中医協 長期収載品のG1/G2ルール適用前倒し「5年」の声も 業界は特許期間の薬価維持セットで
公開日時 2025/10/30 09:02
中医協薬価専門部会は10月29日、2026年度薬価改定に向けて、特許切れ後の長期収載品の薬価引下げルールを簡素化して適用を前倒しする方針を診療・支払各側が了承した。G1/G2ルールは原則、後発品上市10年後から段階的に薬価が引下げられるが、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、選定療養を引き合いに、「後発品への置き換え期間は5年間」と踏み込んだ。厚労省はG1/G2ルールの前倒しにより、“長期収載品依存からより高い創薬力を持つものへと転換”を加速させたい考え。業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬執行役員渉外調査担当)は、「先発品企業にとっては、大変厳しい内容」と牽制したうえで、「特許期間中の薬価維持に向けた検討を確実に進めていただく」ことを検討の要件として訴えた。
◎診療側・森委員「シンプルなルールに見直すタイミングが来ているのではないか」
現行ルールでは、後発品上市5年後からZ2、10年後からG1/G2ルールが適用されている。診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「後発品への置き換え率が高まっていることを踏まえ、長期収載品の価格引下げルールについては簡素化し、また早期に適用することをご提案いただいたと受け止めている。こうした方向性は長期収載品への依存から脱却し、より高い創薬力を目指す方向にも合致していることから、異論はない。ただし、必要な医薬品が安定的に供給されることを大前提とした上で、進めるべきこと」との考えを示した。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「G1/G2ルールが導入された当時と現在では、後発品の使用環境が大きく異なっているのではないか。また、長期収載品の選定療養の施行により、後発品への置き換えが進んでいること、製薬産業の構造転換を推進する観点から、Z2/G1・G2/Cルール全体を見直して、シンプルなルールに見直すタイミングが来ているのではないか」との見方を示した。具体的には、「例えば、G1/G2ルールを一本化した上で、段階的な引下げ期間や引下げ率の見直しなどが考えられる。ただし、安定確保薬品AとB、またその他、特に安定供給が求められるような医薬品については、別に考えてもいいのではないか」と提案した。そのうえで、見直しに際しては、「特許期間中の革新的新薬のイノベーションの評価とセットで行うべき」と述べた。
◎支払側・松本委員 G1/G2適用前倒しで「Z2は廃止すべき」「選定療養の拡大を」
G1/G2ルールは原則後発品上市後10年を経過してからとなっていることについては、「後発品置き換え率が高まっている現状も考慮したZ2のあり方も踏まえ、10年の期間がどこまで短縮できるのか検討してはどうか」(診療側・江澤委員)、「(選定療養の導入も踏まえ)今後は、後発品への置き換え期間は5年間と認識し、そこから先は後発品価格まで薬価を引下げる期間に入るのが自然。Z2は廃止すべき」(支払側・松本委員)との声が診療・支払各側からあがった。支払側の松本委員はあわせて、「選定療養の負担を後発品との価格差の今の4分の1から拡大し、患者にインセンティブを利かせつつ、後発品の増産準備を早期から進めていただき、新薬メーカーが速やかに長期収支への依存から抜け出せるようにすべき」とも主張した。
◎G1/G2の一本化 Z2・Cのあり方も議論に
G1・G2ルールの一本化も議論の俎上に上った。支払側の松本委員は、「後発品が普及している現状では、時間をかけて価格差を縮小し、なおかつ最終的にまだ一定の価格差を残す必要性は乏しく、一定時で薬価を下げることもあり得る」との考えを示した。G2は、後発品への置換えが困難であり、市場からの退場が困難な長期収載品が対象とされているため、支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は、「患者への影響については見ていく必要がある」と指摘した。
後発品上市後5年から適用されるZ2とCはいずれも、後発品置換え率に応じて、引下げ率が2段階設定されている。診療側の江澤委員は、「現行の運用状況を見た上で一本化が可能かどうかを検討してはどうか」と表明した。
◎薬価の下げ止めや円滑実施係数 診療・支払各側が“廃止”論
先発品と後発品の薬価の逆転についても議論となった。23年度、24年度薬価改定で行われた不採算品再算定による後発品の価格引上げなどで、薬価が逆転しているものがある。G1の適用が完了し、後発品の加重平均値まで価格が引き下げられた長期収載品も登場している。
現行ルールでは、長期収載品の薬価の下げ止めや円滑実施係数が設けられているが、診療側の江澤委員は、「両者の適用事例は極めて少数であり、これらのルールの必要性については、廃止する方向でやむを得ない」との考えを表明した。支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「価格差による置換えを5年間で終了した後は、必ずしも薬価の逆転を防止する必要性はない。さらに、特許期間中に投資を回収する考え方に立てば、特許切れから5年以降まで、長期収載品による収益の減少に配慮する必要性もないと考えている。そのため、現在の下げ止めや円滑実施係数については廃止だ」と述べた。
◎バイオ先行品の引下げ バイオAGの有無関係なくG1/G2適用を
バイオ先行品への引下げルールの適用についても議題にあがった。現行ルールでは、バイオAGが収載されている場合に限りG1/G2が適用されているが、AGの有無によらずG1/G2の適用をすべきとの声が診療・支払各側からあがった。
診療側の森委員は、「バイオ先行品についても、特許が切れた新薬の適正化を図るという観点から、バイオAGの収載の有無にかかわらず、引下げルールの適用を検討すべき。検討にあたっては、化学合成品との違いを踏まえて、どのようなルールとするのがいいか、慎重な検討が必要だ」と述べた。支払側の松本委員も、「バイオシミラーの置換えが一定程度進んでいるものもある。バイオAGが収載されている場合だけでなく、G1ルールを適応すべき」と強調した。
◎藤原専門委員「先発企業には大変厳しい内容が含まれている」
業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬執行役員渉外調査担当)は、「先発品企業にとっては、大変厳しい内容が含まれているというふうに認識している」と牽制したうえで、「長期収載品から後発品への速やかな置き換えを行うことに異論はない」と述べた。そのうえで、「その際には、特許期間中の薬価維持に向けた検討を確実に進めていただくとともに、後発品の安定供給に支障をきたさない形でご対応いただけますよう、よろしくお願いを申し上げる」と述べた。