国内製薬トップ年頭所感 患者や社会に貢献 新薬や医療ソリューションで 企業文化の確認目立つ
公開日時 2020/01/07 04:53
国内製薬企業各社は1月6日までに経営トップの年頭所感を発表した。研究開発型の大手・準大手は、革新的な新薬や医療ソリューションを創出して患者や社会に貢献していく決意を示したほか、技術進歩が著しいデジタルに対応し、デジタル活用をより推進していく内容も目立った。社員に対して、患者中心や医療貢献などの企業文化とともに、コンプライアンスの重要性をいま一度、深く理解し、行動するよう求める内容も相次いだ。
◎武田薬品 ウェバー社長 2020年は「タケダにとって重要な年」
クリストフ・ウェバー社長は、19年1月に買収したシャイアーの統合作業が順調に進み、社内のほとんどの部門でチーム編成が整ったとした上で、「これからは各チームが最大限の効果を生み出すよう取り組みを進める番だ」とした。互いに尊重しながら協力し合うことができる、多様でインクルーシブな職場環境を目指すとも表明した。
20年は「タケダにとって重要な年」と指摘。炎症性腸疾患用薬エンティビオや抗がん剤ニンラーロなど14のグローバルブランドの一層の伸長や、24年度までの上市が期待できる14の新規候補物質の開発の進捗に期待感を示した。また、「当然のことながら、何を行うかだけではなく、どのように行うかも、タケダにおいては重要だ」とし、“タケダイズム”や患者中心、社会との信頼関係構築などの同社のバリューのもと、「革新的な医薬品の創出のみならず社会への貢献を果たしていく」との決意を示した。
◎第一三共 眞鍋社長 最も重要な経営課題は「DS-8201の医療現場での円滑な浸透」
眞鍋淳社長は、20年の最も重要な経営課題として、「DS-8201の医療現場での円滑な浸透」を挙げた。HER2陽性乳がんに用いる抗HER2抗体薬物複合体(ADC)である同剤は、日本では19年9月に承認申請し、米国では同年10月に申請が受理されたわずか2か月後の12月に承認された。同剤は臨床試験の開始から約4年半という記録的な早さで承認されたエピソードも持つ。眞鍋社長は、「薬剤のポテンシャルの高さだけでなく、当社の総合力が発揮された」との認識を示すとともに、パートナー企業のアストラゼネカと多くの臨床試験を推進し、「DS-8201を1日でも早く、1人でも多くの患者さんにお届けできるよう取り組んでいこう」と社員に呼びかけた。「DS-8201は当社創業以来の製品規模になる可能性が十分にある」と大型化への期待も示した。
「企業の持続的成長に向けて、次の創薬への打ち手を考えるのもCEOである私の使命」と表明。細胞治療、遺伝子治療、核酸医薬といった新しい治療手段や、AIやビッグデータなどのデジタルレボリューションを活用した新しい医療サービスを含むニューモダリティに挑戦していくとした。「全社視点のデジタル戦略を明らかにし、推進体制を整えたい」との考えも示した。
◎アステラス製薬 安川社長 革新的な医療ソリューション創出に挑戦
安川健司社長は、「本年も最先端のサイエンスを柔軟に取り込み、革新的な医療ソリューションの創出に挑戦を続け、その成果を1日でも早く患者さんのもとにお届けすることを通じて、ステークホルダーの皆さまの期待に応えていく」と、20年も外部イノベーションの獲得を積極的に進める構えをみせた。
同社はバイオロジーとモダリティ/テクノロジーの独自の組み合わせを見出し、アンメットメディカルニーズの高い疾患に対する革新的新薬の創出を目指す「Focus Areaアプローチ」戦略を推進し、企業買収や提携を戦略的に進めている。19年12月には希少かつ重篤な神経筋疾患を対象とした遺伝子治療薬の研究開発に注力する米Audentes社を約30億ドルで買収することで合意した。この買収について安川社長は、「『遺伝子治療』を当社の新たな成長領域に進化させていくための重要なステップ」との認識を示した。
◎エーザイ 内藤CEO 幅広い人々からの信頼獲得が重要
内藤晴夫CEOは、「20年は、社のビジネスを改めて『信頼の獲得(トラスト)』、『理念の実現(パーパス)』、『事業活動の統制(インテグリティ)』の3点で捉えたい」と表明。医療関係者や患者、株主といった従来からのステークホルダーに加え、「さらに幅広い人々からの信頼を獲得することが重要」と、一般の人や社会などから広く信頼を得ていく重要性を示した。疾病予防への取り組みや認知症患者への貢献などは、広く信頼を得ている企業でなければ実現できないとの考えが背景にあるようだ。
