製薬協 MA・MSLの基本的考え方を最終調整 「販促を目的としない」ことを明記
公開日時 2019/02/07 03:53
日本製薬工業協会(製薬協)の「メディカルアフェアーズ(MA)」、「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)」それぞれの活動の基本的考え方に関する検討が、2月7日までに最終段階を迎えていることが明らかになった。最終案では、「高度又は最新の科学的知見等を用い医学的・科学的交流を社外医科学専門家に対し行う」ことをMA活動に定義づけた。そのうえで、「MA活動は自社医薬品の販売促進を目的とするものではない」と明記した。現状ではMA、MSLの活動は製薬協会員各社でバラつきがあり、医療従事者からの認知も十分進んでいない。未承認薬・適応外の情報提供をMA、MSLに担わせることを各社が想定するなかで、組織体制や活動内容、行動指針の標準化し、MA、MSLの活動内容を明確に規定。広く医療界、製薬業界で共通認識を醸成したい考えだ。
◎MSL活動めぐる誤解や勘違いも散見
MA、MSLをめぐっては、ARB・ディオバンの臨床研究不正をきっかけに営業活動との分離を目的と設置された経緯がある。2000年代初頭から外資系企業を中心に広まり、ミクス編集部の調査結果をみてもMR数が激減するなかで、MSL数は増加傾向にある。一方で、MSLの活動が販売促進と医療者から誤解されるケースも少なくない。特に、未承認薬や適応外に関する能動的な情報提供をMSLであればできるとの「勘違い」も業界内にある。各社の活動内容や判断基準が異なるなかで、医療従事者からは販促活動の一環としてみなされているケースも少なくない。
◎MSLからの能動的な情報提供「販促を目的とした活動との疑義生じる」
このため最終案では、MA、MSLが行う情報提供活動には、「自社医薬品の販売促進を意図した内容を含まない」ことを規定した。そのうえで、医療従事者からは、MSLからの能動的な情報提供などが、「医療関係者からみて企業活動の一端であることから、販売促進を目的とした活動であるとの疑義が生じる」可能性を指摘。未承認薬や適応外の情報提供は、「社外医科学専門家からの要求に対して受動的に応じる場合に限る」として、19年4月施行の医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインを遵守し、社内基準や手順書に従うことを求めた。
一方で、適応内の情報提供については、受動的なものに限定するものではないとしたうえで、各社が社内基準や手順書を定め、適切に運用することを求めた。ただ、KOLを集めて専門的な意見を聞く“アドバイザリーボード”などを通じた情報の刷り込みや、医療従事者の自発的な意図の喚起、誘導は禁止した。
◎営業部門から独立を担保 一方で会議場やチケットの手配は「制約されない」
MSL活動を行う組織については、営業部門から独立を担保された組織で行うこととした。営業部門は自社医薬品の販売が業績評価のなかに含まれる部門として、マーケティング部門や営業戦略、営業本部が該当することも明確化した。ただ、「MSLが社外医科学専門家と医学的・科学的交流を行う際は、その目的を明確にしたうえで、営業部門に属する者の同席の可否を決定する」とした。適応外使用や未公表データにかかわる交流、臨床研究や論文投稿などでは同席を禁じた。「社外医科学専門家への訪問日程の共有」のほか、“営業部門からの独立”を求めた、アドバイザリーボードを行う際の「会議場の手配や出席メンバーの交通手段の手配など、会議の内容に影響を及ぼさない行為に営業部門がかかわらないことは制約されない」とした。
MSLの要件については、「最新の知見などに基づき、科学的観点での情報交換や意見交換を適切に行いうるものを保証するもの」とした。具体的には、医師・薬剤師資格の取得、または教育機関における医学・薬学などの自然科学分野での学位取得をあげた。さらに、社内で定められたプログラムによる研修の修了を求めた。
◎MAのミッションを明確化
MAのミッションについては、▽アンメットメディカルニーズを充足させる医学・科学的なエビデンスを構築し、医療機関関係者等へ情報発信する、▽高度又は最新の科学的知見等を用い医学的・科学的交流を社外医科学専門家に対して行う―と定義づけた。こうした役割を果たすことで、患者へ最適な医療を届けたい考え。
具体的な役割としては、①医療現場におけるアンメットメディカルニーズの把握、②個々の製品の医療における使用の最適化を目的とした活動に関する計画である“メディカルプラン”の作成、③エビデンス創出、④医学・科学的情報の発信・提供―の4つ。医学的・科学的情報の発信では、疾患啓発活動や学会メディカルブースの企画・実施、販売情報提供活動の資材などのレビューも含まれるとした。この役割を果たすうえで、社外医科学専門家との「双方向の高度な医学・科学的交流が不可欠」とした。MA活動の評価指標も、「売上目標等営業活動に関連するものではなく、高度な科学的情報提供やエビデンス創出等であること」とした。製薬協は、3月末までに最終案を取りまとめ、公表する方針。公表後も定期的にMA、MSLについての調査、検討を行い、適正化に努める考えだ。
【Focus ‟販売促進“が躍るMA・MSLの基本的考え方とは如何なものか】
最終案には、“販売促進”からの脱皮を謳う言葉が数多く踊る。製薬協のプロモーションコードでは、プロモーションを「いわゆる“販売促進”ではなく、“医療関係者に医薬情報を提供・収集・伝達し、それらに基づき医療用医薬品の適正な使用と普及を図ること”」と定義づけている。この定義を率直に理解すれば、販促活動はMRでも行えない。歴史を紐解けば、厚労省(当時・厚生省)の「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」が1993年5月に取りまとめた最終報告から販促という言葉からの脱却は始まったという。医薬品の適正使用に向けた情報提供において役割を求められることは、MRもMSLも変わらないだろう。逆に今もなお、基本的な課題が残ることを業界自身が認識していることには不安を感じる。
もう一つ気になったことがある。これまで数々の製薬企業の不正事案を取材した経験で言えば、今回の基本的考え方に示された内容にも、依然としてグレーな部分が残されている。例えば、MA、MSLと営業部門の分離は、ディオバン問題から課題となって久しい。そのなかで、メディアの眼で見た時に、アドバイザリーボードの開催を目的とした会場の手配や出席医師の交通手配などを営業部門が担当することについては、分離しているようにみなすことが難しい。あくまで企業の論理、との感が否めない。果たして、情報の受け手である医療従事者が販促活動との違いを認識できるだろうか。こうした業務を営業活動から分離させている企業もある。各企業が自律し、自ら活動内容を規定することが必要だ。そのためには業界内でさらなる議論を行うべきではないか。
先述の「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」の最終報告から、すでに20年余りの時が過ぎた。過去に起きたディオバン問題やCASE-J事案、バイエル問題など、多くの不正の端緒はMRではなく、メディカル部門とマーケティング部門にあった。これを機に、製薬企業各社が真摯にMSLの活動を見直し、新たな情報提供活動を始めるスタートラインとしてほしい。(望月英梨)