【World Topics】米トランプ関税差し止め訴訟 原告側主張を認める判決 直後にトランプ政権が即時控訴
公開日時 2025/06/17 04:51
第二次トランプ政権が発令した大規模な関税政策の差し止めを求めて提訴されていた2つの訴訟ケースに対し、2025年5月28日、米国国際貿易裁判所(US Court of International Trade : USCIT)は原告側の主張を認め、トランプ大統領の4つの大統領令を違法のため無効と裁定し、これにかかわる関税政策を差し止める判決を下した。トランプ政権は判決を不服とし、直ちに連邦裁判所に控訴。これを受けた連邦控訴裁判所は、5月29日、控訴審理中は国際貿易裁判所の決定を一時的に停止すると命じたため、一転、関税措置は継続されることとなった。(医療ジャーナリスト 西村由美子)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/25-1812.ORDER.5-29-2025_2522636.pdf
◎米国国際貿易裁判所
USCITはマンハッタンに位置する連邦裁判所で、米国の関税法および国際貿易法にかかわる民事訴訟を裁定する権限を有し、貿易関連事項について広範な管轄権を有し、米国内および国際的に生じる訴訟の審理および裁定を行っている。
本件の担当判事はJane Restani (リーガン大統領の任命)、 Gary Katzmann (オバマ大統領の任命) Timothy Reif(第一期トランプ大統領の任命)の3名であった。
裁定は別々に提訴されていた2つのケースに対するもので、1つは貿易会社等5つの民間企業が共同代理人を立てて提訴したもの。もう1つはニューヨーク、アリゾナ、オレゴン、コロラド、コネチカット、デラウェア、イリノイ、メイン、ミネソタ、ネヴァダ、ニューメキシコ、ヴァーモントの12州連名による提訴で、いずれも、トランプ大統領の関税政策はアメリカ経済に多大な混乱をもたらす恐れがあるだけでなく、大統領令の法的根拠とされている法律(the International Emergency Economic Powers Act : IEEPA 1977)を大きく逸脱しており違法であると訴え、関税政策の差し止めを求めていたもの。
5月28日の判決は、違法ドラッグ問題に加え膨大な輸入超過による債務等の問題が米国の安全保障を脅かす深刻な問題であり国家非常事態にあたるとし、IEEPAが一連の大統領令とそれに基づく関税政策の根拠法となるというトランプ政権の主張を退け、世界諸国に対する10%の基本関税、中国への30%の追加完全、メキシコとカナダからの一部輸入品に対する25%の追加関税等のトランプ政権の一連の関税政策を判決の日から10日以内に差し止めるよう命じた。
ただし、自動車、鉄鋼、アルミニウムなどに関しては根拠法が異なるため、USCITとしては審理せず、商務省に対しTrade Expansion Act(1962)に則った調査を行うよう委ねた。
◎反響 「サプライズ」と報じたメディアも 大統領を相手取った訴えで原告勝訴の例は少なく
貿易裁判所の裁定はいささか驚きをもって迎えられ、中には「サプライズ」と報じたメディアもあった。というのも、米国の大統領はさまざまな法律によって堅固に守られた存在で、そのため、特に現職大統領に対する訴訟はむずかしいというのが通説だからである。実際、過去の判例でも大統領を相手取った訴えで原告が勝訴した例は少なく、特に今回のように大統領側が「国家安全保障上の問題」という用語を持ち出した場合には勝率は圧倒的に低くなる、というのが定説だからである。
そのサプライズを原告とその支持者層はポジティブに受け止め、上級審でも勝てるのではないかとの楽観的な観測を強めている。
原告の1人ニューヨーク州司法長官のLetitia Jamesは「判決の法解釈は明快だ。どんな大統領も自分勝手に税金を引き上げる権限など持っていない」と語り、また企業の弁護団の1人は「大統領といえども無制限の権限が与えられているわけではないという貿易裁判所の判断が示されたことは、関税政策が始まって以来コスト高騰と利益の縮小に悩まされ続けてきた中小企業にとって幸先の良い朗報。これで楽観的な見通しを持ってビジネスが続けられる」と語った。
下院の外交委員会メンバーGregory Meeks(民主党)は「貿易裁判所の判断は、議会がトランプ政権の関税政策措置反対に動くための追い風になる」とコメントし、カナダのMark Carney首相も「貿易裁判所の判決は、トランプ政権の関税政策は違法であると主張してきたカナダの主張を裏付けるもの」と積極的に支持を表明している。
金融市場では5月28日の判決直後に世界中の株式市場が上向き、米ドルが買われたが、国際エコノミストNick MarroはBBCのインタビューに応じて「判決は多くのアジア諸国にとって朗報」としつつも、「自動車とアルミニウム等についての判断が示されるまで韓国と台湾の状況は好転しない」コメント。先行き不透明感は拭えない。
米国の取引先である海外諸国もおおむね慎重な反応である。先月トランプ政権との間に関税に関する合意形成を行なった英国政府は「貿易裁判所の判決は米国の国内問題。しかも裁判は始まったばかり。コメントすべき段階にはない」とメディアの質問を封じ、ドイツ及び欧州連合もメディアの問いかけにはこぞって「ノーコメント」。オーストラリアの輸出入担当大臣Don Farrelの発言「最高裁での裁定が出るまでは気を緩めず、引き続き、関税政策撤廃に向けた交渉をしっかりと継続する」あたりが各国の共通認識であろう。
◎トランプ政権による即時控訴 貿易裁判所の命令は控訴裁判所によって一時差し止め
さて、事態はといえば、上述の通りトランプ政権による即時控訴で「判決の日から10日以内に関税政策を停止・撤回すべし」との貿易裁判所の命令は控訴裁判所によって一時差し止めとなっており、トランプ政権の関税政策は現在も継続中である。