欧州製薬団体連合会（EFPIA）のフベルトゥス・フォン・バウムバッハ会長（独ベーリンガーインゲルハイム取締役会会長）は10月13日、EFPIA　Day2021の記者会見で、イノベーションは「日本のヘルスケアシステムの価値創造やコスト削減をもたらす」と自信をみせた。高齢化などで世界各国がヘルスケアの課題に直面するなか、課題解決に向けた製薬産業に求められるイノベーション強化の意義を強調し、日本の医療システムの変革の一助になると期待感を込めた。そのためには日欧の国境を越えたグローバルパートナーシップが重要だとして、「協力するとより多くのことが実現できる。その機会を是非活かし、欧州と日本の患者さんにそのメリットが届くようにしたい」と意欲をみせた。（写真は2019年４月17日、独ベーリンガーインゲルハイム本社にて本誌撮影）

◎「医療システムを変革させる可能性を秘めている」　20年に5000件の臨床試験スタート

フォン・バウムバッハ会長は、「新型コロナに目を奪われているが、世界的な人口増や高齢化社会の到来、そして慢性疾患の負担増などで、ヘルスケアシステム医療サービスの需要増に直面していることを忘れてはならない」と指摘した。実際、慢性疾患は全疾病の70％を占めるとのデータを示し、患者の多い、がんなどは社会課題になっているとの見方を示した。希少疾患や、がんなどの治療法確立が望まれるなかで、コロナ禍にもかかわらず、2020年には5000件の臨床試験が開始されたとのデータを示した。フォン・バウムバッハ会長は、「これらの画期的な新しい治療法は医療システムを変革させる可能性を秘めている。そしてその変化を通じて、患者の生活の質が向上することになる」と強調した。

◎革新的新薬の登場は社会の経済損失を軽減できる

一例として、非アルコール性脂肪性肝炎（NASH）をあげた。PPAR/FXRアゴニストの登場で、肝臓の脂肪の蓄積、炎症、線維化を抑制できれば、後期NASH患者数を年間13万4000人減少し、肝移植の15％（１万3500例）削減するなど、医療費削減効果は14億ユーロに上るとの推計を示した。また、損失日数（休業日数）を15％削減できるとの推計を提示し、患者やヘルスケアシステム、社会に影響をもたらすことができると強調した。

フォン・バウムバッハ会長は、「欧米には革新的な医薬品産業がある。しかし、一つの国、一つの部門、一つの関係者が全ての答えを持っているわけではなく、協力および共同研究がカギを握る」と述べた。欧州には、官民パートナーシップである「イノベーティブ・ヘルス・イニシアチブ（IHI）」があるとして、日本の研究コミュニティにも開かれているとして、さらなるパートナーシップの必要性を強調した。そのうえで、「コラボレーションを通じ、安定したイノベーションが促進され、予見性のある環境に支えられた経済成長と投資を支持することができる。そして、アクセスが促進され、より健全な日本社会を支持することで、社会的な価値を提供することができる。力を合わせることでお互いが強くなることができる」と強調した。

◎日本の産業力アップには「研究開発力の更なる強化が必要」　医薬産業ビジョン2021の実現を

産業界ではすでにパートナーシップを通じ、新型コロナの治療薬やワクチンの研究開発や製造などが加速的に進んだことを引き合いに、「企業、産業界が協力して、そのノウハウの強みを合わせることによって結果的によりよい医薬品をもたらすことができる。だからこそ、特に日欧が互いに協力し、イノベーションのノウハウを吸収することで、結果として差をつけることができると思う」と述べた。規制当局の薬事面での調和の重要性も強調。「効率性やスピードが必要になってくると思う。共通の薬事承認や様々な国ごとに並行した臨床試験を行うことで、時間も財源も増やすことを避けることができる。これにより、上市するまでのスピードを改善することができる」と述べ、薬事面での規制緩和にも触れた。

また、「日本の産業力をアップするためには、研究開発力の更なる強化が必要だ。そして、医薬産業ビジョン2021の実現が必要になってくる」とも言及した。