厚労省 新薬創出等加算の名称変更と長収品「適正化」で新たな薬価制度へ 産業構造改革にアクセル
公開日時 2025/11/20 05:32
厚労省保険局医療課は11月19日、新薬創出等加算については対象品目を明確化して透明性を高め、特許期間後はG1ルールを5年前倒しする新たなスキームを提案した。特許期間中の薬価は維持する一方で、長期収載品の薬価を「適正化」する。長期収載品に依存するビジネスモデルからイノベーションを創出するビジネスモデルへの転換を強力に促す。市場拡大再算定については、原則、小児、希少疾病の効能等の追加のみをもって、対象品目に該当すると判断しないことを明確化することも提案し、イノベーション促進のメッセージも込めた。外資系企業などから批判や意見を呼んだ新薬創出等加算と特例拡大再算定(市場拡大再算定の特例)は名称を変更。海外にも、イノベーションを促進する新たな制度として発信していく姿勢を示した。
◎新薬創出等加算 新規作用機序の要件明確化へ 診療・支払各側から「妥当」との声
厚労省はこの日の中医協に、「新薬のライフサイクルと薬価」として論点を提示した。新薬創出等加算については、新規作用機序医薬品で革新性・有用性が認められた品目は収載時に適用されてきたが、「薬価収載時には有用性系加算の対象となり得る」として、対象品目から削除し、新たに薬価収載される医薬品については加算を適用しないことを提案した。
「品目要件の明確化、透明性の観点から賛同する」(診療側・江澤和彦委員・日本医師会常任理事)、「全体的に運用を明確化する方向と受け止めるので推進していただきたい。新規作用機序に関する要件を削除することは、妥当」(支払側・松本真人委員健康保険組合連合会理事)と賛同する声が診療・支払各側からあがった。診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「イノベーションの推進や評価に逆行しないよう、24年度薬価制度改革で充実した算定時加算による対応を継続していくべき」との見解を示した。
新薬創出等加算の名称変更にも前向きな受け止めが聞かれた。診療側の江澤委員は、「わかりやすい名前としていただければ。外国表記で分かりやすいということもイメージして検討していただきたい」と表明した。
◎市場拡大再算定 運用明確化へ 企業の予見性向上に期待も
市場拡大再算定についても、これまでの運用を明確化することを論点にあげた。「原則として、小児、希少疾病の効能等の追加のみをもって、市場拡大再算定の対象品目に該当するとは判断していない」ことや、「市場拡大再算定の類似品について、再算定対象品が新薬の場合、長期収載品については、再算定対象品と市場における競合性が乏しいと認められるものとし、類似品としては取り扱っていない」運用を明確化することを提案。診療側の森委員が「企業の予見性が高まり、企業にとって、希少疾患、小児の開発が促進されることが考えられるため、賛同する」と述べた。
◎「予想販売額10倍以上、年間3000億円超」最大66.7%引下げ 特例再算定の新ルール
年間1500億円超の高額医薬品の対応も論点となった。これまで、ゾコーバやレケンビなど個別品目で対応されてきたが、「年間販売額が予測販売額から10倍以上かつ3000億円超に急拡大した場合に限り、引き下げ幅の上限値を▲50%から引き上げ、▲2/3(66.7%)とする」ことをルール化することを提案した。また、年間1500億円超と予想される品目については、薬価算定方法や2年度目の販売予想額に関わらず、四半期での速やかな再算定の適否を判断するため、使用量を把握することも提案した。
支払側の松本委員は、「個別対応してきたものをルール化するということで、企業の予見性も高まるので妥当だ」と表明。支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「ゾコーバやレケンビ、ケサンラのように、高額かつ市場規模が一定以上の医薬品については、保険財政への影響を鑑み、四半期で使用量の把握を行い、再算定の適否を確認すべきと考える。その際、引下げ幅の上限値を引き上げることについても賛同する」と述べた。一方、診療側の森委員は、「引上げ幅の上限値については、業界からの意見も踏まえつつ、検討していくべき」との考えを示した。
◎新創品の累積額控除 診療側は現行維持 支払側は「後発品収載と同時に」
一方で、新薬創出等加算の累積額控除や市場拡大再算定のタイミングをめぐっては、診療・支払各側で意見が分かれた。
新薬創出等加算の累積機額控除は現行制度では、2年に1回とされているが、2025年度薬価改定では実施されている状況にある。事務局は、「後発品が収載された場合は速やかに価格を引き下げる制度の趣旨」に加え、「頻回の薬価変更による医療機関・薬局・卸の事務負担の増大や価格交渉への影響」を考慮する必要性を指摘して論点にあげた。診療側の江澤委員は、「頻回の薬価変更による現場の影響を考慮して、現行の扱いを維持するべきだ」と指摘。支払側の松本委員は、「後発品の薬価収載と同時に実施すべきだ」と改めて主張した。
