厚労省の「医療用医薬品の流通の改善に関する懇談会」は5月20日、全国の医療機関・薬局の薬価差額や乖離率など取引状況を把握する、新たな調査を実施することを了承した。新たな調査では、設置主体や病床数、店舗数に応じて医療機関や薬局に分類を設定し、これまでよりも詳細に実態を把握。価格代行業者を使用した場合の取引実態を調査する。あわせて、不採算品再算定品など医療上必要性の高い品目の取引状況を調べ、今年3月に改訂した流通改善ガイドラインの効果も検証する。厚労省は、調査で把握した実態から問題点や課題を抽出し、「過度な薬価差の偏在」をめぐる議論や、流通改善のあり方について議論を深めていきたい考え。薬価差をめぐっては、20店舗以上のチェーン薬局で乖離率が高く、薬価差が大きいことが指摘されているが、詳細はわかっていなかった。
◎納入価総額、乖離率など4項目を調査 新薬創出等加算品や不採算などの実態把握も
調査は、購入主体別やカテゴリー別で取引価格や過度な値引き要求があることが指摘される中で、実態を把握する目的で行う。2023年度、24年度の1か月分の医療用医薬品(歯科用医薬品を除く)について、広域卸4社、地域卸4社からの協力を得て、薬価総額、納入価格総額、薬価差額、乖離率の4項目を把握する。
流通改善ガイドラインの効果検証を、新たな調査を実施する目的の一つに据える中で、改訂流通改善ガイドラインで、「特に医療上の必要性の高い品目」とされ、「価格交渉の段階から別枠」での単品単価交渉が求められていた基礎的医薬品、安定確保医薬品(カテゴリーA)、不採算品再算定品については特出しして薬価総額、納入価格総額、薬価差額、乖離率を調査。新薬創出等加算についても調べる。
◎購入主体別 医療機関5分類、薬局5分類で詳細な調査に ベンチマークにならないよう留意も
購入主体別の実態把握が求められる中で、医療機関は設置主体別(国公立・公的・社会保険、医療法人、診療所)と病床数(200床以上、未満)で5分類。薬局は、「1店舗」、「2~19店舗」、「20~299店舗」、「300~499店舗」、「500店舗以上」に分類して実態を把握する。従来の調査では医療機関は「200床以上の病院」と、「200床未満の病院・診療所」の2区分、薬局も「20店舗以上のチェーン薬局」、「20店舗未満のチェーン薬局又は個店」の2区分しかなく、より詳細な区分となる。
厚労省医政局の藤沼義和首席流通指導官は、「個社等の特定やベンチマークに使われないことがないよう留意することがまず必要だ。そういう中で、できる限り集計作業に負担をかけない可能な範囲で区分することが大事になる」ため、今回の区分を設定したと説明した。
◎価格代行業者使用した場合の実態を把握 価格代行業者を2分類に整理も
もう一つのポイントとなるのが、「価格交渉を代行する者」を使用した取引についても、同様に薬価総額など4項目を把握する点だ。
調査に当たり、医薬品卸が該当性に迷うわないよう、価格交渉代行業者について明確化。①医療機関や薬局に代わって医薬品卸と価格交渉を行う、②医薬品卸売販売業の許可を取得している者が、大半の医療用医薬品を製薬企業から購入せずに、医薬品卸と価格交渉、あるいは購入し、薬局や医療機関に販売するケース、あるいは医薬品の受発注は行わず、卸との価格交渉と医療機関、薬局からの代金回収、医薬品卸の代金支払いを行う―2つのケースに整理した。一つ目の「医療機関や薬局に代わって医薬品卸と価格交渉を行う」ケースでは、直接価格交渉を行っていなくても、交渉の場に同席する場合も含まれることを明確化。価格交渉の場に同席せずに、単に価格交渉に影響を与えるデータを提供する場合は、価格交渉代行に含まれないとした。なお、チェーン薬局などで法人本部が一括で購入する場合は、価格代行業者には該当しないが、個別店舗での調査から実態は明らかになることになる。
◎藤沼主席流通指導官「あくまで問題点や課題を整理するためのもの」 ベンチマークにならないように
厚労省医政局の藤沼義和首席流通指導官は、「今回実施する取引情報はあくまでも今後の議論に向けて、問題点や課題を整理するために、現在の取引情報状況そういった実態を把握するために実施するものだ」と強調した。
武岡紀子構成員(日本製薬工業協会流通適正化委員会常任運営委員)は、「人間の心理的に、2番目の低い価格にと思われる方が出てくるのではないかと心配している。調査結果が流改懇による公式ベンチマークにならないように結果の見せ方に留意いただきたい」と要望。藤沼主席流通指導官は、「今回把握した情報を単純に集計して、そのまま結果として公表するということではない。あくまで第一歩として、今の状況を把握し、議論した方がいい課題が見えてきたら流改懇に提示し、議論をしていただく」と述べ、理解を求めた。
◎宮川構成員「価格代行業者のコンサル報酬が薬価にどのような影響を与えているのか」
検討会では、価格代行業者をめぐる意見も多く出た。宮川政昭構成員(日本医師会常任理事)は、「最近では価格代行業者の中に教育研修やシステム導入の支援などの言いぶりで、価格代行業者ではない、副業だと言っているところもある。一部でもやっているところがあれば漏れの内容にしていただきたい」と指摘。「価格代行業者のコンサルというような報酬が、薬価にどのような影響を与えているのかという点に問題は尽きるので、しっかり把握できるようお願いしたい」と要望した。
森昌平構成員(日本薬剤師会副会長)も、「(価格代行業者の影響が)流通改善ガイドラインに照らして果たしてどうなのか。サプライチェーン全体でどういう影響を及ぼすのか、そもそも国民への医薬品提供に関してどういう影響を及ぼすのか、薬価制度としてどうなのか最終的には公的保険制度の中でどういう影響を及ぼすのかも含めて今後検討すべき」と述べた。
森英寿構成員(日本製薬工業協会 流通適正化委員会委員長)は、単品単価交渉は、製品の価値に加え、取引条件や配送コストを踏まえて行うものだとしたうえで、「価格代行業者が行う全国一律の価格交渉は果たして単品単価と呼べるのか」と問題提起した。
このほか、2024年度診療報酬改定で、医療機関や薬局は妥結率とともに、「医薬品取引に係る状況(報告の前年度の医薬品取引の状況も含む)」、「医療用医薬品の流通改善に向けた取組(流通改善ガイドラインの改訂内容に基づく主な取組事項の確認)」の報告を求めれることとなった。このため、今回の調査と診療報酬との整合性を求める声もあがった。
厚労省は今後、調査時期や調査手法などについては、厚労省から医薬品卸に協力を依頼する形で、調整を進める方針。