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中医協 ゾコーバ市場急拡大時の特例拡大再算定 診療・支払両側、推定値活用は「年間1000億超」基準に

公開日時 2023/02/09 05:00
中医協薬価専門部会は2月8日、新型コロナ治療薬・ゾコーバ錠の市場が急拡大した場合の対応について、業界ヒアリングを踏まえて議論を行った。市場が急拡大した際に推定値に基づいて実施する特例拡大再算定の適用をめぐり、製薬業界側は「年間1500億円超」を求めたが、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)が「年間市場規模が極めて大きい品目である1000億円を超える場合のルールに適用することが必要」と述べるなど、診療・支払両側から市場急拡大時の迅速な対応を求める声があがった。一方で、推定値の取り方については、柔軟な対応を求める声もあがった。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)が、「再算定で迅速かつ厳正な対応ができないということであれば、収載時の薬価でイノベーションを評価すること自身もかなり難しくなる」と釘を刺す場面もあった。

厚労省は対応の方向性として、収載時に留意事項通知を発出し、必要な患者に投与を限るとともに、市場が急拡大した際には市場拡大再算定を活用して迅速な対応を行うことを提案。年間1000億円超の品目に対する市場拡大再算定の特例(特例拡大再算定)への該当性の判断に、四半期ごとに直近3か月間の市場規模の「推計値」を用いるとしていた。特例拡大再算定では引下率に上限が定められているが、これについても診療・支払各側から上限の引上げを容認する声があがっていた。また、同剤が緊急承認された薬剤であることから、本承認時に改めて薬価について検討することとしている(関連記事)。

◎日薬連・眞鍋会長「現行の再算定よりも厳しい方向で見直す必要はない」 年間売上1500億超を基準に

業界ヒアリングでは、市場拡大再算定をめぐる意見が多く出た。特例拡大再算定の適用対象について日薬連の眞鍋会長は、2022年度薬価制度抜本改革骨子で年間1500億超の高額医薬品とされていることを引き合いに、「この定義を踏まえ、推計したデータを用いて実施される再算定の対象は1500億円超の場合に限るべき」と述べた。再算定時の引下げ率や上限をめぐっては、「上限など現行の市場拡大再算定の特例よりも厳しくなる方向で見直す必要はないと考える」と眞鍋会長は主張。米国研究製薬工業協会(PhRMA)のシモーネ・トムセン在日執行委員会委員長も、「市場拡大再算定は現行でもすでに非常に厳しいルールだ。それよりもさらに引き下げ率を厳しくする、またその上限について現行よりもさらに厳しい対応を行う必要はない」と主張した。

◎PhRMA・トムセン委員長 特例拡大再算定の該当「推定が過大になる可能性も」

特例拡大再算定の該当性の判断に推計値を用いることによる課題を指摘する声もあがった。PhRMAのトムセン在日執行委員長は、「感染拡大により一時的に需要が増加した後、感染が急激に収縮し、実際の年間販売計画が推計値に達しない可能性も十分に考えられる。直近3か月の市場規模を4倍にして年間販売額を推計する方法を取ると、結果として市場規模の推計が過大となる可能性がある」と指摘。「再算定を適用する場合には、実際の年間販売額の合計を基準に適用を判断すべき」と主張した。

◎支払側・松本委員「再算定できなければ収載時のイノベーション評価もかなり難しい」

感染症領域でのビジネスの特殊性を踏まえた検討の必要性も業界からあがった。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「ゾコーバの開発・生産に当たっては、一定規模の補助金が出ている、あるいは一定規模の政府買い上げがなされている。リスクは相当なくなっているというふうに認識しているが、どうお考えなのか」と質した。

PhRMAのトムセン在日執行委員長は、開発、生産が迅速にできたのは「非常に大きな投資をしたからだ」と説明。「薬価においても保険償還においても、私どもの努力が報われるようなシグナルやインセンティブをいただきたい」と主張。欧州製薬団体連合会(EFPIA)の岩屋孝彦会長も企業の開発におけるリスクの大きさを強調し、「薬価上のペナルティに近いような制限は、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるような状況になりかねない」と危機感を露わにした。

これに対し、支払側の松本委員は、「新型コロナのように急激に患者数が拡大する疾病の場合、保険財政に短期間で極めて大きな影響がある。再算定で迅速かつ厳正な対応ができないということであれば、収載時の薬価でイノベーションを評価すること自身もかなり難しくなる。保険財政そのものが深刻な状況にあることを踏まえれば、イノベーションを評価するにしても一定の制約があることはぜひご理解を賜りたい」と理解を求めた。

◎診療側・長島委員「再算定も柔軟かつ迅速に行う対応に尽きる」

この日は業界ヒアリング後に、事務局側が改めて資料を提示し、診療・支払側に追加意見を求めた。

診療側の長島委員は、「感染症は流行しないと評価できず、また販売量の予測も立てづらいという困難さがあるとの業界のご主張はその通りだ。その意味では、その時々の状況を踏まえた柔軟な対応が必要であり、再算定も柔軟かつ迅速に行うという対応に尽きるのではないか」と述べた。そのうえで、推定値を用いた市場拡大再算定の対象について、「年間市場規模が極めて大きい品目である1000億円を超える場合のルールに適用することが必要」と述べた。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も、「特例再算定の適用基準については、1000億超を基準として、引き下げ率と下げ止めについては新型コロナが急拡大した場合の保険財政の影響を踏まえれば、特に厳しく対処すべき」と述べた。

