厚労省 初のRSVに対する母子免疫ワクチン「アブリスボ」など新薬等11製品を承認
公開日時 2024/01/19 04:51
厚生労働省は1月18日、新医薬品など11製品を承認した。この中のファイザーのRSウイルス(RSV)ワクチンのアブリスボ筋注用は国内初のRSVに対する母子免疫ワクチン。新生児及び乳児のRSVによる下気道疾患の予防のため、妊娠24~36週の妊婦に1回、筋肉内に接種して用いる。
今回の承認品目のうち新有効成分含有医薬品は8製品。具体的にはアブリスボのほか、▽ホモ接合体家族性高コレステロール血症治療薬・エヴキーザ点滴静注液345mg(一般名:エビナクマブ、ウルトラジェニクスジャパン)、▽骨髄異形成症候群に伴う貧血治療薬・レブロジル皮下注(ルスパテルセプト、ブリストル・マイヤーズ スクイブ)、▽全身型重症筋無力症治療薬・ヒフデュラ配合皮下注(エフガルチギモド アルファ、ボルヒアルロニダーゼ アルファ、アルジェニクスジャパン)、▽発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬・ボイデヤ錠(ダニコパン、アレクシオンファーマ)、▽早老症治療薬・ゾキンヴィカプセル(ロナファルニブ、アンジェス)、▽BRCA陽性去勢抵抗性前立腺がん及び再発乳がん治療薬・ターゼナカプセル(タラゾパリブトシル酸塩、ファイザー)、▽アトピー性皮膚炎治療薬・イブグリース皮下注(レブリキズマブ、日本イーライリリー)――となる。
承認された製品は次の通り(カッコ内は一般名、製造販売元)。薬効分類順に記載。
▽フィコンパ点滴静注用2mg(ペランパネル水和物、エーザイ):「一時的に経口投与ができない患者における、下記の治療に対するペランパネル経口製剤の代替療法。・てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)、・他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の強直間代発作に対する抗てんかん薬との併用療法」を効能・効果とする新投与経路医薬品。薬効分類113。
AMPA型グルタミン酸受容体拮抗薬。点滴静注製剤の効能・効果は、既承認の経口製剤と同様で、一時的に経口投与ができない患者におけるペランパネル経口製剤の代替療法の位置付けとなる。用法・用量は、①ペランパネルの経口投与から切り替える場合②ペランパネルの経口投与に先立ち投与する場合―に分けて設定されており、いずれも1日1回点滴静脈内投与する。
てんかん患者が手術時など一時的に経口で薬剤を服用できない場合に、投与中断による発作リスクが懸念されるため、経口投与以外の治療を継続することが望ましいとされている。経口抗てんかん薬の代替療法の適応を持つ静注製剤には、イーケプラ点滴静注やビムパット点滴静注、ホストイン静注がある。
▽エヴキーザ点滴静注液345mg(エビナクマブ(遺伝子組換え)、ウルトラジェニクスジャパン):「ホモ接合体家族性高コレステロール血症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。薬効分類218。
抗ANGPTL3モノクローナル抗体。アンジオポエチン様タンパク(ANGPTL3)に結合し、ANGPTL3によるリポタンパクリパーゼ(LPL)及び血管内皮由来リパーゼ(EL)阻害活性を抑制し、LDL受容体非依存的にLDL-C低下作用を示すと考えられている。LDL受容体が活性をほとんど示さないホモ接合体家族性高コレステロール血症(HoFH)患者に対して有効な新規作用機序の薬剤として期待されている。
用法・用量は、「通常、エビナクマブ(遺伝子組換え)として15mg/kgを4週に1回、60分以上かけて点滴静注する」。
▽レブロジル皮下注用25mg、同皮下注用75mg(ルスパテルセプト(遺伝子組換え)、ブリストル マイヤーズ スクイブ):「骨髄異形成症候群に伴う貧血」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。薬効分類339。
トランスフォーミング増殖因子-β(TGF‒β)阻害薬。TGF-βスーパーファミリーと結合し、アクチビン受容体を介した下流のシグナル伝達経路を阻害することで、造血幹細胞から赤血球への分化過程の後期段階における分化を促進し、成熟した赤血球数の増加を誘導すると考えられている。
用法・用量は、「通常、成人にはルスパテルセプト(遺伝子組換え)として1回1.0mg/kgを3週間間隔で皮下投与する。なお、患者の状態により適宜増減するが、1回1.75mg/kgを超えないこと」。
本剤の投与対象である低リスク骨髄異形成症候群(MDS)患者では、貧血等の血球減少症への対応が主たる治療目標となっており、治療選択肢として赤血球輸血やダルベポエチンアルファなどがある。MDSの疾患の経過とともに約80~90%の患者で貧血を発症する。貧血を呈するMDS患者の多くは、正常な赤血球の循環量を確保するために定期的に輸血が必要となる。しかし、頻繁な輸血によって鉄過剰症、輸血反応、輸血血液からの感染など多くのリスクにさらされ、輸血の負荷が高くなると低リスクMDS患者の生存率を低下させることが報告されている。
