
日本医師会は9月17日の定例会見で、緊急調査の結果を公表し、2024年度に医療法人立の診療所の約4割が赤字だったことを明らかにした。近いうちに廃業を考えている診療所も14%あった。日医の松本吉郎会長は、「物価高騰、人件費の上昇の中で、病院、診療所をとりまく経営環境は極めて厳しい状況にある」と説明。「このままでは、診療所が事業を断念し、継承もできず、病院と共に担っている地域の患者さんへの医療提供を継続できなくなる」と危機感を露わにした。そのうえで、「次期診療報酬改定の大幅アップ、そして補助金、または期中改定による緊急措置が必要であり、今後も強く国に求めたい」と主張した。
調査は、23年度、24年度の2年分の診療所の経営実態を早急に把握し、今後の議論に備えることを目的にWeb調査と郵送調査を併用する形で実施した。日医会員の診療所管理者(院長)7万1986人が対象で、有効回答数1万1103人(医療法人立:6761、個人立:4180)を得た。調査期間は6月2日~7月14日。
◎医療機関立・個人立ともに減収減益 直近に近づくほど経営状況が悪化
その結果、医療機関立・個人立ともに減収減益であることがわかった。医療法人立の医業利益率(平均値)は23年度の6.7%から24年度に3.2% に悪化。経常利益率(平均値)も8.2%から4.2%に半減した。中央値でみると、医業利益率(中央値)は4.8%から1.1%、経常利益率(中央値)は6.2%から2.1%で、利益率の中央値は平均値より約2ポイント低く、最頻値の階級が0〜2%未満であることから、平均値で見るより実際の経営状態は厳しいことが示唆された。城守常任理事は、「平均値は医療機関経営の実態を正確に把握できる数字ではない」として、中央値などで医療経営の実態を把握する必要性も指摘した。
医療法人立の経営状況は、特に、決算期が直近に近づくほど悪化。25年1~3月の間に24年度の決算を迎えた診療所は医業利益率が2.8%、経常利益率が3.2%まで利益率が低下していた。赤字の医療機関も23年度の24.6%から39.2%へと拡大した。
一方、個人立の医業利益率は23年度の30.8%から24年度に26.4%、経常利益率は31.1%から26.0%と対前年で19.5%減少した。結果を報告した城守国斗常任理事は、「個人立の事業所は、医療法人の事業所と収支構造が違うため、利益の意味が異なることに留意が必要だ」と指摘。個人立では事業者所得(開設者の報酬)が損益計画書の費用ではなく利益に含まれるため、医療法人に比べて利益率が高くなるなどと説明した。
医療法人立で医業収益は2.3%減少、医業費用は1.4%増加。個人立では医業収益が3.7%減少、医業費用は2.4%増加していた。医業費用の項目として、給与費、医薬品費・材料費が医療法人立、個人立ともに対前年比で増加していた。
◎診療科別でも医業利益率、経常利益率が悪化 コロナ補助金・診療報酬特例の影響も

診療科別にみても、ほぼすべての診療科で医業利益率、経常利益率が悪化した。特に発熱外来など感染症対策を実施してきた内科、小児科、耳鼻咽喉科では悪化の傾向が強くみられた。
城守常任理事は、「24年度診療報酬改定の影響も若干あると思うが、コロナ関連補助金や診療報酬上の特例措置廃止の影響が大きい」との見方を示した。
調査では、経営課題として「物価高騰・人件費上昇」、「患者単価の減少」、「患者減少・受診率低下」をあげる診療所が半数以上を占めた。このほか、「施設設備の老朽化」をあげる声が41.3%、「近い将来、廃業」も13.8%の声があった。
医療機関経営が厳しさを増すなかで、城守常任理事は、「少なくとも、人事院勧告のアップ率(+3.62%)をみても、一般の企業の方と比べて医療関係のアップ率がわずか2%程度。喫緊にはこの補填が必要だ。また、物価が上昇していることを考えると期中改定がよいと思うが、いまの政治では難しい面もある。少なくともしっかりとした補助金による支援は必要だ」と強調した。
◎赤字診療所 25年度は5割との予測も 診療報酬の拡充を訴え
松本会長は、「診療所の多くの先生方から経営が非常に苦しい、何とかしてほしいという切実な声が私の方に届いている」と説明した。特に、決算月が直近に近くなるにつれ、経営環境の悪化が進んでいることが示されたことに触れ、「おそらく今年度の状況は、もっと厳しい状況になっていることが推測される。診療所では、今年度に対しては、赤字の診療所が5割ということになりかねない」と危機感を示した。そのうえで、「早急に補正予算による支援と期中改定。もし、それがどうしても叶わないのであれば、物価の高騰、人件費の上昇、医療の高度化、高齢化の伸びの4点を中心に、診療報酬でしっかりと引き上げていただくことが重要だ」と訴えた。
◎人件費高騰が医療機関経営直撃「地域医療が壊れるないように診療報酬に上乗せを」
人件費の高騰の医療機関経営への影響にも言及した。「病院や診療所はどうしても人件費を削れない状況にある。特に病院は人員配置が決まっているため、効率化を図っても人を減らして対応することができない」と説明。医療機関では人件費率が40~60%と高いことから、「人件費の高騰は医療機関経営にこれからさらに直撃すると思う。次期改定ではそういった対応をしっかり上乗せしていただき、地域医療が壊れないようにしていただきたい」と訴えた。
「これだけ赤字が増えると倒産する、承継できないことも起こってくる。医療費削減ありきの政策は、地域医療にとっては大打撃で国民のためにならない」と指摘した。人件費が高騰するなかで、看護師などが自由診療を行う医療機関に流出している減少にも触れ、「本末転倒のような状況になっているのでは」とも口にした。