日医ら医療関係43団体が決議 骨太方針へ賃金・物価上昇、技術革新対応で財源確保 他産業並み賃上訴え
公開日時 2025/06/05 04:51

日本医師会など医療関係43団体で構成する「国民医療推進協議会」は6月4日、骨太方針2025に向け、「賃金上昇や物価高騰下での逼迫した経営状況、さらには技術革新等に対応し得る」ように社会保障予算の目安対応の抜本的見直しを求めることを決議した。決議では、医療経営がひっ迫するなか、現行の報酬体系では人手不足に拍車がかかると指摘。他産業並みの賃上げをできるよう、診療報酬、介護報酬など「公定価格等への適切な反映」を求めた。そのために十分な財源の確保が必要とした。国民医療推進協議会の松本吉郎会長(日本医師会会長)は、「国民の生命と健康を守るためにも、高齢化の伸びに加え、賃金上昇と物価高騰、さらには技術革新等への対応するための十分な原資が必要だ」と訴えた。
◎他産業並みの賃上げ求める 国土交通省の労働調査では単価を6%引上げも
決議では、医療機関や薬局、介護事業所の経営状況がひっ迫しており、閉院や倒産が相次いでいると指摘。25年度のさらなる補正予算での対応や26年度診療報酬改定前の期中改定も求められている状況として、「補助金と診療報酬の両面からの対応が必要」とした。そのうえで、「診療報酬、介護報酬等について、賃金・物価の上昇に応じた公定価格等への適切な反映」を求めた。
趣旨説明を行った日本医師会の茂松茂人副会長は、診療報酬が賃金・物価上昇に応じた形となっていないため、医療・介護業界では十分な賃上げを行うことができず、他産業に人材が流出している状況にあると指摘。「公定価格をしっかり上げていただくということが重要だ。国土交通省の公共事業での労働調査を見ると、前年に比べて労働単価が6%上がっている。我々の業界においても、公定価格をしっかり上げていただくことが重要であろう」と述べた。
◎消費財など増収分の安定財源活用を
公定価格の引上げのため十分な原資が必要であると言及。「高齢化の伸びに加え、賃金上昇と物価高騰、さらには技術革新等への対応には十分な原資が必要」として、消費税や所得税、法人税などの増収分を新たに安定的な財源として活用する新たな仕組みを構築するよう求めた。骨太方針の記載については、高齢化による増加分に相当する伸びに収める方針が継続されてきた、いわゆる“社会保障予算の目安対応”を廃止し、「賃金上昇や物価高騰下での逼迫した経営状況、さらには技術革新等に対応し得るように目安対応を抜本的に改めた文言とする」ことを求めた。
◎松本会長「医療機関、介護および福祉施設は著しく経営状況がひっ迫している」
松本会長は、「医療機関、そして介護および福祉施設は著しくそれぞれの経営状況がひっ迫している。地域医療支援病院の診療中止に象徴されるように、医療機関の大きなところも閉院が相次いでいる。こうした状況を改善するには、まずは補助金による早期の適切な機動的対応が必要だ。さらに、診療報酬で安定的に財源を確保しなければならない」と強調した。政府与党間で骨太方針2025の決定に向けた議論が佳境を迎えるなかで、「国民の生命と健康を守るためにも、高齢化の伸びに加え、しっかりと賃金上昇と物価高騰、さらには技術革新等への対応を加えるには十分な原資が必要だ。必要な財源を確保することがこれから大変重要になる」と訴えた。
協議会の副会長を務める、日本歯科医師会の高橋英登会長は、「43団体400万人を超える我々がここで頑張らなければ、国民が不幸になるばかりだ。これは我々のためじゃない、国民の幸せのためだ、という大義がある。大儀をもって、しっかりと難局に立ち向かっていかなければならない。日本では国策で医療を行っている。国が我々に目を向けなければ変えることはできない」と述べ、一致団結することを訴えた。
◎日薬・岩月会長「昨今の物価高騰、人件費への対応ができない」
協議会副会長を務める日本薬剤師会の岩月進会長は、「診療報酬や介護報酬は公定価格を基本に運営しているので、昨今の物価高騰、人件費への対応ができない」と説明。さらに急速な人口減少が進む中で、へき地や山間部の医療機関や薬局、介護施設がなくなるリスクに触れ、「必要な医療や介護の提供を続けるためにも、早急な対策をお願いする。スピード感を持って危機的な状況が改善されるよう、本協議会の総意をもって臨んでいきたい」と述べた。
協議会副会長の、日本看護協会の高橋弘枝会長は、「物価上昇やエネルギーコストの増加などにより、多くの医療機関や訪問看護ステーションが厳しい経営を強いられている。それぞれの施設でさまざまな経営努力をしているが、すでにその限界を超えていると言わざるを得ない状況だ」と説明。「診療報酬の期中改定も視野に、現場の実情を的確に反映した制度改革につなげていく必要がある。誰もがどこに暮らしていても安心して医療を受けられる社会を守るために、私たちは医療財源の確保についてこれまで以上に強い声を上げる」と強調した。
◎全日病・猪口会長「緊急事態宣言にも値する状況」 処遇改善、人材確保ができる施策を

四病院団体協議会を代表して挨拶した全日本病院協会の猪口雄二会長は、病院経営の危機的な状況を「数年前、コロナ禍で行われた緊急事態宣言を発するにも値する状況」とした。そのうえで、「原因は物価高騰、賃金上昇に対して十分な診療報酬が手当てされてこなかったこと。過去20年以上のデフレ下では医療関係者の努力によって何とか病院を維持できたが、ここ数年のインフレの状態では現状の改定率ではとても経営が成り立たない。このままにして、医療介護福祉の提供体制を崩壊させてはならない」と訴えた。
そのためには、「従事者の処遇改善をはじめ、人材が確保することができ、さらに医療機関、介護・福祉施設の経営を安定化させる施策が必要だ。骨太方針に記載されてきた高齢化の伸び率、この範囲内に抑制をするという社会保障予算の目安対応を撤廃し、高齢化による医療費の増加分とは別に、物価高騰、賃金上昇、そして医療の技術革新、これらに対応できる診療報酬等の設定が必要だ。このことを、今回のぜひ骨太の方針に盛り込んでいただきたい」と訴えた。
なお、国民医療推進協議会には全国老人福祉施設協議会が今回から参加した。