◎安川薬剤管理官「収載1年間は推計値活用で迅速な対応が可能」

特例拡大再算定の該当性の判断に推計値を用いることによる課題を指摘する声が業界から上がったことを踏まえた質問を受け、厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、「収載後1年間は、そのもののデータではないので、直近3か月または6か月など、再算定を判断する四半期のタイミングで、判断できる期間のデータを基に年間の市場規模を推計、算定し、迅速に再算定を行うことは可能になると思っている」と説明した。また、同剤が1年間の条件付きで緊急承認された薬剤であることから、「直近1年間の推計データが入手できる頃には、本承認の結果、それまでの感染状況等を踏まえて再算定、薬価そのものについても改めて議論することも可能と思われる」とも述べた。

◎支払側・安藤委員「市場規模よりも大きく下回った場合の対応についても検討すべき」

診療側の長島委員は、「基本は急激な市場拡大に対応できるということが大前提だ。そのような対応をお願いする」と述べた。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「医療保険財政への影響を考えると迅速に判断するっていうことは必要だ。難しいが、できるだけ精緻な推計方法を考えるということで、例えば年間を通して市場規模を把握してピーク等を捉え、前後の月も参考にして、その時点での年間販売額を推定して判断していく対応も一つの考えだ」と述べた。

支払側の松本委員は、「四半期に固定せず、連続した3か月ともローリングというのが可能であれば、その方が良いのではないか」との見解を表明。支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「今回のコロナのような感染症患者の急激な拡大による保険財政への影響を最小限に抑えるためには、現行ルールよりも柔軟かつ迅速に対応できる仕組みが必要だ。連続した3か月間の推計から年間市場規模を算出するべきと考えるが、迅速性を求めるために3か月間の推計で行った場合、市場規模よりも大きく下回った場合の対応についても検討すべき」との見解を示した。

◎薬価算定 複数の比較薬で類似薬効で算定へ 支払側・松本委員「インフルエンザの既存経口薬ベースに」

論点にあげられていた類似薬効比較方式での算定に際し、「複数の比較薬に基づき薬価を算定するなどの柔軟な運用を可能とする」とされた点については、業界から意見が出なかった。支払側の松本委員は、「きょう特に業界からも異論がなかったので、これをベースに合意できたものと考えてよいのではないか。ゾコーバについては、新型コロナの既存の経口薬よりは、インフルエンザの既存の経口薬に近いというのが健保連の考え方だ」と述べた。

◎日薬連・眞鍋会長 「ゾコーバはビジネスとしても発症の仕方としても、抗菌剤と非常に同じ

このほか、業界ヒアリングでは、日薬連の眞鍋会長は、感染症領域のビジネスの難しさ、特殊性を説明するために、抗生物質について説明し、支払側の松本委員から「ゾコーバ自身は抗菌薬ではなく、抗ウイルス薬だ」と質す一幕もあった。

眞鍋会長は、「感染症治療薬の場合は社会的なニーズが高く、投資が重くのしかかる一方で、収益については、適正使用推進や流行規模の違いで抑えられる、あるいは著しく予見性を欠いているのが現状だ。実際この課題から近年、抗菌薬市場からの相次ぐ撤退や抗菌薬を扱う企業の破産買収が起きている。つまり直面するビジネス上の課題を解決しない限りは同領域の研究開発は進まないうえ、さらに撤退する企業も増えてくる可能性もある」と訴えた。

支払側の松本委員は抗菌薬をめぐる課題認識に同意したうえで、「ゾコーバ自身は抗菌薬ではなく、抗ウイルス薬だ。できれば抗ウイルス薬の市場動向がどうなっているか、どうお考えか」と質問した。

これに対し、眞鍋会長は抗ウイルス薬にはC型肝炎治療薬や抗HIV薬などがあると説明。C型肝炎治療薬は、ソバルディ錠、ハーボニ―配合錠などがブロックバスターとなったことが広く知られている。眞鍋会長は、「全体として抗菌剤に比べ、それほど落ちているという認識はない」としたうえで、「今回のゾコーバについては、従来の抗菌剤が対象とするような感染症と同じで、予想ができない段階で急激に発症が広がって、またその収束も見えないなかで薬を作っているということなので、非常にビジネスとしても、また発症の仕方としても抗菌剤と同じような形で動いているという意味を含めて説明した」と述べた。

なお、厚労省が示した対応の方向性として、類似薬効比較方式での比較薬としては、対象疾患や薬理作用の観点から新型コロナ治療薬、対象患者数や投与方法からの類似性としてインフルエンザ治療薬と、抗ウイルス薬があげられているが、抗菌薬は例示されていない。

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