中医協 敷地内薬局の特別調剤基本料Aの除外規定「削除含め検討を」 診療側・森委員「グループ減算も」
公開日時 2025/10/27 04:51
中医協総会は10月24日、個別事項として敷地内薬局を取りあげ、特別調剤基本料Aの適用範囲を見直すことを診療・支払各側が了承した。特別調剤基本料Aは従来の医療モールから除外規定(ただし書き)が設けられており、不適切な事例やルールをすり抜ける事例が散見されている状況にある。診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「公平性の観点からは、ただし書きの削除も含めて検討すべき」と指摘した。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「問題の改善が見えないのであれば、グループ減算も含め、あらゆる措置を引き続き、検討していく必要がある」と強い姿勢を示した。今後、医療経済実態調査の結果を踏まえて議論を進める方針。
◎従来から存在する医療モールへの配慮で「ただし書き」による除外規定
敷地内薬局をめぐっては2024年度診療報酬改定で、特別調剤基本料A(5点)として評価を下げた。特別な関係を有する保険医療機関に係る処方箋による調剤の割合が5割を超えることを施設要件としている。20年度診療報酬改定において、特別な関係の適用範囲を病院から診療所の敷地内に拡大する際に、従来から存在する医療モールへの配慮として、施設基準において「ただし、当該保険薬局の所在する建物内に診療所が所在している場合を除く」(ただし書き)という除外規定を設けられた。
ただし書きにより、特別な関係のある病院の敷地内にある保険薬局の同一建物に、別途診療所を誘致することで、特別調剤基本料Aから逃れる薬局が存在する。厚労省保険局医療課はこの例を列挙。例えば、一つのビルに複数のクリニックや薬局が入居する医療モール(ビル型)では、ただし書きの規定により、特別な関係の有無に関わらず、特別調剤基本料Aに該当しないことになる。また、オフィスビルやマンション内に複数医療機関が存在する場合も特別調剤基本料Aに該当しない。一方で、現行制度では、薬局の所在する建物が、薬局の関連会社が所有する大型商業施設である場合、施設内の診療所に通院していない人も多く訪れるが、薬局はその施設に入居する医療機関との間で特別な関係となり、ただし書きがなければ、特別調剤基本料Aの適用となるとした。
◎病院が所有する敷地内に全く別の医療機関を開設すれば除外に
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「残念ながら不適切な事例やルールをすり抜ける事例が散見されており、敷地内薬局については、引き続き適正化に向けた対応が必要」と強調。「経済的規制に関しては、賃貸借についてあたかも特別な関係には見えない方法で、また、構造的規制に関しては、病院が所有する敷地内に全く別の医療機関を開設すれば敷地内薬局として取り扱われないという、あたかも規制の趣旨を逸脱するかのような方法ですり抜けている事例が存在することは、極めて残念」と断じた。そのうえで、「敷地内薬局の取り扱いにかかわる除外規定は、あくまでも従来からあるものに対する配慮から設けられたもので、こうしたルールをすり抜けるケースに対しては、診療報酬上のルールの厳格化や、是正が必要。敷地内薬局については、経済的規制ルール、構造的ルールが設けられており、あくまでもそのルールに従い、判断すべき」と強調した。
診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「病院での敷地内薬局の適用除外に用いられている事例は、特別調剤基本料を回避する、いわゆる抜け道」と指摘。ただし書きによる除外規定については、「20年度改定で、ただし書きが設けられた後に、あえて特別調査基本料Aの適用を回避する目的で同一建物内に診療所を誘致した事例と、そうでない事例への対応は異なるべきであるかどうかをしっかり議論するべき」と指摘。「公平性の観点からは、ただし書きの削除も含めて検討すべき」と述べた。
◎支払側・松本委員「医療モール含めて特別な関係の場合は特別調剤基本料A適用が原則」
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「ただし書きにつきましては、第三者や関連会社を介した賃貸の場合も、特別な関係に該当することを明確化すべき」との見解を表明。その上で、「同じビルに医療機関があるかないかかにかかわらず、特別な関係があれば、経済的に独立しているとは言えない。複数の医療機関が同じ敷地や同じビルにある場合、当然処方箋集中率も低くなるが、地域の処方箋を面で受ける機能を十分に果たしているかというと、それも必ずしも言えない。医療モールを含め、特別な関係にある場合には、すべて特別調査基本Aを適用することが原則」と強調した。
