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【FOCUS 競合社転職で割増退職金返還 スキル活かせない対価、どう見積もるか】

公開日時 2019/08/09 03:52
ファイザー日本法人で検討されている早期退職者募集では、応募者のうち、オンコロジーか希少疾患の担当MRが会社指定の競合会社に3年以内に転職した場合、割増退職金の返還を求める新ルールも盛り込まれている。退職後の転職制限となるため、憲法22条1項の「職業選択の自由」に抵触しないのかなど物議を醸しているが、労働問題に詳しい専門家によると、▽制限される転職先の社数▽これまでに培った専門スキルを活かせないことの代償を割増退職金にどう見積り、上乗せするか――が、会社提案が妥当(=有効)かどうかの判断材料のひとつになりそうだ。当然、健全な労使協議がなされた上で新ルールが導入・運用されることが大前提となる。(神尾 裕)

■ファイザーで初の試み

ファイザーの早期退職者募集・割増退職金の返還ルールをミクスで7月19日に報道した直後から、編集部スタッフやSNSに質問や書き込みが多数寄せられた。違法性を問う内容が少なくないため、その点を中心に続報する。

まず、ファイザーで検討されている早期退職者募集のスキームを紹介する(ニュース記事は、こちら)。7月末日現在で早期退職者募集を実施するかどうかを含め労使協議中だが、会社側は50歳以上の営業担当者を対象に早期退職者を募集し、期末となる19年11月末付け退社で進めたい意向だ。通常の退職金に割増退職金を上乗せする。

ただし、応募者のうち、がん担当もしくは希少疾病用薬担当がファイザー退社後3年以内に会社指定の競合会社に転職した場合、割増退職金の返還を求める。応募者は念書を提出してこのルールに“合意”する。会社指定の競合社は「数社」(ファイザー関係者)あり、この中にはがん免疫療法薬キイトルーダで存在感をみせているMSDが含まれる。導入されれば、一般職に対する割増退職金の返還ルールは同社として初となる。

業界全体でみても、一般職に対する割増退職金の返還ルールは初めてとみられる。今回のファイザーのスキームが前例となり得る状況にある。

■転職制限が必要かつ合理的な範囲か

ファイザーで検討中の割増退職金の返還ルールは、法学で言うところの「競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)」契約に位置付けられる。

競業避止義務を簡単に説明すると、在職中の会社の利益に著しく反する競業行為(在職中に競合会社に就職した、競業会社を設立したなど)を差し控えなければならないとの義務のことで、就業規則に盛り込まれることが多い。退職後は職業選択の自由の観点から、また培ったスキルを活かして転職することも多いことから、原則として退職後の労働者が同義務を負うことはない。

しかし、就業規則や個別合意で退職後の競業避止義務を規定することはできる。その妥当性・有効性の判断は、「制限が必要かつ合理的な範囲を超えていないか」がポイントとなり、超えると民法90条の公序良俗違反(社会的な妥当性に欠けるような法律行為や契約は、無効)となる。過去の裁判例でもこの点で争われるケースが多い。

■会社提案の妥当性 少なくとも4項目から考慮

では、ファイザーが今回、従業員に提案している退職後の競業避止義務は妥当(=有効)なのだろうか。

労働者や組合の立場から労働問題に取り組む旬報法律事務所の梅田和尊弁護士によると、「会社提案の詳細を見ないとわからないが」と前置きした上で、会社提案の有効性の判断にあたり、(1)競業行為を禁止する目的・必要性(2)退職前の労働者の地位・業務(3)競業が禁止される業務の範囲、期間、地域(4)代償措置の有無――の4項目は少なくとも考慮されるという。

会社側は今回、がんや希少疾患といったより専門性の高い領域で、ファイザー独自の知識やスキル、戦略のたて方を身につけたMRを割増退職金の上乗せもある早期退職者募集のスキームで競合他社に流出させたくないと考えている。

梅田弁護士は、特定の専門領域でファイザー独自の専門的なノウハウを持つMRが営業上のセンシティブな情報や秘密を有しているのであれば、競合会社に転職後は転職前企業の収益に影響を及ぼす可能性があると考えられることから、前述の(1)と(2)の要素を満たすことはあり得るとみる。

■専門的なスキル 3年後にまた使える?

問題は、(3)と(4)になる。競業禁止の範囲をがんと希少疾患に絞っている点は、「競業禁止の会社(=転職制限の会社)がそれほど多くない」ことを前提に、「(要素を)満たす可能性は高い」との見解。しかし、転職制限期間の3年は「長い印象」とし、3年も専門スキルを活かせないのであれば、「十分な代償措置があるかどうかが、(会社提案の)有効性判断の大事なポイントになる」と指摘した。

今回のケースでの“代償措置”は、労働者の転職の自由を制限することを正当化できるだけの相応の対価のこと。つまり、割増退職金の水準となる。労働者にとって3年も専門スキルを活かせない不利益を、どのように見積もるかがポイントになるといえそうだ。

さらに梅田弁護士は、より専門性が求められる領域で3年間、MRとしての仕事に従事できないとなると、転職制限期間終了後に類似業務に復帰できるのか、とも疑問を呈した。「例えば50歳で退職後に、さらに15年前後は働く方が多い。これまでに培ったスキルや知見を全く活かせない仕事に従事せざるを得なくなる場合、労働者側の不利益は大きい。この観点からも十分な代償措置となっているかは有効性判断の材料になる」との見立てだ。

もちろん、今回のファイザーで検討されている早期退職者募集に手あげせず、自己都合退職して、自らの専門スキルをより活かせる職場で活躍することもできる。この点も会社提案の早期退職者募集/割増退職金の返還ルールが明らかな違法行為とまでは言えない理由になるだろう。

なお、労働者の権利として憲法22条の職業選択の自由を持ち出すとした場合、同じく22条の解釈として経営者の「営業の自由」も保障されている。とはいえ、労働者の職業人生の選択の問題であることや労使の力関係の格差を考えれば、職業選択の自由に重きを置いて民法90条の有効性を判断することが望まれるのではないだろうか。
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