【FOCUS 薬価改定を告示】後発品の企業指標導入で変革問われるジェネリックビジネス カギ握る流通改善
公開日時 2024/03/06 07:59
厚労省は3月5日、2024年度薬価改定を官報告示した。注目したいのは、薬価制度改革の柱となった、医薬品の安定供給に向けた対応として、後発品の企業指標が試行導入されたことだ。安定供給に貢献する企業を可視化されることがポイントと言える。安定供給に関連する企業情報は、6月にも厚労省のホームページで公表される予定で、後発品を選択する立場である薬局・医療機関にも企業の取組みが明確になる。選ばれる企業となるために、企業の自助努力が注目される。一方で、安定供給に貢献する企業の薬価が引上げられる中で、これまで薬価差で差別化を図るビジネスモデルで発展してきた後発品ビジネスも本格的な転換点を迎えている。変革のカギを握るのが、今回の薬価制度改革で楔が打ち込まれたと言っても過言ではない“流通改善”だ。(ミクス編集部デスク 望月英梨)
◎後発品の企業指標 ノバルティスファーマは「C区分」 全ての企業が背負う責任
後発品の企業指標は、安定確保医薬品の品目数や、他社の出荷停止・出荷制限品目に対して増産を行った実績、製造販売する後発品の平均乖離率などの指標をポイント化。「後発品を1品目でも製造販売する企業190社」を対象に、上位20%に当たる「A区分」、「B区分」、「C区分(ゼロポイント未満)」に分類される。24年度薬価改定では、「A区分(上位20%)」は40社、「B区分」は39社、ゼロポイント未満だった「C区分」は111社だった。
ミクス編集部が製薬企業85社(回答:61社)を対象に調査したところ、「A区分」と回答したのが科研製薬、三和化学、生化学工業、富士フイルム富山化学、Meiji Seikaファルマ、ヤクルト本社、富士製薬。「B区分」と回答したのがJCRファーマ、トーアエイヨー、「C区分」と回答したのがあすか製薬、日本臓器製薬、扶桑薬品、ノバルティスファーマだった。
企業指標が導入されるのはジェネリックメーカーだと思われがちだが、最多の新薬創出等加算を有するノバルティスファーマも後発品1成分1品目を有しており、企業指標導入の対象となっている。医薬品の安定供給に貢献するのは製薬企業の責務であることを考えれば、企業指標の導入により、全ての企業に安定供給の責任を投げかけているようにも映る。
企業指標には、「製造販売する品目の原薬の製造国の公表」、「他の製造販売業者と共同開発して承認された品目における共同開発先の製造販売業者名の公表」など、これまで企業により取り組みに差が指摘されていた項目も含まれており、今後こうした項目の公表が進むことで、企業の取組みが加速することも期待される。
◎企業指標の適応条件に「後発品全体の平均乖離率以内」
「A区分」と評価された企業の品目のうち、「最初の後発品収載から5年以内の後発品」、「安定確保医薬品A又はBに該当する後発品(基礎的医薬品を除く)」について、現行の後発品の改定時の価格帯集約(原則3価格帯)よりも、上の価格帯に集約されることになる。ただし、適用条件として、▽後発品全体の平均乖離率以内(23年薬価調査では11.0%)の品目であること、▽仮に現行ルールにより価格帯集約を行った場合、後発品のうち最も高い価格帯となる品目であること、▽自社理由による限定出荷、供給停止を来している品目でないこと―の全てに該当する品目に限定することとされた。
この条件に該当し、別価格帯に集約されたのは78成分規格124品目。このうち、後発品収載から5年以内に該当するのは74成分規格117品目、安定確保医薬品A・Bに該当するのは4成分規格7品目だった。ミクス編集部の調査によると、Meiji Seikaファルマが「6成分13品目」、富士製薬が「3成分3品目」と回答した。
安定供給に資する企業の薬価が引き上げられることの持つ意味は大きい。中医協での議論に先立ち、企業指標が議論された厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」が昨年10月に取りまとめた中間とりまとめでは、業界全体の安定供給に貢献する企業を薬価制度上で評価することが提言された。自社の安定供給体制構築に加え、他社の出荷停止品目に対して増産対応を行うなど、安定供給に注力する企業を薬価上、“高い評価”とするという考えだ。
長引く供給不安の背景に、他社品が供給不安に陥った際に、増産できずにむしろ、玉突きで限定出荷、出荷停止が起きる悪循環に陥っていることがある。製薬業界側から、コスト回収の目途が立ちづらいとの指摘があったことを踏まえ、薬価での評価につながった。一方で、これまで薬価差でシェアを拡大することに主眼を置いてきたジェネリックビジネスは転換する必要がある。
◎「平均乖離率」をメルクマルにあらゆる側面から流通改善の楔が打ち込まれた
今回の薬価制度改革では、「平均乖離率」をメルクマルにあらゆる側面から流通改善の楔が打ち込まれている。例えば、後発品の企業指標でも、平均乖離率が一つの指標とされ、価格帯とは別に集約する医薬品についても、「後発品全体の平均乖離率以内の品目であること」が要件とされている。特例的対応がなされた不採算品再算定は、平均乖離率7%超の品目は対象外とされた。基礎的医薬品は、乖離率の要件を満たせず基礎的医薬品から外れた品目は、その後の改定時に再び基礎的医薬品となっても薬価の引上げは行わずに改定前薬価が維持される。新薬創出等加算も、平均乖離率超となった品目は新薬創出等加算品ではあるものの、加算の適用は受けられず、薬価が引き下げられる。
低薬価品は特に総価取引の調整弁に用いられていることが指摘されている。価格が割れても制度上、元の薬価に戻る最低薬価品などはこの傾向が強く、医薬品の価値を無視した取引も懸念される。
◎流通改善ガイドラインの改訂と今回の薬価改定、調剤報酬改定の意義深さ
告示を直前に控えた3月1日、厚労省は「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」を改訂。医薬品の安定供給確保の観点から不採算品再算定品など、「特に医療上の必要性の高い医薬品」については「価格交渉の段階から別枠とし、個々の医薬品の価値を踏まえた単品単価交渉とすること」を周知した。
安定供給は適正な医薬品流通の礎があってこそと言える。中医協の場でも、不採算品再算定の見直しに際し、診療・支払各側から再三にわたり、「見直しは流通改善が大前提」との回答があがった。ミクス編集部の調査では、物価高騰が続く中で、不採算品再算定や最低薬価など、薬価の下支えを求める企業の声が多く寄せられた。
ただ、医薬品流通は医薬品卸と医療機関・薬局間の川下取引だけでなく、製薬企業・医薬品卸の川上取引を含む流通当事者すべての課題と言える。当然のことだが、製薬企業も当事者意識を持つことが肝要だ。製薬企業側が説明責任を果たすことも重要になる。
医薬品の供給不安が続く中で、大手ジェネリックメーカーを中心に仕切価戦略を変更する企業も多い。今後の流通改善への製薬企業の取組みも注目したい。