製薬協・臨床評価部会TF1 新薬開発の効率化を目的とした「AI活用」29%が実施済 65%が導入検討中
公開日時 2024/05/28 04:52
日本製薬工業協会(製薬協)の医薬品評価委員会臨床評価部会タスクフォース1(TF1)はこのほど、「臨床開発におけるDXの現状と可能性」の調査結果をまとめた。TF1参加企業17社に医薬品開発の効率化を目的としたAI(人工知能)や機械学習の活用を聞いたところ、実施済企業は29%(5社)、導入検討中企業は65%(11社)に及んだ。実装例としては、生成AIのトライアル的利用や、機械翻訳、検索システムにおける機械学習の活用などをあげた。一方、医薬品開発の課題解決に対するDX/デジタルの活用事例については、AIを活用した予測モデルや、生成AI利用による知識の易検索性、集積性向上などで治験期間の短縮化、コスト低減、開発戦略の最適化などに製薬各社が期待を寄せていることが分かった。
調査は、TF1参加企業17社のDXの取り組みについて、組織、医薬品臨床開発、課題・展望の観点から質問を設定したもの。調査機関は、2023年9月6日~10月6日。回答率100%。
◎AIを利用して作用機序や耐性機構等を考慮した試験デザインを設計 実装例から
医薬品開発効率化のために、AIや機械学習を活用しているか聞いたところ、実施済企業と導入検討中企業をあわせて94%(16社)が前向きに捉えていることが分かった。実装例としては、「腫瘍領域での保有データをもとに、AIを利用して作用機序や耐性機構等を考慮した試験デザイン設計に取り組んでいた」というものや、「臨床イベントの中央判定の自動化、さらに臨床試験の進捗管理システムの進捗の整理・分析等でAIを活用している」との先進的事例が報告されている。
◎AI導入検討事例 生成AI用いた文書作成の自動化、論文検索やデータサマライズなど
一方で検討中の事例としては、生成AIを用いた文書作成の自動化や、論文検索やデータサマライズ、論文からのテキストマイニングやナレッジグラフの活用、安全性情報収集におけるAI活用(SNS 等を通じて得られる情報から AIのアルゴリズムを用い有害事象や品質苦情を抽出する)、さらには当局照会事項へのAIを使用した回答作成等があった。レポートでは、「業務効率化につながっていく可能性がある」と分析している。
◎DX/デジタル化推進の課題 開発費用、維持コスト、利用料などコスト面の懸念
DX/デジタル化を推進するにあたり解決すべき主要な問題点についても聞いた。社内面の問題点としては、コストの課題として、「DXを目指した新たな業務システムやデジタルツール等の開発費用に加え、システムの維持コスト、利用料について懸念がある」と指摘。「費用対効果の観点から、これらの費用を正当化する必要がある」とした。業務効率化の見える化については、「DX による業務効率化、成果の見える化が実は難しく、短期的にはその開発にかかわる費用や人的リソース等のコスト増があるため、推進するためには周囲を説得する強力なドライバー(経営トップによる推進等)が必須である」と強調している。また、グローバル企業としての制約では、「海外に拠点を持つ会社が日本独自でDXに取り組むことにはハードルがある。一方で、海外での取り組みが先行し、日本に導入されるまでに時間的な差が生じている可能性がある」と指摘した。
◎今後の期待や展望 「DCT環境の向上で治験プロセスの効率化と迅速化が進む」
医薬品開発における今後の期待や展望についてのフリーコメントでは、「DCT環境の向上により治験プロセスの効率化と迅速化が進む」や、「電子カルテの標準化や個人情報に配慮したデータ活用制度等のインフラ整備が進むことで、被験者リクルートや RWD の承認申請(外部対照群等)への活用が促進できる」、「実際の患者を対象とする前に仮想試験(バーチャルトライアル)を実施し、治験薬の有効性や安全性を事前にシミュレーションすることで、臨床試験のコストや時間の削減、倫理的観点から試験参加者のリスク抑制にもつながる」、「業務の自動化とデータに基づく意思決定が進み、ニーズにあった開発が進められ、治療アウトカムが向上するとともに医療関係者・試験参加者の負担減が現実化されてい」などの意見が見られた。