塩野義とエムスリー 疾患課題解決する合弁会社設立 まずインフルエンザの情報提供モデル確立
公開日時 2019/10/07 03:51
塩野義製薬とエムスリーは10月4日、疾患課題を解決する合弁会社「ストリーム・アイ」を設立したと発表した。両社の強みを活かして疾患の予防、診断、治療のプラットフォームやソリューションを開発・提供する。まずインフルエンザ治療の課題解決に取り組む。MR活動とデジタルを連動させて医療従事者一人ひとりのニーズを踏まえた情報提供モデルを確立するとともに、インフルエンザの▽予防▽簡便な診断法▽重症化抑制――といった課題に対する最適オプションの提供を目指す。
合弁会社は10月に設立した。出資比率は塩野義が51%、エムスリーが49%。資本金は5000万円。同社社長に塩野義の澤田拓子・副社長(写真左、右はエムスリーの
泉屋一行取締役)が就いた。合弁会社は当面、塩野義からの委託を受けて事業展開する。
合弁事業ではまず、インフルエンザ領域における「生産性向上・適正使用情報提供モデル」の構築に取り組む。MR活動やデジタルを用いて情報提供した内容を、合弁会社がMR活動報告や医療従事者を対象としたWeb調査をもとに、顧客満足度や情報ニーズなどを分析する。分析結果を踏まえて戦略を立案し、次のMR活動やデジタル活用に活かす。このPDCAサイクルを高速でまわすことで、医療従事者一人ひとりのニーズに沿う的確な情報を、適切なタイミング・最適な方法で提供することを実現する。
■患者とかかりつけ医をつなぐコミュニケーションツールで重症化抑制
中長期的には、インフルエンザ予防に向けて、地域別の流行情報や、手洗いなどの予防を一層推進すべきといった情報を迅速に提供できるようにする。インフルエンザでは感染初期の診断の難しさもあることから、より簡便な診断法の開発も目指す。
インフルエンザの場合、一度受診したら再診することは少ないうえ、重症化する患者を把握することも困難。この課題に対し、患者とかかりつけ医とのコミュニケーションを促進するツールを開発し、重症化抑制に貢献する。
合弁会社の澤田社長はこの日、東京都内で開いた設立会見で、地域別の流行情報コンテンツは国立感染症研究所のデータや塩野義が別途委託しているデータを用いる方向を示した。患者とかかりつけ医とのコミュニケーションツールの開発では、「エムスリーはいろいろなプラットフォームを持っている。何が一番使いやすいか、これから相談したい」と述べた。エムスリーはコミュニケーションアプリ「LINE(ライン)」を運営するLINEなどと提携しているほか、独自のAIプロジェクトを複数展開しており、新たなデジタルソリューションの開発に期待を示した格好だ。
■澤田社長 医薬品は疾患に対するケアの「ごく一部」
澤田社長は、合弁会社設立の目的について、「デジタルと既存のリアル活動を融合することで、全ての患者さんに最適かつ総合的なケアを届けられるシステム構築を目指す」とした上で、「病気で苦しむ患者さんをひとりでも少なくすることが最終的なゴール」と強調した。
塩野義の将来像と、将来のライフサイエンス領域を見通すと、「医薬品はあくまで疾患に対するケアのごく一部に過ぎない」との認識を示し、「(塩野義は)予防、診断、薬物治療を含めたトータルケアができるような会社になっていく必要がある。(合弁会社は)このためのプラットフォームであり、エムスリーと協業していきたい」と述べた。
塩野義以外の製薬企業が合弁会社発の課題解決オプションを使いたい場合、前向きに対応する意向を示した。例えば、インフルエンザの地域別の流行状況情報や、医師と患者とのコミュニケーションツールの共同利用を挙げた。インフルエンザ以外の疾患テーマにも取り組む姿勢をみせたが、具体的な疾患名は明かさなかった。
■エムスリー 製薬企業との合弁会社設立は初
エムスリーの泉屋一行取締役は会見で、これまでの「MR君」に代表されるプラットフォーム機能や臨床研究支援機能といった縦割りの“機能視点”でのサービス提供から、疾病に対してプラットフォームや臨床研究、ビッグデータ、AI――など必要な機能を“疾病視点”で活用し、医療課題の解決に取り組む企業に変革中だと説明した。
製薬企業との合弁会社設立は今回が初めてということもあり、「医療課題を解決するというこれまでにない価値を提供し、貢献していきたい。当社としても重要な試金石になる」と述べた。塩野義以外の製薬企業との合弁事業への意欲もみせたほか、海外展開も視野に入れていると語った。