MRの世界が大きく変わるという噂は本当か
公開日時 2011/12/14 04:00
株式会社メディカルライン
榎戸 誠
噂ではなく事実
MRの世界が大きく変わるというのは、噂ではなく、事実である。
第1に、製薬企業と医療機関との関係が透明化される。製薬企業の生命線は、疾病で苦しんでいる患者を救う新薬の開発である。新薬開発に欠かすことのできない治験(臨床試験)を実施する医療機関に研究費を提供する。しかし、研究費の提供がその製薬企業に有利に働くのではないか、という考え方をする人たちも存在する。そこで、「李下に冠を正さず」の精神で、透明化を図ろうというのだ。これは日本に限ったことではなく、医薬品企業にとって世界的な潮流となっている。
第2に、MR活動の行動基準ともいうべき公正競争規約(しばしば「公競規(こうきょうき)」と略される)の運用が厳格化される。ごく大雑把に言えば、ドクター等に対する接待ができなくなるのだ。これまでも、官公立病院のドクター等に対する接待はできなかったが、これからは全てのドクターが対象となる。接待は人間関係の潤滑油だという考え方もあるが、接待がドクターの薬剤選択にいささかの影響も与えることがあってはならないという考え方が、この厳格化の背景にある。
どう変化するのか
製薬企業と医療機関との関係の透明化、公競規の運用の厳格化は、MRならびに製薬企業にどういう影響を与えるのか。
医療機関に研究費を提供するに当たっては、決められた手続きを踏まなければならない。治験を担当するドクターとの接触が、必然的に増えることになる。治験を完成させるには、相当の期間がかかる。この間、治験をスムーズに進行させるには、担当ドクターとの緊密な接触が欠かせない。治験終了までは、製薬企業の開発部員が担当する。その後、治験結果をまとめて提出し、審査を経て、晴れて厚生労働省の認可が得られた段階で、全国のドクターや薬剤師にその新薬の有用性(有効性+安全性)を知ってもらうことが必要となる。そこで、治験を担当したドクターや著名な専門医に講演会、研究会の講師を依頼することになるが、ここからはMRの担当業務である。
研究費の提供が透明化されるからといって、治験とそれに伴う研究費の提供がなくなるわけではないが、いろいろな面で疑念を招かないような配慮が、従来以上に求められることだろう。
接待禁止は、MRにとって、より大きな変化と言えるだろう。訪問規制が強化される風潮の中で、接待は、普段は面談しにくい重要ドクターとゆっくり話ができる機会を提供してくれたからだ。
どう対応すべきか
こういう大きな転換期を迎えて、MRはどう対応すべきか。これは、MRが、そして製薬企業が真剣に考えなければならない喫緊の重要課題である。
ドクターが会いたいと思うMR、会って話を聴きたいと思うMRになることが、新時代を迎えるMRにとってのベスト・ウェイだろう。その一つの具体策として、「OPD(One Patient Detailing=ある疾患における、自社製品に限らない個々の症例に基づく有益な情報の提供)」というコンセプトがある。これは、MR活動を、従来のSOV(Share of Voice=ドクターに処方を依頼する競争)からSOM(Share of Mind=ドクターとの心の繋がりを深める競争)へ進化させることを意味している。すなわち、そのドクターが抱えている患者の治療に関して、ドクターとレヴェルの高い会話ができるように専門領域の勉強を怠らず、ドクターの質問にも的確に答えられるようにしようということだ。
CHANGEはCHANCE
私の長いMR経験に照らしても、この「OPD」は「言うは易し、行うは難し」である。しかし、OPDが実施できるMRこそが、ドクターのニーズ、そしてウォンツに応えることができるMR、新時代を生き抜くことができるMRであることは間違いない。さらに、ドクターを初めとする医療従事者、患者に喜ばれ、社会からMRが高く評価されることに繋がることだろう。
医療機関との関係の透明化や公競規の運用の厳格化は、経験豊富なヴェテランMRや新人MRといった区別なく対応を迫られる変化だが、従来の業界の慣習に染まっていない新人にとって、これは大きなCHANCEだと思う。真っさらな新人MRにとって、まさに、「CHANGEはCHANCE」なのだ。