独バイエル・ヴェグナー氏 世界同時申請・承認に力「日本の患者さんにいち早くイノベーション届ける」
公開日時 2026/05/28 05:30

独バイエル医療用医薬品部門レギュラトリーアフェアーズの責任者を務めるマックス・ヴェグナー氏は5月27日、本誌取材に答え、「日本を含めたグローバル同時申請・承認を通じ、日本の患者さんにイノベーションをいち早く届ける」と力を込めた。PMDAによる新有効成分の審査期間が米FDAよりも短いことなどを引き合いに、「日本は予測可能性が高く、質の高い仕事をする国。当局の審査過程の透明性、明確性が日本に期待できる」と話した。今年3月にはMRI用造影剤・アムベルビストが世界に先駆けて日本で承認され、日本市場を重視する“実績”も示した。3つの先駆的再生医療等製品指定を取得していることにも触れ、革新的新薬を迅速に日本市場に上市することに注力する姿勢を鮮明にした。
◎「日本はバイエルにとって重要なマーケット」 PMDAによる審査「効率的で予見可能性高い」
「日本はバイエルにとって非常に重要なマーケットだ」-。ヴェグナー氏はこう話を切り出した。同社にとって、日本は国として米国、中国に次ぐ第3の市場だ。さらに、PMDAの審査が「効率的で予見性が高い」と強調する。新有効成分(NAS)の承認審査期間(中央値、2020-24)は日本では291日と最短。米国(313日)、中国と続くという。欧州では422日と開きがある。新有効成分の承認件数(24年)も米国に次いで多い。
ヴェグナー氏は、「PMDAは非常に効率がよくプロセス進めている。これは他の多くの他の国、地域と異なるポイントだ」と話す。迅速審査の件数は米国を大きく下回るが、この点だけを重視していないとして、日本では迅速な審査体制を敷いていると説明。「我々にとって重要なのは、迅速で予測可能かつ確実な審査を実施してくれる規制当局と協力することだ」と話した。「最も信頼性の高いのは米FDAだが、最近不安定性が出ているように思う。PMDAは安定性も信頼性も高く、プロセス自体も速い」との見方も表明。グローバルでの同時申請・承認を目指す中で、日本市場を重視しているとの姿勢を示す。
◎「世界同時申請は簡単ではない」 アムベルビストは日本が世界初承認「日本重視の表れ」
「同時申請は簡単そうに聞こえるが、国によって要件が異なるため、簡単ではない。しかし、私たちは同時申請だけでなく、同時承認も実現できる能力を持っている」とヴェグナー氏。高品質な申請資料の提供に加え、「日本の薬事の社員も当局と交渉ができ、適切に開発プロセスを実行していくことができる」と規制当局との緊密な連携にも自信をみせる。
実際、日本が世界初承認となったアムベルビストのほか、ニュベクオ、ベリキューボ、ケレンディア、アイリーア8mgでグローバル同時申請・承認を実現した。「世界初の申請を日本で行っていることは、我々が日本市場をどれだけ重視しているか、の具体的な表れだ」と強調する。
同社のパイプラインには、ブレークスルー・イノベーションを起こすことが期待される遺伝子治療や細胞治療も並ぶ。完全子会社のAsklepios BioPharmaceutical社(AskBio)の開発する心不全治療薬候補・AB-1002、パーキンソン病治療薬候補・AB-1005、BlueRock Therapeutics社のbemdaneprocelが先駆的再生医療等製品の指定を取得しており、「こういった医薬品も早く患者さんの手に届くようになると思う」と日本へのコミットを強調する。
◎日本でのP1追加実施原則不要、英語での申請資料提出可を前向きに受け止め
日本の規制環境については、「厚労省やPMDAが進めている変革が機能し、将来もイノベーションが日本でしっかりと根付くようにしていかなければならない。必要な人材と日本発のイノベーションという環境が構築されつつあることに非常に期待している」と語る。
特に、第1相試験(P1)の位置づけ明確化や、英語での申請資料提出などによる効果に期待を寄せた。P1をめぐっては、「原則として、日本人での第Ⅰ相試験を追加実施する必要はない」ことが明確化されたが、ヴェグナー氏は、「例えば、日本では最適な用量設定が違うかもしれない場合は、日本人を対象にP1を行う必要がある。ただ、日本人対象のP1が必須要件でなくなったことで、我々のフレキシビリティが大きくなった」と説明。開発を通じてデータを収集し、「データ駆動型の意思決定を行うことで、P1が本当に必要なのか検討することも可能になった」と話す。
米国では28年から運用がスタートする「処方薬ユーザーフィー法(PDUFA VIII)」の策定に向けた議論が進み、米国でのP1の実施が必須要件となる可能性も浮上している。ヴェグナー氏は、「バイエルは欧州の企業で、一番近い欧州内でP1を実施することが多かったが、将来的には、日米欧のどこで実施するのが一番会社として意義があるのか検討することになる。プロジェクトごとに、戦略的にディスカッションをして決めていくことになる」とも話した。英語での申請資料提出が可能になることで、「プロセスのスピードが非常に上がる」と期待を寄せた。
◎リアルワールドデータめぐる環境整備に期待も
一方、リアルワールドデータ(RWD)の利活用についてはさらなる環境整備が必要との見解も示す。ヴェグナー氏は欧州での実例を踏まえ、「製薬会社がどのようなデータベースにアクセスができるかによって限界がある」と指摘。製薬企業が大規模な患者データベースにアクセスし、RWDを二次利用できれば、「臨床試験に最適な患者集団を特定するなど、開発の意思決定に活用でき、非常に有用だ」と話す。さらに、「RWDを承認申請の補完だけでなく、一部を代替できることが望ましい」との見解も示した。「日本の規制当局もすでに課題は認識している。リアルワールドエビデンスは、検討するよりも意思決定などに使えるまでいくことが相当難しいのではないか。当局はいま、学習の途上にある」との見方を示した。欧米など複数の規制当局が実験的に活用を検討していることに触れ、日本でもRWDをめぐる環境整備が進むことに期待を寄せた。

ヴェグナー氏は、「我々の顧客は患者さんだ。患者さんに革新的医薬品を提供するためには、エコシステムが必要だ。審査プロセスだけでなく、製品開発にかかる時間も考慮する必要がある。AIやリアルワールドデータ・エビデンス、クラウド申請など、新たなツールには将来役立つ可能性が秘められている」との見解も表明。「たとえPMDAがきょう世界最高の承認機関であったとしても、明日も世界最高の承認機関であるとは限らない。我々全員が変化し、進歩していかなければならない」と述べ、新たなイノベーションが生まれる中で、規制の在り方も進歩を続ける必要性も指摘した。