東大・泉田特任助教 イノベーションには医療ビッグデータのオープンアクセス必要
公開日時 2019/05/24 03:50
東京大学大学院医学系研究科・医学部分子糖尿病科学講座の泉田欣彦特任助教は5月23日、米国研究製薬工業協会(PhRMA)のプレスセミナーで、イノベーションの創出には、医療ビッグデータのオープンアクセスが必要だと強調した。出生から死亡に至るまでのゲノムデータ、疾患の治療実績・経過、健康人データなどをつないだ医療ビッグデータをアカデミアや産業界が2次利用できる環境整備が「医薬品産業の国際競争力を高めるには重要」と指摘した。
セミナーは「日本の難病の現状と課題」をテーマに行われた。難病法が成立した14年5月23日を記念した「難病の日」に合わせ開催された。難病や希少疾患の治療法や治療薬の創出の課題について有識者が講演した。
泉田氏は、診断がつかない疾患を研究する「未診断疾患イニシアチブ」(IRUD)を取り組み例にあげた。東北メディカルメガバンクの遺伝子情報と420の医療機関の協力を得て、症状と遺伝子を結びつけて、データを共有して研究。その結果、9例の世界初の疾患を発見した。治療法はまだ見つかっていないが、原因遺伝子の解明が、奏効率の高い遺伝子治療の研究開発と医療応用につながる可能性を指摘した。泉田氏は「研究とリアルワールドデータが紐づくことが大事」と指摘した。
国立精神・神経医療研究センターの水澤英洋理事長も、「IRUDなど未診断疾患対策を強力に推進し、原因遺伝子の同定、発症機序の解明を進めることが治療法開発には必須である」と訴えた。
◎法政大・小黒教授 高額な希少疾病薬の保険適用は必要
法政大学経済学部の小黒一正教授は、疾病に伴うリスクを分かち合う公的医療保険制度の趣旨とイノベーションの評価の観点から、高額な希少疾病薬の保険適用は必要だと指摘した。ただし、厳しい医療保険財政とのバランスを取るため、医薬品の保険給付は薬剤が家計に与える影響も考慮し、薬剤間の保険給付の配分を変えることが必要だとした。
小黒教授は、3000万円超となったCAR-T細胞療法・キムリアと、湿布薬を例にあげて説明した。キムリアの予測対象患者数が200人強で、市場規模は72億円に対し、湿布薬は安価であるものの市場規模は1500億円に上ることを紹介。家計を破綻させずに最新技術を使えるようにするには、キムリアの保険適用は妥当とする一方、湿布薬が家計に与える影響は比較的軽いことから、自己負担の程度を高めるという考え方もあるとした。
◎日本難病・疾病団体協議会の斉藤氏 難病患者の就労支援を
91の患者団体から構成される日本難病・疾病団体協議会の斉藤幸枝氏は、治療を続けるためには難病や慢性疾患患者の就労が大きな課題だと指摘した。斉藤氏は、▽難病患者を法定雇用率の算定枠に含めること▽通院休暇や病気休暇等の制度――が必要だと訴えた。
なお、今回のセミナーは、PhRMAが日本で18年12月に設立した「希少疾病・難病委員会」による初のプレス向けイベント。同委は、希少疾病や難病の課題を分析し、情報発信や必要な政策の実現に取り組むとしている。