▽ヒフデュラ配合皮下注(エフガルチギモド アルファ(遺伝子組換え)、ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)、アルジェニクスジャパン):「全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品及び新医療用配合剤。薬効分類399。
エフガルチギモド アルファ(国内製品名:ウィフガート)は胎児性Fc受容体(FcRn)を標的とするアミノ酸残基を改変したヒトIgG1抗体Fcフラグメントで、FcRnを介したIgG抗体のリサイクル経路を阻害し、病原性IgG自己抗体を含むIgG濃度を低下させることにより、全身型重症筋無力症(gMG)に対する治療効果を示すと考えられている。既承認のウィフガートは点滴静注製剤。
新有効成分のボルヒアルロニダーゼ アルファは結合組織におけるヒアルロン酸を加水分解する酵素で、皮下組織における薬液の浸透性を増加させる。これにより両成分を含有するヒフデュラは皮下投与で用いることができ、医療従事者や患者の利便性の向上が期待される。
ヒフデュラの用法・用量は、通常、成人には本剤1回5.6mLを1週間間隔で4回皮下投与し、これを1サイクルとして投与を繰り返す。なお、ウィフガートは1回10mg/kgを1週間間隔で4回1時間かけて点滴静注し、これを1サイクルとして投与を繰り返す。
▽ボイデヤ錠50mg(ダニコパン、アレクシオンファーマ):「発作性夜間ヘモグロビン尿症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。薬効分類399。
補体D因子阻害薬。補体第二経路の律速段階である補体B因子の開裂を触媒する補体D因子のセリンプロテアーゼ活性を阻害し、補体第二経路の活性化及びC3フラグメントの沈着を抑制する。
用法・用量は、「通常、成人には、補体(C5)阻害剤との併用において、ダニコパンとして1回150mgを1日3回食後に経口投与する。なお、効果不十分な場合には、1回200mgまで増量することができる」。
現在、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に対する治療薬として、C5に対するヒト化モノクローナル抗体(C5阻害薬)であるエクリズマブ及びラブリズマブが使用されているが、C5阻害薬が投与された一部の患者ではC3を介した血管外溶血が認められており、PNHの治療上の課題となっている。PNHに対する治療薬として、C3阻害薬・ペグセタコプランが23年3月に承認されている。
▽ゾキンヴィカプセル50mg、同カプセル75mg(ロナファルニブ、アンジェス):「ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群及びプロセシング不全性のプロジェロイド・ラミノパチー」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。薬効分類399。
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)とプロジェロイド・ラミノパチー(PL)は、それぞれが大変希少な致死性の遺伝的早老症。いずれの病型とも深刻な成長障害、強皮症に似た皮膚、全身性脂肪性筋萎縮症などの早老症状が現れ、動脈硬化性疾患により若年期に死亡するとされ、HGPSの平均年齢は14.5歳と報告されている。HGPSの国内患者数は10人程度とされる。
同剤は、HGPSやプロセシング不全性のPLの小児及び若年成人において、核膜の構造・機能を損なうファルネシル化された変異タンパク質(核の不安定化と早期老化を惹起)の蓄積を阻害する。
▽①ラパリムス顆粒0.2%②同錠1mg(シロリムス、ノーベルファーマ):「下記の難治性脈管腫瘍及び難治性脈管奇形:リンパ管腫(リンパ管奇形)、リンパ管腫症、ゴーハム病、リンパ管拡張症、血管内皮腫、房状血管腫、静脈奇形、青色ゴムまり様母斑症候群、混合型脈管奇形、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群」を効能・効果とする①新効能・新用量・剤形追加に係る医薬品(再審査期間中のもの)②新効能・新用量医薬品。希少疾病用医薬品。薬効分類429。
mTOR阻害薬。PI3K/AKT/mTOR経路を抑制することにより、脈管腫瘍及び脈管奇形に有効性を示すと考えられている。脈管腫瘍及び脈管奇形の病因は明確ではないが、PI3K/AKT/mTOR経路の異常活性により、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞等の異常増殖を起こすことが原因の一つと考えられている。
既承認の錠剤は現在、「難治性リンパ管疾患(リンパ管腫(リンパ管奇形)、リンパ管腫症、ゴーハム病、リンパ管拡張症)」の効能を持っている。今回、「難治性リンパ管疾患」を「難治性脈管腫瘍及び難治性脈管奇形」に書き換え、「リンパ管腫(リンパ管奇形)、リンパ管腫症、ゴーハム病、リンパ管拡張症」に、「血管内皮腫、房状血管腫、静脈奇形、青色ゴムまり様母斑症候群、混合型脈管奇形、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群」を追加。顆粒剤も追加された。
