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2016年 医薬マーケット激震の幕開け  「メディカル産業」への転換という発想

公開日時 2016/01/06 03:52

2016年が始動した。団塊世代が現役を引退し、本格的な高齢社会を迎えるなかで、日本の社 会構造は大変革期に入った。北海道、東北、北陸、甲信越、中四国、九州などは人口の高齢化と同時に人口減少が始まろうとしている。アベノミクスが掲げる地方創生も、人口減少社会を防ぐための社会基盤整備や地方経済を浮揚させる様々な施策を相次いで打ち出した。こうした動きは日本の産業界に多大な影響を与え る。地方経済を活性化させるため、日本を代表する大手企業が現地に乗り込み、インターネットなどの情報インフラを駆使した様々なネットワークを構築しはじめた。そのインフラを活用し、新たな商流や物流を産みだそうとしている。医療や介護もこうした荒波を受けながらビジネスを生み出す土壌が着々と整備されつつある。では、我々の製薬業界はどうか。国が掲げる「地域包括ケアシステム」が提唱されて久しいが、一向に変わる気配がない。地域・エリア指向型マーケ ティングと言われながら、いまだ全国一律のSOVの呪縛から逃れられない。筆者はこの状況に業界の危機を感じる。この製薬業界に警鐘を鳴らしたい。(編集長 沼田佳之)


「医療は規制の束で守られており、他産業が参入する余地はない―」。15年前だろうか。岩盤規制を崩すことで、医療分野に風穴をあけ、新しい市場メカニズムを導入したいとの想いから政府の規制改革会議が医療分野の議論を開始した。医薬品のコンビニ販売やインターネット販売などがこの間に議論されたことは記憶に新しい。一方で、社会インフラを活用した情報社会を構築しようと政府部内も動き出す。 政府のIT戦略本部を通じ、経産省や総務省が旗振り役となり、日本全土にインターネットなどの情報基盤を張り巡らせ、そこに新しいマーケットを創出し、新 たな産業を起こす取り組みが本格化している。


安倍政権の発足は、こうした動きをさらに加速させた。特に地方の経済浮揚の視点からは、日本を代表する電機・通信・機械の大手企業、ITベンダー、住宅デベロッパー、地方銀行、商工会議所などを巻き込み、シャッター商店街(衰退した商店街や街並 み)の再生や、農林水産業の支援、さらには物流革命など新風を巻き起こしている。まさに企業と地方が一体となって地場産業を再興させ、地方経済を循環させるシステムの構築に取り組んでいるのだ。こうした潮流はすでに医療・介護分野に及び始めている。
 先述した「医療は他産業の参入余地はない」という言葉自体、実は一昔前の感覚で、すでに医療 マーケットには数多くの産業が大手を振って参入している。加えて言えば、かつて主役として栄華を誇った製薬産業は社会保障の金食い虫のように批判され、逆 に、IT産業や社会インフラ系企業が医療費適正化の救世主的な役回りを演じている。なんとも皮肉で、悔しいが、岩盤規制に風穴をあけるということは、こうした主役交代をも意味するのだ。


◎主役からの転落 再浮上への決意示せ!


では、製薬業界はいま何をなすべきか。製薬企業の生命線は2つある。一つは革新的な新薬を創出すること。もう一つは、それに伴う 「情報」(有効性・安全性、市販後PMS等を含む)を医師や薬剤師など医療者だけでなく、地域住民や自治体、さらには医療マーケットでビジネスを展開する 他産業と、それぞれのフェーズに応じた手段や手法で「共有財」として活かすことではないだろうか。しかし、残念なことだが、今の製薬産業界にこうした視点 が全くない。国の推し進める地域包括ケアシステムにより、地域・エリア単位で患者の診療情報がデータベース化され、共有化されることへのイメージが出来ていない。もう一つは、医療者側が自分達の診療情報を様々な研究に応用し、それを地域医療の質的向上や臨床アウトカムに活かそうと、いままさに舵を切ろうと する予見性や先見性を全く持ち得ていない。よって企業個別の施策に反映できていない。極めつけは、今後の医療情報の主役が、すでに製薬企業の手をはなれ、 日本を代表する社会インフラ系の企業やITベンダーに代わろうとしていること全く気づいていない。


ここまで厳しいことを書くと少々胸が痛くなる。という訳で、ここから、製薬ビジネスの将来を見通してみたい。今回本誌が提案するのは、製薬企業が医療マーケットにどう向き合うかの視点である。これまでの製薬ビジネス(図1)は医療保険で保護された、いわば護送船団のようなものだった。しかし、国主導による社会保障費の伸びの抑制策や規制改革、IT戦略により、この医療マーケットには多くの産業が参入した(図2)。 すでにこのマーケットの主役は変わったのである。電子カルテやレセプト情報の地域・エリア内での共有化や、電子お薬手帳に代表される PHR(Personal Health Record)の普及など、マーケットの主役は多様化してきた。加えて、介護ビジネスも高齢社会とともに活況となる見通しで、この分野では食品、健康、住 宅などのビジネスも間接的に参入することになる。


◎製薬1社で考える時代は終わった


製薬企業1社だけで考える時代はもう終わった。医療マーケットが多様化したというならば、むしろ電子カルテメーカーやITベンダーと「組む」という選択肢もあり得るのではないか。逆に「組手を変える」という発想は膠着状態にある製薬ビジネスを大 きく転換させる起爆剤になると提案する。とはいえ、製薬ビジネスのスペシャリストとしての役割は変わらない。今後の医療マーケットが電子カルテやレセプト といった診療情報をベースに動き出すことを考えれば、製薬ビジネスにとっても、こうしたサービスを提供する企業と「組む」ことはプラスに働く可能性が高 い。製薬産業とヘルスケア産業を融合させた「メディカル産業」への転換という発想を持つべきだ。メディカル産業とは、医療マーケットの住人同士による産業 間連携をイメージして頂ければ幸いだ。仮に、これをゼロベースで考えるならば、現在足枷になっているMR活動を取り巻く課題やプロモーションコードの問 題、さらにはエリアマーケティングなどに新風を呼び込むことも想像できる。


製薬業界を取り巻く環境は16年4月の薬価改定以降、厳しさを増すだろう。3年連続薬価改定 に止まらず、社会保障費の伸び抑制を目的とした医療費削減は、必ず医薬品が狙い撃ちされる。であるならば、いまのままを維持するより、先手必勝で打って出ることの方が勝因はあるのではないか。情報優位性を活かす産業間連携に活路を見いだしてほしい。
 


 

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