厚労省 新薬創出等加算の企業要件廃止で「シンプルな制度」提案 ラグ・ロス解消へメッセージ発信
公開日時 2023/11/24 04:57
厚労省は11月22日、中医協薬価専門部会に新薬創出等加算の企業要件撤廃を廃止するなど、「シンプルな薬価制度」を提案した。診療側・支払側それぞれの中でも賛否が割れた。製薬業界は従来から企業要件の撤廃を求めており、石牟禮武志専門委員(塩野義製薬渉外部長)は、「グローバルに我が国が新薬のイノベーションを評価する国であるということを示すこともできる。日本市場の魅力度を回復させ、ドラッグ・ラグ/ロスの解消につながると確信している」と述べ、理解を求めた。厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は提案に至った理由について、「新薬に対し、ドラッグ・ラク/ロスの解消に向けたメッセージをどう示すか」と説明。国民皆保険の持続可能性を指摘する声があがったことを踏まえ、今後シミュレーションに基づいて議論する考えも示した。
◎「妥当性」検証へ 医薬品開発への影響を分析・評価することも提案
厚労省はこの日、新薬創出等加算の“シンプル”な姿への見直しを提案した。制度導入当初に、未承認・適応外薬の解消に取り組む企業を評価してきたが、品目要件で革新的医薬品を対象にしていることから、革新薬の開発促進につながっていると説明。さらに、企業指標が数を指標にしており、企業規模に依存するため、ベンチャーやスタートアップが高いポイントを得られないことを問題視し、企業要件の廃止を提案した。品目要件としては、小児加算による評価対象となり得る品目や、現在検討が進められている日本への早期導入に対する加算を適用する品目を追加することを提案した。加算額については、「単に改定前価格を維持する加算額」とするが、平均乖離率超の品目については、改定前薬価を維持できないとした。
あわせて、厚労省は、提案の「妥当性」を検証するため、今後の医薬品開発に対する影響を製薬業界の協力のもとで分析・評価等を行うとともに、次回以降の薬価制度改革に向けた検討においても薬価改定による革新的新薬の薬価のあり方について引き続き議論を行うことも提案した。
◎診療側・長島委員、支払側・松本委員は反対姿勢 企業指標は「研究開発の取り組み評価」
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「革新的医薬品の定義、範囲は、現行通りが妥当。企業要件を廃止して、無条件にすることについては反対する」と明確な姿勢を示した。「企業要件で評価していた価値。例えば、革新的新薬の創出、ドラッグ・ラグ対策や世界に向けた新薬など、企業としての要件が果たして品目要件で評価できるのか。そこで失われるものがないのか、十分に検討すべきではないか」と指摘した。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「ダイナミックな提案」と印象を語ったうえで、「イノベーション推進の重要性は十分理解しているが、医療保険財政にどのような影響があるのか、短期と中期の両面から見通しを示して頂くことは不可欠」と指摘した。そのうえで、「企業要件、企業指標については、ベンチャー企業に配慮する必要性は十分理解するが、企業指標が研究開発の取り組みを評価するものであることを踏まえれば、企業要件そのものを廃止することには、少し議論が飛躍している」と述べた。「基本的に品目要件さえ満たせば、単に改定前薬価を維持するという考え方には疑問を感じざるを得ない」とも述べた。
◎診療側・支払側にも賛成意見 企業動向注視する必要性指摘も
一方で、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「現行の企業要件は、企業の規模に依存するところがあり、ベンチャー等への配慮から、企業要件を撤廃することに異論はないが、企業の取り組みが後退してはいけない」として、企業動向を注視する必要性を強調した。
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)も、「ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの解消に向けて新薬の研究開発に注力する環境を整備する観点から、新薬創出等加算の企業要件の廃止などの見直しを行うことについては賛成する」と表明。支払側の眞田享委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)も、「この方向で見直すことに異論はない。骨太方針2023に明記をされている通り、創薬力強化に向けたイノベーションを適切な評価という観点からの見直しの一環であると受け止めている。一方で、患者負担や、制度の持続可能性の確保の観点からは、その他の薬価に関する論点について、今後バランスの取れた議論を行うべき」と述べた。
◎累積額控除 支払側・松本委員「薬価維持なら毎年控除すべき」 業界意見陳述引き合いに
このほか、累積額控除の時期については24年度改定では「後発品の上市又は薬価収載後15年後」とする規定は維持し、「次期薬価制度改革」で結論を出すことが提案された。支払側の松本委員は、日薬連の岡田安史会長が意見陳述で、「(累積額控除の時期について)新薬の評価とともにそれが特許満了したときは、その価格も含め、バランスを持って議論していきたい」と発言したことを引き合いに、「製薬業界の認識の通り、今回から薬価を維持するのであれば、今後は少なくとも毎年度、累積額を控除する方向性を年末にもまとめる薬価制度改革の骨子の中で、中医協の共通認識として確認すべき」と主張した。また、“次期薬価改定”とは「25年度改定と理解している」とも述べた。
支払側の鳥潟委員も、「後発品が登場した際に、スムーズに市場の移行が進むよう、毎年の薬価改定時に累積額を控除する方向で検討していただきたい」と述べた。
◎石牟禮専門委員「日本市場の魅力度を回復させ、ドラッグ・ラグ/ロスの解消につながる」
業界代表の石牟禮武志専門委員(塩野義製薬渉外部長)は、「企業区分によってどんなに革新性や有用性が高い新薬を出したとしても、75%の企業の新薬の薬価は維持されない。開発に向けたインセンティブというより、むしろディスインセンティブという受け止めも可能だ」と表明。企業要件が開発品目数などを指標にしていることから、「品目そのもので評価も可能」との見方を示した。「企業要件の廃止により、新薬創出等加算は基本的に薬価を維持する仕組みになると思う。グローバルに我が国が新薬のイノベーションを評価する国であるということを示すこともできる。革新的な新薬であっても薬価が下落する国であるという認識を変えることにもつながり、日本市場の魅力度を回復させ、ドラッグ・ラグ/ロスの解消につながると確信している」と強調した。制度導入後に検証を行うことについても、「業界として異論ない」と述べた。
厚労省の安川薬剤管理官は、「新薬に対し、ドラッグ・ラク/ロスの解消に向けたメッセージをどう示すかというところで、こういうまとめをした」と説明。「財政影響、国民皆保険の持続性は重要な視点だ」との見方を示したうえで、薬価調査や今後の予算編成での議論の影響もあるとしたうえで、シミュレーションなどを示す考えを示した。