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慶応大・中村教授 CAR-T細胞療法含む再生医療等製品「日本で製造するメリット大」 アジア展開も視野

公開日時 2025/07/24 04:52
慶応義塾大学大学院経営管理研究科の中村洋教授は7月23日のメディアラウンドテーブルで、CAR-T細胞療法を含む再生医療等製品の多くが海外で製造されていることに対し、「患者への治療効果や、円安など為替影響に伴うコスト増の観点から、その製造を日本で行うメリットが大きい」との見解を表明した。また、「研究開発と製造が一体となったエコシステムを構築し、さらにアジア市場に展開することで地政学的な競争優位性を発揮できる」と強調。再生医療等製品の供給体制や人材育成など、「国の中期的な視点での支援」を求める考えを明言した。

この日は、「日本が再生医療等製品分野のリーダーとなる上で必要な視点とは~CAR-T細胞療法を例に考える医療制度や技術革新の在り方」(主催・ブリストル・マイヤーズ スクイブ)をテーマにメディアラウンドテーブルが開催された。

◎CAR T細胞療法に見る製造プロセスの課題 「物価高で日本の病院は赤字覚悟」と懸念

中村教授は、CAR-T細胞療法をめぐる3つの懸念に言及した。1点目は、CAR T細胞療法に見る製造プロセスの課題だ。再生医療等製品の製造は、多くが米国など海外で行われている状況にある。CAR-T細胞療法の場合、海外輸送に伴うタイムラグや細胞劣化のリスクを抱えることになると中村教授は指摘する。さらに、世界的な物価高騰に伴い、製造コストの上昇が予想されるとも指摘し、「この状況だと日本の病院がコストを持ち出して、赤字覚悟で細胞培養を米国に依頼することになりかねない」と強調。「CAR-T細胞療法を受ける日本人患者のアクセスを、お金の面から制限をかけることになりかねない」との懸念を表明した。

◎研究開発と製造が一体となったエコシステム構築

2点目の懸念について中村教授は、“エコシステムの構築”をあげた。中村教授は、「日本には“モノづくり”の力がある」と強調。「高水準の研究力に加え、これまでのiPS関連投資による研究開発関連経営資源の蓄積もある。これら“力”を周辺産業(自動化、細胞培養加工など)と連携、活用することで、研究開発と製造が一体となったエコシステムを構築できる」と見通し、「今後の再生医療分野を牽引する可能性がある」と語ってくれた。

◎“円安”は逆に、日本からアジア市場への展開で競争優位性を発揮できる

3点目の懸念は、“円安”など為替影響だ。中村教授は、「逆に円安であれば、日本で再生医療等製品を製造し、アジア向け輸出する際に武器にならないか」と提起。「安くて高品質な再生医療等製品をアジア中心に海外に輸出することで日本の存在感を高められるのではないか」と述べ、日本からアジア市場への展開で競争優位性を発揮できるとの見方を示した。

中村教授は、CAR-T細胞療法を含む再生医療等製品については、「国内の製造・供給体制の整備など、戦略的な取り組みが必須」と強調。「再生医療分野での国際的競争力を強化するためには、早期の国内体制整備が鍵となる」と述べ、必要な人材育成やAMED等による重点投資、補助金制度の活用など公的資金の活用、さらには、病院など臨床現場のインセンティブ整備としての薬価・診療報酬の適正な評価を国に求める必要性を強調した。このほか投資の面からは、政府の「対日直接投資プログラム」を追い風に海外投資を巻き込むことも一考とした。

◎藤田医科大・八代教授 「製造原価の大部分は人件費」企業努力だけでコスト削減には限界

藤田医科大学橋渡し研究支援人材統合教育・育成センターの八代嘉美教授は、再生医療などをめぐる「いまそこにある危機」に言及。「人口が減少し、経済的な活力が低下していく中で、新しい医療技術を享受する機会が減少する」や「他国で承認されている治療がうけられない」などを例示し、「新しい医療をつくっても社会にとどかないということが再生医療研究の中で切実な課題として捉えられている」と強調した。

一方、八代教授は再生・細胞治療製品実用化の障害として、「製造原価の大部分は人件費が占めるており、価格を押し上げている」と指摘。製品コストにおける人件費が約7割を占めると説明し、人件費の内訳の5割程度は有効性・安全性を調べるための、「規制対応に充てられている人材だ」と説明した。その上で八代教授は、「企業の努力だけではコスト削減にも限界がある」と指摘。さらに、サプライチェーンの複雑さから、「それぞれの工程での確認プロセスが必要となり、人件費も含めコスト高の要因になっている」と明かしてくれた。

八代教授は課題解決の方策として、一つの解として「QbD(クオリティ・バイ・デザイン)製造」を提案。再生・細胞治療用製品にQbD手法を導入する検討は始まっているとした。また、再生医療当製品の開発企業が抱える課題として、ベンチャーでは探索するだけの資金的・時間的体力はないなど現実的な課題を指摘し、その担い手としてCDMOの可能性があるとした。一方で、再生医療・細胞治療産業化加速の人材教育も始まっているとし、「開発からのフィードバックを活かして基礎研究の質を向上させる仕組みづくりや人材育成を行う必要がある」と提唱した。
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