申請する」と述べた。アリケイスが全ての肺MAC症に適応となった場合、投与対象患者は現在の3倍の6万3000人が見込まれると説明した。今後増員するMRは、この全ての肺MAC症にも対応する予定だ。
トレプロスチニル パルミチル吸入粉末(TPIP)は、炭素数16の炭素鎖にエステル結合で結合したトレプロスチニルで構成される、トレプロスチニルのプロドラッグ。TPIPは、カプセル製剤で、吸入器を使用して投与する。
◎ブレンソカチブ流通体制「複数社体制で検討」 スズケン1社流通のアリケイスは対象拡大を機に検討
インスメッドの国内製品は現在アリケイスのみで、スズケンの1社流通となっている。今後の流通体制について中村社長は、「基本的には製品毎、適応症の追加等の状況に応じてそれぞれ検討する方針」だと述べた。その上で、投与対象患者が多いブレンソカチブについては、「複数社体制で検討している」と明かしてくれた。アリケイスが将来、全ての肺MAC症に適応となった場合は、「(取扱卸を)増やす必要があるかを別途、検討する」と話した。