MSDは７月21日、子宮頸がんなどの予防に用いるヒトパピローマウイルス（HPV）の９つの型に対応したシルガード９水性懸濁筋注シリンジ（一般名：組換え沈降９価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン（酵母由来））の製造販売承認を取得した。９歳以上の女性を対象にした予防ワクチンで、自家試験や国家検定など必要な手続きを経たのち、発売する。また、シルガード９の医薬品リスク管理計画書（RMP）がこの日、公表された。既存のHPVワクチン接種後に認められた広い範囲にひろがる痛みなどの「多様な症状」は、シルガード９のRMPで「重要な不足情報」に位置づけ、全例調査で「多様な症状」を疑う症例の情報を収集することになった。

■定期接種化に「接種環境が整うこと重要」

シルガード９は薬価基準の適用外となるが、今後議論される予防接種法に基づく定期接種にどのように位置付けられるか、また、シルガード９の登場を機にHPVワクチンの“積極的な接種勧奨”が再開されるか注目される。同社は本誌取材に、シルガード９の定期接種化を目指して取り組むかどうかについて、「接種環境が整うことは重要と考えている」とし、「ワクチンは承認された後に定期接種の議論が行われると承知している。厚労省での議論を踏まえつつ、必要な対応をしていく」とコメントした。

シルガード９は、従来の沈降４価HPV様粒子ワクチンであるガーダシルに含まれる６、11、16、18の４つのHPV型に、新たに31、33、45、52、58の５つのHPV型が加わった９価HPVワクチン。アジュバントとしてアルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩を含む。

HPV16、18、31、33、45、52、58型は子宮頸がん、外陰がん、膣がん、肛門がんなどの原因になることが知られている。子宮頸がんに対するHPV型のカバー率は、４価HPVワクチンが約65％であるのに対し、シルガード９は約90％とされる。

シルガード９の適応は、HPV 6、11、16、18、31、33、45、52、58型の感染に起因する▽子宮頸がんとその前駆病変▽外陰上皮内腫瘍、膣上皮内腫瘍▽尖圭コンジローマ――の予防となる。９歳以上の女性に、１回0.5mLを合計３回、筋肉内に注射して用いる。通常、２回目は初回接種の２か月後、３回目は６か月後に同様の用法で接種する。

■HPVワクチン接種後の「多様な症状」　シルガード９、全例調査で情報収集

既存のHPVワクチンでは接種後に、広い範囲にひろがる痛みや手足の動かしにくさ、不随意運動などを中心とする「多様な症状」が認められた。このためシルガード９はRMPで「多様な症状」を「重要な不足情報」と位置付け、被接種者の全例登録により、「多様な症状」を疑う症例の情報を収集することになった。さらに、一般使用成績調査により5000例の被接種者の情報も収集する。

なお、既存のHPVワクチン接種後の「多様な症状」は、検討の結果、機能性身体症状と考えられ、また、「HPVワクチン接種後の局所の疼痛や不安等が機能性身体症状を惹起したきっかけとなったことは否定できないが、接種後１か月以上経過してから発症している症例は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しい」と整理された。HPVワクチン接種歴のない人にも、HPVワクチン接種後に報告された「多様な症状」のある人が一定数いたことも明らかになっている。

既存のHPVワクチンは、公費で接種を受けられ、積極的な接種勧奨の対象となる「Ａ類疾病の定期接種」に位置付けられているが、「多様な症状」などの副反応症例について「十分に情報提供できない状況」にあるとして現在、自治体から接種対象者への積極的な接種勧奨は控えられている。この点について、自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」や日本産科婦人科学会はこれまでに、海外では男性にも接種されている状況や、「科学的見地に立って、子宮頸がんの予防戦略においてHPVワクチンと検診の両者は共に必須である」（同学会）との考えから、HPVワクチンの積極的勧奨の一刻も早い再開とともに、９価HPVワクチンの普及と定期接種化などを求めている。