◎市場拡大再算定の頻度見直し 診療側は現行制度維持を訴え 支払側は「速やかな見直しを」
市場拡大再算定と特例拡大再算定については、効能追加等がなされた品目については、市場規模350億円超のものに限り、新薬収載の機会で薬価の引下げがなされてきた。これまで4回(四半期再算定)だったが、新薬の薬価収載の頻度が7回に増えたことを踏まえて頻度が論点となった。診療側の江澤委員は「現場の影響を考慮して、現行の扱いを継続すべき」と指摘。診療側の森委員は、「頻回の薬価変更による薬局、医療機関、卸の事務負担や価格交渉への影響はもちろんだが、市場拡大再算定の対象となることにより、薬局、医療機関で在庫している医薬品の在庫価値減少にも影響する」と反発。適用される医薬品が高額であることから、「現行の頻度が妥当と考える。現場にも配慮した制度となるよう、検討すべき」と強調した。
一方、支払側の松本委員は、「この制度が適用される品目は、それほど多いとは考えられず、また、医療現場では新薬と一緒にシステムを更新し、価格交渉をすることも考えられますので、ぜひ、速やかに薬価の見直しをしていただきたい」との考えを示した。
◎長期収載品の「適正化」 G1は後発品上市後5年に前倒し G2、Z2は廃止
今回の制度改革で柱とも言えるのが、「長期収載品の適正化」だ。現行制度では、後発品の置換率に応じて、後発品上市後5年に「Z2」、10年後にG1/G2がスタートする仕組みだった。一方で、長期収載品の選定療養が後発品上市5年以降の品目が対象となっており、制度の見直しの必要性を指摘する声が出ていた。
事務局は、長期収載品の段階的な引き上げをG1に一本化し、適用を後発品上市から「5年後」に前倒ししすることを提案した。G1ルールが発動する後発品価格の加重平均値の2.5倍から、2年後に2倍、4年後に1.5倍、6年後に後発品価格の加重平均値まで引下げる。これに伴い、G2とZ2、Cの区分は廃止する。ただ、後発品シェアが低くG1による引下げを受けない品目等については、実勢価改定に加えて、2%の追加引き下げを行う。事務局は制度改革を通じて、「イノベーションの推進に向けて、長期収載品に依存するビジネスモデルからの脱却を促進する観点から、安定供給にも配慮した上で、長期収載品の薬価の更なる適正化を⾏う」ことを論点にあげた。
診療・支払各側は制度の趣旨に賛同したが、診療側委員からは、安定供給に対する配慮を求める声があがった。診療側の江澤委員は、「長期収載品のさらなる適正化の姿勢には賛同するが、医薬品が現場に届かなくなるようでは、本末転倒だ」と指摘。「医薬品の安定供給への配慮、後発品への置き換えが困難な長期収載品についての慎重な議論が必要であること。後発品が普及し、長期収載品が撤退するような場合には、メーカーが保有している有効性や安全性に関する情報の承継が必要になることなど、患者さんへの治療にも影響するところなので、薬価制度に限らず、厚生労働省として、しっかりと対応していただきますよう、お願いする」と求めた。
診療側の森委員は、「イノベーションを推進するため、長期収載品に依存させないような薬価制度にしていくことに関しては、問題ない。ただし、安定供給に配慮することと、そのような薬価制度にする場合、算定時における加算と、イノベーションの評価とセットで進めていかなければならない」と指摘した。
支払側の松本委員は、「前回の議論が反映されており、この方向で進むべきだ」と述べた。支払側の奥田好秀委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)は、「適正化によって得られる財源は、着実に新薬のイノベーションの推進に振り振り向けていくことが重要だ」と注文を付けた。
◎藤原専門委員 市場拡大再算定の共連れ 改めて「廃止」訴え
業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬執行役員渉外調査担当)は、市場拡大再算定について言及。「国民皆保険の持続性の重要性について理解しているが、その方法としては、特定の品目に負担が偏るものであり、イノベーションの評価や、ドラッグ・ラグ/ロスの解消といった観点も十分に考慮いただき、丁寧かつ慎重な議論が必要だ」と指摘。市場拡大再算定のいわゆる“共連れ”については、「長期収載品に限らず、すべての類似品にかかる問題。他社品の売上げ規模など、外的要因により発生し、予見可能性が極めて低いことは、継続的な研究開発投資を行い、創薬イノベーションを推進する上で、重大な阻害要因の1つにな。廃止に向けた検討をお願いしたい」と改めて訴えた。