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【FOCUS 日本の医薬品産業は本当に魅力的でないのか?】

公開日時 2022/05/09 04:53
日本の医薬品市場の魅力が無くなったという話を耳にする。本当に魅力が無くなってしまったのだろうか。各種マーケットデータから日本の医薬品産業が直面する課題に迫ってみた。(編集長・沼田佳之)

IQVIAのトップライン市場データをみると、国内医療用医薬品市場は2011年に初めて9兆円を突破し、15年には10兆5980億円の大台に到達した。ただ、5年を経過した21年は10兆5990億円で、この間のマーケットトレンドが、ほぼフラットで推移していることが分かる。その背景として政府による新薬創出等加算制度の見直しや毎年薬価改定などを指摘する声があるが、その影響が顕著に出始めたのは2018年以降だ。実は、市場トレンドに影響を与えた因子として、薬価政策以外の要素が複数存在している。その一つがバイオ医薬品への創薬シフトだ。世界売上トップ10の製品をみても、2000年代初頭に市場を席捲した低分子化合物は影を潜め、大半が欧米系企業の創製したバイオ医薬品が日本市場において存在感を増している。

バイオ医薬品への投資(2015年~20年)をみると、グローバル企業の+33%(CAGA5.9 %)に対し、日本は-9%(CAGA-1.9%)だった。PhRMAは、「日本がイノベーションを阻害する政策を実施したから」と主張するが、実は国内製薬大手が海外のバイオベンチャーに対する投資やアカデミアとの戦略提携を優先する動きを活発化させたのもこの時期だ。これまでの新薬開発は自国の基礎研究所を中心に自前主義で行われてきたが、昨今のバイオ医薬品の研究開発は、基礎研究から創製・供給に至るまで「国際的な分業」を求める時代となった。よって日本企業が欧米系ベンチャーやスタートアップ、アカデミアとの戦略提携を活発化させることは極めて重要なビジネスミッションと言える。近年「新たなドラッグ・ラグ」という言葉が用いられるが、日本市場に足場の無いベンチャーと日本の製薬企業がタイアップすることで、こうしたタイムラグの課題を解消する手立てになるだろう。一方で、国内に関して言えば、こうした国際的分業の拠点となるべく、欧米系投資家を呼び込むための土壌整備が求められる。

◎輸入超過 21年に3.3兆円に拡大

もう一つの要因が新型コロナウイルス感染症の登場だ。日本政府は国家予算を投じて欧米系メガファーマやベンチャー企業からワクチンや治療薬を購入した。医薬品の貿易収支の推移を見てみたい。2018年の医薬品輸出入差額(貿易収支)は約2兆3155億円の赤字だった。もともと医薬品は海外製品による輸入超過の傾向が長年続いていたが、2015年を境に赤字幅は拡大し、2021年に3.3兆円まで達している。

政府は新型コロナ対策として、欧米のワクチンに2.4兆円、治療薬の購入に1.5兆円を支出した。これにより新型コロナのワクチン接種率を急速に高めることができ、もはや3回目のワクチン接種にまで及んでいる。先述のバイオ医薬品とも通じる課題だが、新型コロナのワクチンや治療薬を含めて、日本で使用されるバイオ医薬品の9割が海外で生産されている。バイオ医薬品のCMO/CDMO市場は今後10年で年率8%程度成長するとの試算もある。日本でも異業種からこの分野に参入する大手企業もあるが、一方で国内需給などを考えれば国内投資による規模拡大が、これまで以上に求められることは言うまでもないだろう。

◎世界経済や為替影響をどう読むか

一方で世界経済にも変革の波が押し寄せている。新型コロナに伴う世界的な行動制限でエネルギー価格が上昇し、これが世界的なインフレ率の上昇を生んでいる。円の実質実効レートについて2010年を100とした指数でみると、11年、12年は100前後で同水準を維持しているものの、14年から21年までは70前後で推移している。一般的に円の実質実効レートが1割下がった場合、同じモノやサービスを海外で買ったり輸入したりする際に、円換算での支払い負担は1割増となる。

国内製薬大手も、すでに欧米市場を中心に海外売上比率を高めてきたが、製薬ビジネスの主戦場がバイオ医薬品にシフトする中で、投資先として海外のアカデミアや大学発ベンチャーに目が向く流れはより強まるだろう。ただ一方で、製薬各社の研究開発費は高騰し、対売上高に占める研究開発費の割合はここ数年間横ばい基調が続く。これに為替影響が絡むとなれば、ますます経営トップの投資判断が難しくなりかねない。政府もこの問題に注目しているところだ。国内製薬産業の空洞化を回避するためにも、税制、予算、規制緩和を含む創薬力強化に向けた施策が求められる。

◎製薬業界の改革提案、発言に期待


ここで紹介した事象は、とかく薬価制度改革の議論と絡めて論じられがちだ。しかし、マーケットトレンドの変化は、国際情勢に伴う市場経済の揺れやDXを取り入れたビジネス環境の変化によるところが大きいことを改めて認識すべきだ。バイオ創薬の基盤整備は国主導の側面が強いが、一方で産官学の国境を越えた連携体制をいかに構築し、投資を呼び込み、成長の起爆剤とするかは製薬産業側が主体的に発言を強めることが重要ではないか。ゴールデンウイーク明けの終盤国会は7月の参院選挙を視野に各政党間の動きも活発化する。成長と分配の好循環を掲げる岸田政権にとって、創薬力強化は重要案件の一つだ。製薬産業側もこの機に乗じて、世界経済やアフターコロナを踏まえた業界提案や発言が求められよう。焦点の薬価制度改革や毎年薬価改定議論と並んで、新たな切り口でのビジネストランスフォーメーションに向けた議論の活発化を望む。

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