国立大学病院長会議の大鳥精司会長（千葉大学医学部附属病院長）は5月9日の記者会見で、「国立大学病院収支状況等調査」（速報値）から42病院の合計赤字額が213億円になると発表した。現金収支マイナス病院は全体の6割相当の25施設。赤字要因は、物価・エネルギー価格の高騰、働き方改革による人件費などの負担増加、さらに医薬品費の増加をあげた。大鳥会長は会見で、「前回の診療報酬改定による111億円の増収に対し、働き方改革や人勧影響額を考慮した人件費は284億円の支出増となった。大変厳しい。由々しき問題だ」と強調。政府に対して次期26年度診療報酬改定における点数の大幅引き上げを要請した。

◎人件費は前年比10％、医薬品費40％増　非償還材料推測値1009億円で「全部持ち出し」

国立大学病院の6割が現金収支マイナスとなったことについて大鳥会長は、「材料費、医薬品費、光熱費、委託費、人件費、全て上がっている」と指摘。「特に注目すべきは人件費が前年比で約10%上がっている。医薬品費も40%上がっている。非常に由々しき問題だ」と強調した。さらに、材料費のうち非償還材料推測値が1009億円あるとし、「これらは完全に病院の持ち出しとなっており、病院経営を圧迫している要因となっている」と説明した。

一方で、医師の働き方改革や地域への医師派遣を支援する「地域医療介護総合確保基金」の都道府県別措置状況を報告。体制整備特別事業で９大学病院、医師派遣等推進事業で23大学病院がそれぞれ対象外や事業化していない自治体が存在することを指摘。大鳥会長は、「42の大学病院の全てに支給されて当然のものだが、依然として交付されていない病院がある。これらが病院経営を苦しめている」と強調。特に、「支給していない自治体に地域差がある」と批判した。

◎電子カルテなど病院情報システムの費用　年間費用は計428億円「自助努力は限界」

このほか電子カルテなど病院情報システムの費用にも言及。大鳥会長は、「43病院の合計で年間428億円の費用が生じており、これは病院収益に対して約3.1%に相当する」と述べ、経営圧迫の要因になっているとした。実際に、1病院あたりの年間費用は約10億円、基幹システムの更新時費用は年間約5.3億円増えるという。これに対し、国による医療ＤＸ推進体制整備加算１～3（24年6月～12月実績）は0.2億円で、「自助努力は限界だ」と窮状を訴えた。

◎田中・東大病院長　1例あたりコストは増加　

会見では国立大学病院の経営収支をめぐり各病院長が発言した。田中栄副会長（東京大学医学部附属病院長）は、「人口構造が変わり高齢者が増えると、1例ごとにかかる診療コストは一昔前にくらべて莫大にあがっている。そういう重症患者を多く診る大学病院は不採算になってくる」と指摘。「大学病院は他の病院が受けない重症患者を引き受けている。大学病院の経営は益々厳しくなっている」と強調した。

◎前田・岡山大病院長　「大学病院は、この手術、この患者しか診ないとは言えない」

前田嘉信理事（岡山大学病院長）は、「大学病院は、この手術、この患者しか診ませんということは言えない。いくら収益が悪くても教育機関なので儲かることだけやるというふうにいかない」とし、「収支を簡単に上げると言っても原材料の値段が上がっているのに売る値段（診療報酬）が変えられないという根本的な問題がある。収支を改善することは非常に難しいと思っている」と述べた。

◎丸山・名古屋大病院長「黒字病院でも機器購入や施設建替えを先延ばし」

丸山彰一理事（名古屋大学医学部附属病院長）は、「例えは黒字病院であっても本来更新しなければいけない医療機器の購入や施設の建替えを先延ばししている」と明かし、「もっと診療を頑張れば収支が良くなるかというと、もう限界に来ている。例えば長時間の手術だとそれに見合った保険点数がない。それでもやっていかないといけない。もっと収支が良くなるような診療だけやるということもできず、もう限界に来ていると思う」と語った。