小児てんかん外科手術の実施施設は依然として不足しているか? アンケート調査から
公開日時 2012/08/23 05:00
小児てんかんでは脳の発達にとって重要な時期に発作が生じ、知能、発育、精神に障害が及ぶことがあり、薬剤抵抗性てんかんでは外科的手術を早期から慎重に検討していくことが必要である。てんかん外科に興味を持つ脳神経外科医は増加しつつあるものの、小児てんかんの外科手術を行う施設は限定され、てんかん外科を学ぶ脳神経外科医であっても小児てんかんの鑑別診断が行える医師は1割ほどしかいない。札幌医科大学脳神経外科教授の三國信啓氏が各種調査やアンケートなどからこのように報告した。
現在、てんかん手術が有効な患者は、国内で年間約3000例発症するとされている。一方で、2007年の日本てんかん外科学会の調査によると、日本国内のてんかん手術例は55施設、595件と適応となる件数の五分の一に過ぎない。このうち側頭葉てんかんが273件と最多となっている。2008年6月時点(専門医総数316人)で日本てんかん学会の専門医を取得している脳神経外科医は47人だったが、2011年1月(同368人)には67人に増加している。三國氏は「脳神経外科医師にてんかん診療を受けている患者さんは多い。てんかん専門医やてんかん手術を行う施設は増加傾向にあると考えられるが、小児てんかんの外科手術は特殊な知識を必要とし、手術が効果的であることは周知されておらず、かつ限定された施設でのみ可能な状況である」と分析。
てんかんでは小児期の発病が多く、日本てんかん学会の指針でも小児は早期手術検討の必要性が指摘されているが、てんかん焦点が判明し手術を受けて病理診断が行われた172例のうち、15歳以下の症例は26例(うち24例が皮質形成異常)にとどまっている(日本てんかん外科学会アンケートより)。2005年に行われた同学会による04年1年間の手術件数調査でも、総件数586例のうち小児てんかんに多い手術例では半球切除/離断術9例、脳梁離断術38例というのが現状だ。
日本てんかん学会のHPによると乳幼児・小児てんかんに外科手術対応可能は19施設。てんかんを学ぶ脳神経外科医を対象としたアンケートでは、国内35施設中、小児てんかんの脳梁離断術施行経験がない施設は13施設あるなど、小児てんかんに関しては外科手術対応施設が限られている現状が浮かび上がっている。さらに、半数以上の施設が小児科と良好な連携を持ちながらも、「小児てんかんの鑑別」について「自信がある」、「だいたい自信がある」と回答したのは1割程度にとどまった。脳神経外科の卒後生涯教育における小児てんかんの重要性を指摘する。
三國氏は2010年12月京都大学から札幌医科大学への移動後てんかんの包括的治療と連携を目指して、札幌医科大学脳機能センターを本年6月に新設した。てんかん、パーキンソン病や脳機能に関わる脳腫瘍治療において関係各科との連携を強化し、毎週神経内科・小児科・リハビリ科・脳神経外科などの各科合同カンファレンスを行っている。最新のMRI、脳波記録システム、専用個室を使用して北海道各地からの小児てんかんを広く受け入れる体制が整っている。
開頭手術を必要としない最新の治療である迷走神経刺激の実績も多い。これまでに受診した小児てんかん患者の中には、網走市、根室市などの遠隔地から紹介を経ずに自己来院した例も少なくなく、三國氏は「成人てんかん以上に小児てんかん患者さんが専門的診療を受けられる環境には地域格差が大きい現実をうかがわせる」と説明。その原因として①脳神経外科医は成人の症候性局在関連てんかんを一般に診療しており小児てんかんについての知識・経験が少ない②小児科でのてんかん診療医の不足あるいは外科との連携不足③てんかん外科に興味を持つ外科医の不足――などが考えられるとし、小児てんかん診療に対する取り組みを今後強化する予定だ。