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【FOCUS】2026年始動 MRの「暗黙知」をAIで最大化する 合言葉は “きょうもAIと壁打ちした?”

公開日時 2026/01/07 04:52
2026年が始動した。社会基盤として急成長したAIは製薬産業においても存在感がより高まると予想している。製薬各社ともAI主体の基盤プラットフォームを全社導入する動きが強まり、AIの活用を前提としたビジネス変革を社員一人ひとりに迫る機運も高まっている。経営者もAI時代を見据えた人材の採用、育成、評価手法などタレントマネジメントの話題で持ちきりだ。(編集長・沼田佳之 Monthlyミクス1月号「編集長の視点」の一部改編版)

ある日の朝、MRがPCを立ち上げると対話型のAIagentが“おはよう”と挨拶し、きょうの訪問計画と面談予定の医師に伝えるキーメッセージのポイントを丁寧かつ実直に説明してくれる。訪問先の病院に向かう営業車の中では、AIagentと同期したカーナビゲーションが、きょうの業界ニュースや医療界の話題を音声形式でインプットしてくる。AIは一方的にメッセージを発するわけではない。たまに鋭い質問を投げかけてくる。気がつけば会社の先輩・同僚の合言葉は、“きょうもAIと壁打ちした?”―。

◎ChatGPTなど生成AIはもう古い? 自律型のAIagentは更なる深化を遂げる

ChatGPTなど生成AIの導入当初は、論文検索や文書要約などを短時間にやり遂げる機能に驚き、自分自身の業務効率化や生産性向上への可能性に胸躍らせることがあった。ところが近年は、自律型AIagentの更なる深化により、ユースケースが多様化し、AIとの直接対話を楽しみながら自身の業務プランの改善や活動計画の修正や、タスク管理に伴う生産性の向上などが可能となった。その結果、訪問計画や医師との面談の最適化などに応用できる時代を迎えた。

一方で、MRが医師との面談を通じて得た大量のインサイト情報を自社のプラットフォーム上に構築したAIがタイムリーに解析することで、例えば、専門医以外の医師(他診療科の医師や多職種)にアプローチする際に、MRが注意すべき課題やNGワードなどを事前に予測し、訪問前のMRにインプットする。MRにとっても業務の成功確率を向上することができるようになった。

◎「“引出しを多く持つMR”ほど優秀」をAIで創造する

ここで言うAIとは、MR一人ひとりに寄り添うパートナー(エージェント)をイメージして欲しい。これまでもMRは自身の活動経験から、「A医師は学術志向型だから最新論文を持っていくと関心を示してくれる」とか、「B医師は◎◎大学のC教授の研究グループのメンバーだから、この話題を持っていくと話が盛り上がる」などの視点や切り口を持って医師にアプローチし、成果を上げる経験を積んできた。一昔前は、“引出しを沢山持っているMR”ほど優秀だと評価され、社内でも羨望の眼差しで見られてきた。ところが、近年は、病院の訪問規制やアポイント制などの導入により、A医師やB医師のような医師個人のキャラクターをMR一人ひとりが正確に把握することが容易ではなく、先述した訪問規制の強化により医師との面談機会も減るなど“リアル感”の点で、一昔前の先輩MRに比べると、ディスインセティブになることも多いという。

我々はこれまで、MRの勘や経験を「暗黙知」と呼び、これを最大化することがMR活動の価値につながると考えてきた。一方で、暗黙知を集積したAIの場合、多くの成功体験に基づく事例を集積しているため、経験の浅い若手MRでも、会社内に蓄積された先輩MRの暗黙知を活用して自身のスキルに磨きをかけることができる。まさにAIを活用した“壁打ち”により先輩の暗黙知を習得し、実際の医師との面談に活かすことができるという訳だ。

◎「AI暗黙知」として再活用 価値の最大化で「MR必要論」への布石

こうした経験をMRが積み重ね、成功体験をAIで機械学習できれば、その経験は別のMRの「AI暗黙知」として再活用できる。

近年では、MRを含む従業員がAIスキルを習得する手法として、上司に活動報告する際に、AIとの“壁打ち”をどの程度行い、どう活かしたかを説明させることがあるという。別の取り組みでは、企画書を上司に提案する際に、必ず当該内容の“壁打ち”の結果をあわせて報告させるような取り組みも行われている。すなわち先述した暗黙知のAI活用による最大化を狙ったもので、経験値の浅いMRでも、AIの“壁打ち”という鎧を身にまとうことで、自身の経験で気がつかなかった事象を知り、把握し、上司への提案に反映することができる。逆に、経験値の浅さという方便は上司・先輩でも使えないNGワードとなり、プランニング能力の高いMRならば、経験年数を超えた目を見張る提案に発展させる可能性を秘めているというものだ。

まさに会社が求めるAI人材であり、狙うべき方向性を人材育成の面で示すもので、AI活用の意義を社員一人ひとりに浸透させるための方法論として最適ではないかと考える。

◎AIの普及は、病院、診療所、薬局、患者・国民を含めてヘルスケア市場全体に及ぶ

最後にAIagentを活用する上で、もう一つ重要な視点がある。これまで製薬企業のマーケットアクセスは、あくまで情報提供側(製薬企業側)の視点で物事が進められていた。ところが、AIagentの普及は製薬産業ばかりでない。病院、診療所、薬局、さらには患者・国民を含めてヘルスケア市場全体に、さらに社会インフラ全体に浸透していることを理解すべきだ。

冒頭でAI基盤プラットフォームの話をしたが、今後は医療界全体のAIプラットフォーム化が進むと予想する。そのプラットフォームは、全国版もあれば地域版も必要に応じてできるだろう。患者の受診予約から診療データ(PHR)の管理、さらには受診時の受付や会計、受診直後の診療サマリの送付など、患者の行動変容をもたらす自動化のプログラムもこのAIプラットフォームで完結できるようになる。もちろん、そこには「情報」というキーワードが組み込まれることは間違いない。

むしろ医療側と製薬産業をつなぐ情報の境界は低くなるだろう。すなわち医師と産業の情報のやり取りは、これまでの「一方通行型」からAIagentを介した「双方向型」に変わることを意味するもので、ここに患者の視点(ペイシェント・ジャーニー)も加わる可能性を秘めている。この論拠については、近くミクス誌上で公開したいと考えている。こうご期待を!

AIを通じたコミュニケーションの視点は産業側にも求められる。ところが昨今のAIを取り巻く社会実装の現実を直視すると、製薬業界の大半は、まだ旧来型の流れや流儀に拘束されているといっても過言ではない。その危機感は製薬各社のトップが発した年頭所感にも表れていた。医療界と産業界の境界の問題はAIの社会実装のテンポと相関する。だとするとそのテンポは予想以上に速いことを認識すべきだ。2026年はその元年になり得るといっても過言ではない。その一歩に注目したい。
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