◎医療資源少ない地域での医療機関・薬局誘致 支払側・松本委員「通常の調剤基本料を例外的に」
一方で、医療資源の少ない地域で、自治体の有する土地に医療機関、薬局を有する場合は現行では特別な関係が発生しているとみなして、保険薬局は特別調剤基本料Aを算定することとなる。このため、保険薬局が参入を断ったり、参入したとしても経営が厳しく存続が危ぶまれたりしている状況にある。
診療側の森委員は、「誰がどこに、どんな目的で敷地内薬局を出店しようと、経済的、構造的、機能的な独立は不可欠。そのことを前提とした上で、離島やへき地などのような無薬局地域で、住民が医薬品のアクセスに困っているケースについては、医薬品提供体制を確保するために、行政が関与する対応などを考える必要がある」と述べた。診療側の江澤委員は
「実際の事例を十分分析のうえ、どういった配慮が必要なのか、見直しを検討していく必要がある」との見解を示した。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「自治体が運営する医療機関の敷地内に薬局を誘致しなければ、必要な薬を患者が受け取れない事態も想定される。条件を明確に定めることや、機能として独立性を担保、妥当な賃借料で契約することを前提として、通常の調剤基本料を例外的に認めることは、理解する」と述べた。
支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は、「現状の課題を踏まえて適切に見直していくことが必要だが、医療資源の少ない地域などにおいては、地域の実状を踏まえた配慮は必要」との見解を示した。
◎薬学管理料の評価 診療側は現行維持を主張 支払側・松本委員「機能ごとに評価の妥当性判断すべき」
また、敷地内薬局では、抗悪性腫瘍剤の注射を受けている外来患者に対する薬学的管理・指導で算定できる特定薬剤管理指導加算2など、薬学管理料に対する評価を算定できない。
診療側の森委員は、「高度な医療を提供する病院の近隣の薬局で、高度な薬学管理が求められることは当然。敷地の中か、敷地の外かに関係のないところだ」と指摘。「医薬分業の理念に鑑みて、診療報酬上の評価を適正化してきたもので、薬局の機能によらず、現行の評価を堅持すべき」と主張した。
診療側の江澤委員は、24年度薬価改定の議論について、「医薬品の備蓄などの効率性や、同一敷地における医療機関との関係性などを踏まえてのことだった」と振り返った。そのうえで、「前回の考え方を踏襲すると、敷地内薬局において、がん患者へのフォローアップなど、高度な薬学的管理を行っている場合においても、それは想定されていたことであり、さらに、病院薬剤師の確保が極めて重要な課題であることも踏まえ、これまでと同様の評価を継続することで、よろしいかと思っている」と述べた。
一方で、支払側の松本委員は、「特別調剤基本料Aの薬局の中には、専門性の高い薬学的管理を行っている薬局があることは、事実として受け止めている。がん患者のフォローアップ等個別の機能ごとに、評価の妥当性は判断すべき」との見解を示した。
今後、医療経済実態調査を踏まえた議論を進めるが、診療側の森委員は、「敷地内薬局は、保険薬局が果たすべき機能とは全く関係ない、例えば、年間2億円を超えるような超高額な賃料や、40億円にも上る立体駐車場付きヘリポートの整備などを提供していることが問題となり、これまで強い対応が行われたものと記憶している。そのようなことをしていれば、医療経済実態調査において、当該施設の損益状況が悪化しているように見えたとしても不思議ではない」と早くも牽制した。
また、敷地内薬局が属する大手調剤グループすべての薬局に減算を適用する“グループ減算”にも言及。「グループ減算について中医協で議論を行い、結果的に答申書付帯意見に落ち着いたが、敷地内薬局問題の改善が見えないのであれば、グループ減算も含め、あらゆる措置を引き続き、検討していく必要がある」と強調した。
◎支払側・松本委員「不適切な医薬分業を止めるにも院内処方と院外処方の格差是正すべき」
支払側の松本委員は、「歴史的には1970年代に医薬分業を政策的に推進するために処方箋料が大幅に引き上げられたと承知している。今やこの分業率が70%を超え、政策目的が達成できたと思う。不適切な医薬分業を止めるためにも、院内処方と院外処方の格差も是正すべき」と主張した。
これに対し、診療側の江澤委員は、「これまでそれぞれの院内処方、院外処方、あるいはそのプロセス、手間を踏まえた上で経緯として、診療報酬点数が定まっている。そんなに軽々しくいきなり格差是正という話ではないと思う。いずれにしても、我々としては大変好意的に捉えておりますので、よろしくお願いする」と応じた。