東レ ポリマー結合型抗がん剤の導出先を検討 非臨床研究で抗がん性抗生物質の心毒性などの「低減」確認
公開日時 2024/04/09 04:50
東レ、東京慈恵会医科大学、帝京大学は4月8日、東レのポリマー結合型抗がん剤「TXB-001」の非臨床研究で、複数の固形がんに対して強い抗がん作用を示すとともに、既存のアンスラサイクリン系抗がん剤(抗がん性抗生物質)に認められる心毒性などの複数の毒性が「顕著に低減」することを確認したと発表した。東レはTXB-001の臨床開発を推進する提携先を2年以内に探索・決定し、導出する方針。東レとしては2030年代の実用化を目指すとしている。
TXB-001(開発コード)は、活性本体であるアンスラサイクリン系抗がん剤・ピラルビシンに、機能リンカーを介してポリマーを結合させた新規抗がん剤。熊本大学の前田浩名誉教授(故人)が基本的な設計をした化合物で、東レにおいて、強みとするポリマー複合体の合成や分析技術を駆使して活性本体の医薬品質を損なわずポリマーへ結合する製造法を確立した。TXB-001はシンプルな構造でありながら、ドラッグデリバリーシステムとして薬物をがん組織に選択的に集積・作用させる。
東レと各大学との共同の非臨床研究では、帝京大を中心にトリプルネガティブ乳がんや膵がんといった分子標的薬が効きにくく悪性度の高いがん種の動物モデルにおいて、TXB-001の抗がん効果を確認した。安全性に関しては慈恵医大を中心に検証。心毒性について心エコー検査や血液検査などを行った結果、TXB-001は既存のアンスラサイクリン系抗がん剤とは異なり、有効用量を投与しても心臓へ悪影響を及ぼさないことを動物実験で実証した。脱毛や手足症候群の低減も確認した。これらの研究結果は米国サンディエゴで現在開催中の米国癌学会(AACR)の年会で、東レが代表して発表した。
◎東レ・吉川医薬研究所長 ポリマー結合型抗がん剤は「東レらしい技術」
東レ研究本部医薬研究所の吉川正人所長はこの日の会見で、「TXB-001は従来のアンスラサイクリン系抗がん剤の副作用リスクを低減し、分子標的薬の効きにくいがん種への有効性を示す、がん治療の新たな治療選択肢になる可能性がある」と話した。東レの医薬品開発におけるポリマー結合型抗がん剤の位置づけについては、「当社のポリマーの技術は他の製薬企業に比べると長けている。ポリマーに抗がん剤を付けてがん組織に選択的に届ける技術は、東レらしい技術ではないかということで、これに取り組んできた」と述べ、強みとするポリマーに係る独自技術がTXB-001の創製につながったと自信をみせた。
東レによると、TXB-001の作用機序は、▽がん組織周囲の血管壁を透過しやすく選択的にがん組織に集積、▽弱酸性のがん環境においてリンカーが切れ、活性本体であるTHP(テトラヒドロピラニル ドキソルビシン=ピラルビシン)を放出、▽活性本体が有するピラニル構造により、がん細胞に取り込まれやすい――との3つの機序により、活性本体をがん組織に選択的に集積・作用させると考えられるとしている。