▽①ターゼナカプセル0.1mg、②同カプセル0.25mg、③同カプセル1mg(タラゾパリブトシル酸塩、ファイザー):①と②は「BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん」、②と③は「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。薬効分類429。
DNA修復で重要な役割を果たしているPARP1とPARP2の阻害薬。PARPとDNAの複合体の解離を阻害することにより、DNA複製の過程で二本鎖切断を生じさせる。BRCA遺伝子の変異等の相同組換え修復関連遺伝子の変異等により、相同組換え修復機能を欠損した腫瘍細胞では、本薬の投与により生じた二本鎖切断が修復されずに蓄積し、細胞死が誘導されることで腫瘍の増殖が抑制されると考えられている。
用法・用量は、去勢抵抗性前立腺がんに対しては、「エンザルタミドとの併用において、通常、成人にはタラゾパリブとして1日1回0.5mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」。乳がんに対しては「通常、成人にはタラゾパリブとして1日1回1mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」となる。
乳がんのうち約3~5%(約2830~4720人)でBRCA遺伝子変異が認められるとの報告がある。
▽イブグリース皮下注250mgシリンジ、同皮下注250mgオートインジェクター(レブリキズマブ(遺伝子組換え)、日本イーライリリー):「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。薬効分類449。
IL-13に対して高親和性に結合するIgG4 モノクローナル抗体。IL-13と結合し、IL-4Rα及びIL-13Rα1から構成されるIL-13受容体複合体を介したIL-13シグナル伝達を阻害する。サイトカインであるIL-13はアトピー性皮膚炎において重要で、皮膚の2型炎症を引き起こし、皮膚バリア障害、痒み、皮膚の肥厚化および感染を引き起こすとされている。
用法・用量は、「通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、レブリキズマブ(遺伝子組換え)として初回及び2週後に1回500mg、4週以降、1回250mgを2週間隔で皮下投与する。なお、患者の状態に応じて、4週以降、1回250mgを4週間隔で皮下投与することができる」。
▽アブリスボ筋注用(組換えRSウイルスワクチン、ファイザー):「妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。薬効分類631。
組換え2価融合前Fタンパク質抗原含有RSウイルスワクチン。本剤は、妊婦を接種対象とし、RSウイルス(RSV)に対する抗体応答を誘導する。妊婦において産生された中和抗体は移行抗体として、新生児及び乳児のRSVによる下気道疾患の予防に寄与する。新生児及び乳児におけるRSVによる下気道疾患の予防を目的とした初のワクチンであり、母子免疫を目的としたワクチンとしても初となる。
用法・用量は、「抗原製剤を専用溶解用液全量で溶解後、妊娠24~36週の妊婦に、1回0.5mLを筋肉内に接種する」。
RSVは乳児及び高齢者の呼吸器感染症の主な原因で、年長児や非高齢者成人においては感冒様症状のみで自然軽快するが、生後数カ月までの乳児に感染した場合には気管支炎や肺炎などの重症感染症を引き起こすことがある。日本では、毎年約12万~14万人の2歳未満の乳幼児がRSV感染症と診断され、約4分の1が入院を必要とすると推定されている。
なお、RSV感染による重篤な下気道疾患の発症を抑制する医薬品としてパリビズマブが承認されているが、投与対象者が早産児や先天性心疾患、免疫不全症等のRSV感染症に罹患するリスクが高い新生児及び乳幼児に限定されている。
▽アイリーア8mg硝子体内注射液114.3mg/mL(アフリベルセプト(遺伝子組換え)、バイエル薬品):「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫」を効能・効果とする新剤形医薬品。薬効分類1319。
眼科用VEGF阻害薬で、既承認のアイリーア硝子体内注射液40mg/mL(以下、「既存製剤」)の高濃度製剤。
高濃度製剤の用法・用量は、「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」(nAMD)、「糖尿病黄斑浮腫」(DME)ともに同じ。具体的には、導入期は8mg(0.07mL)を4週ごとに1回、通常、連続3回硝子体内投与する(症状により投与回数を適宜減じる)。その後の維持期は通常、16週ごとに1回硝子体内投与する。なお、症状により投与間隔を適宜調節できるが、8週以上あける必要がある。
既存製剤もnAMDとDMEの適応を持ち、導入期は2mg(0.05mL)を1か月ごとに1回、nAMDは連続3回、DMEは連続5回、硝子体内投与する。その後の維持期はnAMD、DMEともに、通常2か月ごとに1回、硝子体内投与する。高濃度製剤は既存製剤に比べ、投与間隔の延長と年間の投与回数の減少につながり、患者負担の軽減が期待される。