「言うまでもなく、我々はhhc理念実現のために活動している。さらに財務、安全性、品質、データ、コンプライアンスなどにおいて、事業活動の統制を保つことが大変重要になる」とも指摘した。
また、内藤CEOは、グローバル約1万人の社員に対し、「すべての活動がトラスト、パーパス、インテグリティのいずれかに結びついていることをしっかり認識し、持続的な企業価値の向上に向けて、全社一丸となって邁進していく」ことを呼びかけた。
◎田辺三菱製薬 三津家社長 未来の医療の姿を見据えながらバックキャスト
三津家正之社長は、「低分子、抗体を中心とした新薬ビジネスに加えて、新しい科学技術、事業モデルへのトランスフォーメーションを推進していく」とし、「未来の医療の姿を見据えながらバックキャストすることで、身近な社会課題の達成から取り組んでいきたい」とした。
デジタル技術を活用することで組織としての知識や知恵を拡大し、ビジネスフローを変革するとしたほか、同時に専門性を高め、実行力を高めることで「今ある課題を“やり切り”、未来の課題に挑戦する」との方向も示した。
20年の国内ビジネスは、19年7月に申請した新規の経口腎性貧血治療薬バダデュスタットの承認取得や、視神経脊髄炎関連疾患の治療薬として開発中のヒト化抗CD19モノクローナル抗体イネビリズマブの承認申請に取り組む。
◎大日本住友製薬 野村社長 Roivant社との戦略的提携の手続き完了
野村博社長は 昨年末にRoivant社との戦略的提携契約の手続きが完了したことを報告。獲得したデジタルプラットフォームを活用することで、「グループ全体の研究・開発・生産・販売等の効率化、生産性の向上を図る」と意欲を示した。その上で2020年は、戦略的提携を順調に立ち上げ、グループの将来の成長につなげていくための基盤づくりの年になると強調した。
パイプライン関係では、米国においてアポモルヒネ(パーキンソン病に伴うオフ症状)およびdasotraline(過食性障害)が、日本ではルラシドン(統合失調症および双極性障害うつ)が承認されることに期待感を表明した。
「働き方改革」にも触れ、「限られた時間の中でいかに成果を最大化できるかがテーマ」と指摘。中期経営計画で掲げた「ちゃんとやりきる力」に絡めながら、「どうしたらよいかを工夫し、完遂した結果として充実感のある一年を過ごされることを期待する」と社員に呼び掛けた。
◎中外製薬 小坂社長・CEO 環境変化に対応すべく「必要な改革を推進」
小坂達朗社長・最高経営責任者は、製薬産業を取り巻く激しい環境変化に対応すべく、「必要な改革を推進する」と強調した。また持続的な成長を実現するためには、「グループ全体の機能をさらに強化し、スピードと機動力を高める必要がある」とし、デジタルへの対応を重視する姿勢を鮮明にした。
具体的には、デジタル・ITを活用した一元的な戦略の確立・実行に向け、2019年に新設したデジタル・IT統括部門のもと、AIを活用した革新的な新薬創出とバリューチェーン効率化をスピーディかつ強力に推し進める考えを表明した。
また、独自のサイエンス力・技術力に基づくイノベーションを通じた医療への貢献を目指す方針を提示。次世代イノベーションとして、新たな抗体エンジニアリング技術を用いたスイッチ抗体の臨床試験が2020年にスタートすることに期待感を表明。中分子医薬品についても、中期経営計画「IBI 21」の期間中に臨床開発に着手することを目指したいとした。
◎協和キリン 宮本社長 GSPとして成長のフェーズに入ってきた
宮本昌志社長は、「規模やカバーすべき範囲、そして仕事のスピードが、これまでとは全く違うグローバル・スペシャリティファーマ(GSP)としての成長のフェーズに入ってきた」と指摘した。また、この成長を確実なものとしていくために、「一人ひとりが自分の事として変革に挑戦していく必要がある」と強調。「Commitment to Life」 、「Integrity」、 「Innovation」、「Teamwork/Wa」といった同社の価値観やそれをもとにした行動規範が必要になるとした。
2020年は、将来に向けた研究と開発パイプラインをより一層充実させるほか、Crysvita、Poteligeo、Nourianzなどのグローバル戦略品の市場への早急な浸透とその価値の最大化に取り組む。さらに持続的成長のために、「品質保証や安定供給の体制をグローバルで確立するだけでなく、多くの機能をグローバルスタンダードへと進化させ、その機能のマネジメントやオペレーションそれぞれのレベルで課題に挑戦し、それらを乗り越えることが必要」と強調した。